第580話「異世界の娘・その2」
そこから暫くは探し歩いたりもしたが、見つからない事に心が折れ山奥に小屋を作り隠遁生活をしていたらしい。
再始動したのはここ10年位のごく最近で、玉砕覚悟でダークフェアリーを長谷川くんと二人でやっつける考えにしかならなかったと言う。
だが彼女の間違いは、長谷川くんのレベルや魔法技術を知らなかった事だ。
彼が勝てない以上、彼女は敵わない……
そして、トレンチのダンジョンではダークフェアリーは無敵だと言うその理由を知らなかった。
彼女は長谷川くんの元に行く前に、最悪なチート状態のダークフェアリーに挑んで負けた。
そして何処かのダンジョンのコア部屋に閉じ込められる羽目になったらしい。
コア制御の役目だったが、ダンジョン作りの失敗が重なり埋め込まれずに済んでいた様だ。
それからだいぶ後に、ダークフェアリーがトレンチのダンジョンから帰ってきた。
なにか違和感はあったが、弱体化しているとは思ってもみなかったらしい。
彼女自体もダンジョンに長期間居たせいで、相当心労が溜まっていたせいだろう。
そして数日前にダークフェアリーに連れられてトレンチのダンジョンに向かった。
その時に『異世界のガキを廃棄処分にして、代わりの制御キーにお前を埋め込む』と言われたそうだ。
彼女はこれが最後のチャンスと思っていたが、ダークフェアリーはコア部屋に入ることさえできず仕舞いだったと言う。
当然だ……今あそこに入れるのは僕だけだ。
その結果、イラつきまくるダークフェアリーと人工ダンジョンに向かった様だ。
そして絶望と諦めの中コア部屋に戻ると、突然現れた冒険者にダークフェアリーが封印される所をみて、夢か幻でも見て居ると思ったらしい。
そして精神的に擦り減っていた彼女は気絶して、気が付いたら今に至るらしい。
その話を聞いてでは無いが、僕は長谷川くんから貰った球体は誰にも触らせないことにした。
ミサが中から色々情報を得て、ダークフェアリーに仕返しをする為に使えばたしかに気は晴れるだろう。
しかし万が一にも最悪な方向に動きダークフェアリーが5体満足無事に解放された場合、球体を持ち真っ先に向かうのはコア部屋だ。
そうなれば勝ち目はなくなり、待つのはダンジョン・スタンピードしかない。
そしてジェムズマインの街は戦火に包まれるだろう……それだけはあってはならない。
少なくともあのダンジョンのコアを破壊するまでは、誰にも触らせてはならない。
コアを壊してしまえば、ダークフェアリーがどうなるかもわからないが……
それに恨みを晴らすなら、決して出られない牢獄の外から奴が嫌がる事をすれば済む事だ。
それどころか今となっては、彼女にはある希望が出来た………前の世界での友人との再会だ。
辛い日々に心を痛めるより、再び逢えた友人や新しくできた隣人と毎日を楽しんで貰いたい。
今のミクやカナミ、アーチの様に……
「ミサさん!仕返しをしたいとは思いますが、これだけは言っておきます。長谷川くんから貰い受けた漆黒の球体だけは触らせることは出来ません。恨み辛み言うなら牢獄の外からでも出来ますから、いつでも言ってください」
するとミサは笑いながら、
「万が一を考えれば当然ですし、最早あの羽虫は見たくもありません。それにそんな事より今は別の目的が出来ました!異世界の仲間に早く会って、共に帰り方を探したいです!そして友達の雛美と茜……1日でも早く3人で帰りたいです!」
僕はその言葉に『3人で帰るって……僕も東京に帰らせてくださいよ!』と冗談を言うと、彼女の笑い声が夕陽の空にこだましていた。
そしてサブリミナル効果の様にミミの呻き声も耳に入るが、大切な異世界話にホラー要素を入れないで貰いたい……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
結局、龍っ子とミサ、そして呪怨を放つミミと薔薇村に帰ってきたのは、20:00を回っていた。
村長達は心配しつつ、新緑の騎士とトレントは迎えに行くか相談していた時に帰ってきた様だ。
同時に森精霊の伝達も届き、人工ダンジョンである『苦痛の地下墓所』の破壊が確認された。
ダンジョン周囲の森精霊が隈なく周辺を調べた結果、穢れの効果で周辺が魔の森へ変貌する恐れは30%位では無いかと言う。
僕はカナミの事を含めて小国郡国家はろくな事をしない……と思ったが、今はそれよりミサの紹介が先だった。
しかしミサは、村人が食べている生姜焼きに心を奪われている……胃袋かもしれないが……
「ヒロ殿!ひとまず食事をしながら話しましょう!龍っ子も腹を空かせてますぞ?」
そう言われて龍っ子を見ると、村人から夕食の貴重な肉を貰い歩いていた。
「龍っ子!ミサさん!村長の言う通り食事にしましょう!」
「もぐもぐ……くちゃくちゃ……ふあぁぁい!!お腹すいたぁぁ………」
「生姜焼きですよね?肉は何ですか?すごく良い匂い!脂ものってて……それに……ご飯?」
僕はエルフ米の事と、エルフ味噌と醤油を説明する。
食堂に行くと味噌汁のいい匂いがして、ミサのお腹の虫が騒ぎ始める……
「お腹がなっちゃった!!……これってメニュー考案したのヒロさんですよね?……味噌や醤油なんか何処にあったんですか?」
僕はさっき説明した事をもう一度言うと、村長は『食べてからじゃ無いと多分頭には入っていきませんぞ?』と言う。
ミサは恥ずかしそうに『えへへへ』と言って、お肉とご飯を食堂の女将から受け取る。
「ふおぉぉぉぉ!白米が進む!!200年ぶりの生姜焼きやぁ!!やばい泣きそう!!」
「ふぉっふぉっふぉ!そうですか!ミサさんと言いましたな!?貴女はヒロ領主様と同郷ですか!こりゃまた、毎日が騒がしくなりそうだ!!」
僕が領主である事を聞いたミサは、むせかえり咳をする……
「領主!?って……貴族様?って嘘でしょ?なんでこの世界の領主なんかしてるんですか!ヒロさん!!」
「はっはっは!領主様は有名ですぞ?この村は勿論、隣の水鏡村……と言っても今は同じ村ですが……それに、ジェムズマインでも王都でも!最早この周辺で、ジュエルイーターを狩る者としてヒロ様を知らぬ者はいませんぞ?」
なんだそれ?と思っていると、ジェムズマインから褒賞が各村そして亡くなった遺族へ今日の午後にようやく払われたそうだ。
魔物部位の解体は終わっていたが、参加冒険者や村民の協力を精査するのに時間がかかっていたらしい。
悪辣貴族や腐敗貴族の問題もあり、一筋縄では行かなかったと言う。
家族や遺族は討伐褒賞について『素材』にするか『お金』にするか選ぶ事になった様だ。
お金の場合素材は買い取りになって、参加者報酬が上乗せられて支払われるらしい。
ジェムズマインからは、ギルド職員が大金と山程の素材を持って来たそうで、村はそれもあり何時もより活気付いていたと言うわけだ。
ミサは隠遁生活が長く、久々のお祭り状態の村を見て楽しそうだ。
それを見ていた僕の目にはミサ越しに、鬼の形相の女性3人が飛び込んできた……獄卒三人衆だ!!
間違えだ……ミオにシャインそしてメイフィだ。
「横に侍らせているのは?何方ですかね?ヒロ男爵様!?」
「おーーい!!ポンコツのミオ先輩!!違うでしょう!?痴話喧嘩目的だったら少しの間だけ黙っててください!重要な話出来ないならですけどね!!」
メイフィ主催の下克上でも起きたのか?と言う発言だったが、心当たりがありすぎる。
「そ……村長……もしかしてダンジョンの事ギルドに言いました?」
僕がそう聞くと村長は……
「儂ですか?いいえ?そもそもヒロ殿が薔薇村のギルド職員をあの開拓地に呼んでおったでは無いですか?多分そこからの報告でしょう……」
忘れてた……村長に言われた通り確かに呼んだし、出発の報告もした。
するとミオとメイフィの声が被る……
「「ええ!そうですとも!!!」」
声を揃えてミオとメイフィが『威圧スキル』を発動する……どうやら今日と言うか今?手に入れた様だ。
そしてミオよりもメイフィがカンカンになりながら……
「薔薇村の職員から、ヒロ男爵様が少ない手勢でダンジョン破壊に行ったのですが、『本当に人数が5人で大丈夫か』と緊急連絡が来ました!!何処に向かったかわからず、どんなダンジョンかも分からない『謎ダンジョン』にですよ!?」
僕は詰め寄られたのでダンジョンの事を思い出して話す……
「え……えっと国境付近のダンジョンで……アンデッドが沢山いました……そして全3階層で……踏破済みです……コアも壊しました……彼女はミサさんで、その時救出した人です……的な?」
ミサは急に自分に振られてびっくりしていたが、『ヒロさんでも敵わないんですね?ボーン・ジャイアント』でも『ダークフェアリー』でも勝てるのに……』と余計な事を言う……
「ダ!ダークフェアリー!?だから!!一番危険な相手に何故自分から何時も飛び込むんですか!シャインも連れてって下さい!!何かあってからじゃ遅いんですよ?回復師くらい連れて行かないと!!」
シャインが激怒する……その様子に僕は危険を感じて、『オリバーの事だけは内密に』とミサに念話をする……
「大丈夫ですよ〜もぐもぐ……オリバーって言う金級冒険者の回復師が一緒にいましたし!……強かったし!すっごーーく頼りになったですから!!くちゃくちゃ……龍っ子ちゃん!おかわり貰いに行こう!!」
………爆弾娘ここにあらわる……
爆弾を投下して飯を漁りに消えるミミは、この後の惨状を見ることは無かった………
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