第576話「ダークフェアリー」


 僕は『デスアサシン』ハイドスキルを使い姿を隠す……此処からはそれぞれが自分の持つ力を最大限に発揮するしかない。


 仲間の足を引っ張れば、間違いなく数人は『ミサに』殺される………



 ミサの攻撃力や能力値は既に確認済みだ。


 アルベイではとても敵わない。



 カナミと同等なのだ……


 レベルで言えばカナミより低く80ちょいだが、カナミは精霊使いだがミサは純粋な戦士に近い。


 総合力で言えばカナミが上だが、スキル込みの近接戦闘力のみで見ればカナミはミサに押し負けてしまう。



 ミサはそれだけの相手だ……



 ちなみにアシュラムはどうやら僕の真意を見抜いて、ミサへの攻撃は最小に控えている。


 問題は『ミサ』だ……誰彼構わず闇雲に攻撃をしては、姿を隠した僕を捜している。



 それを感じたエルフのエルオリアスも僕と同様にハイドスキルで姿を消す……


 どうやら姿を消す事で相手の注意を増し僕のサポートをする様だ。


 エルデリアとミミは遠くから弓を使いミサの足を潰している。



 ミサが深く踏み込めば、容赦無く足を狙われて移動力は激減するだろう。



 問題は貴族の男の側にいる『汚らしいステイプという男』だ。


 コイツは食えないやつだ……レベルは47アルベイと接近戦ではレベルで見ればいい勝負だろう。



 だが困ったことにアルベイでは勝てない。


 彼はデュアルクラスという、職業を二つ持った特殊な冒険者だ。



 それも『アサシン/モンク』と言う接近戦特化で素手でも戦える。


 暗器スキルは馬鹿みたいに持っていて、ステゴロ格闘のスキルもアホみたいに持っている。



 彼が血塗れなのは『逃げた』のではなく『見捨てた』のだろう。


 現にアシュラムとミサの戦いを傍観している。



 彼はビーズという男に何やら話しているが、ビーズは懐から小袋を取り出しては何かを渡している。



 どうやらこの生死をかけた戦闘中の最中に、報酬の上乗せを直談判した様だ。


 

 ステイプと言う彼は、注意深く周りを窺っているのは、行動から既にわかっている。



 多分彼の索敵範囲内に入ったら『ハイドスキル』で隠れていても見つかる可能性がある。


 どうしたものか……と思っていると、ステイプはビーズを連れて部屋の端に行く……




「おい!!貴様ら!何逃げようとしてんだ!!」



「うるせぇな!フェアリー擬きが!もうお前の力は把握済みだ。俺だったら間違いなくお前を殺せる!俺は報酬の為にビーズ男爵に雇われてんだよ!羽振りの良い上客なんだから邪魔すんな!羽根ムシッテ佃煮にすんぞ!」



「そうじゃ!ステイプを雇ったのはこの私だ!何が宝をたくさん手に入れられるダンジョンだ!既に他の男爵どもに収穫された後では無いか!どれだけ兵を失ったと思っているんだ!!」



 どうやら仲違いをし始めた様だ……ビーズは思ったとおりで男爵の爵位持ちだ。


 そして鋭い眼光のステイプは曲者で間違いない。



 ダークフェアリーの能力などを加味しても、勝てると踏んだ様だ。


 あの腐れ貴族が此処にいる理由は『財宝』目当ての様だ。



 確かに僕達は魔物を排除して宝を5箱も手に入れた。


 アレを換金すればかなり羽振りがいいだろう……それどころか珍しい装備だけに、仲間の腐れ貴族にはデカイ顔ができるのは間違いなさそうだ。



「こんな馬鹿げた話に乗るんじゃなかった!!兵だけ無駄に失ったでは無いか!!大赤字だ!!お前の用意した黒幕の伯爵共には金輪際近付かん!!」



 どうやら彼は美味い汁を吸いたくて『黒幕の伯爵』の口車に乗った様だが、伯爵とすれば討滅素材になるダンジョンのアンデッドを増やす目的だったのかもしれない。


 そうだとすれば、内情の説明をしていないのも合点がいく。



 しかし僕は悠長に話など聞いている場合では無い。


 ミサは流石にスタミナが切れた様だ。



 対処しているのは『疲れない』『死なない』『異常状態にならない』最悪なアンデッドの王であるデス・ロードだ。



 それも困ったことにかなりの知能を持った個体で、『ユニークモンスター』なのだ。



 通常のデス・ロードを見た事はないが、まず間違いなく頭2つ分はステータス的に飛び抜けているはずだろう。


 ミサの単独では勝てるはずはない。



「私は…………私は死ねない!!帰るんだ!!家に!!絶対に!!……ゼェゼェ………」



「さっさそのアンデッドを始末して周りも片付けな!!廃棄処分にするよ!!ミサ!!」



「うるさい!!お前さえいなければ!私は此処に来てやしない!!覚えてろ!!クソ虫が!」



 筋力的に限界を迎えているのか、大振りの剣を振るう力にも限界が来ている様で、剣を振るう勢いと撃ち込みの威力がみるみる落ちている。



 僕はダークフェアリーとミサの遣り取りを好機と見て一気にダークフェアリーとの距離を詰めてマジックアイテムを使用する。



 『魔眼牢獄』(458〜459話参照)は長谷川くんが作った、思念体のダークフェアリー専用のアイテムで個体を中に封印する能力がある。



 使い方は至って簡単だ。


 有効範囲内で思念体の対象に向けてアイテムをかざすと、仮初の肉体を破壊して思念体のみ中に閉じ込めることが出来る。




「がぁぁぁぁぁ!!なんだ……腕が!!脚が!!崩れる………く!………お前は!!クソ異世界人!!あのガキだな!!何を取引しやがった!アタシに何をした!!」



「これは長谷川くんが味わった苦しみを、お前にも未来永劫知らしめるために彼が設計した『魔眼牢獄』だ!!彼の苦しみを死ぬ事なく味わうといい!!異世界人を弄びやがって!!」



 穢れで作った仮初のダークフェアリーの身体は、崩れて腐っていく……


 どうやら肉体は魔物の肉を使って作り出したものの様だ。



 アンデッドのダンジョンにふさわしい、ダークフェアリーの終わり方だった。



 『魔眼牢獄』に吸収されたダークフェアリーは、すぐにその身体を手に入れるわけではない様だ。


  中身が激しく混ざり合い、ダークフェアリーの形を作り出している……



「………な!?ダークフェアリーを………捕まえただと!?そ!それを私に寄越せ!私が叩き殺す!」



 ヘロヘロになっているミサは、這いずりながらも僕の持つ『ダークフェアリー』に怨みを晴らそうとする。



 泣きながら縋り付くミサに僕は、彼女の頭を撫でて……



「もう終わった……大丈夫だ!二度と君には手出しはできないから!これからコイツは死ぬ事も許されず、未来永劫この中で苦しむんだ!後で事情は話すけど……僕も君と同じ『異世界人』だ……だから安心して今は休むんだ!」



 目の前にいる僕が、異世界の人間と知った瞬間ミサは目から大粒の涙が溢れ出す。


 そして緊張の糸が切れたのかそれともよほど疲れたのか、意識を手放してその場に倒れてしまった……



「マールさん!!彼女の手当を!アシュラムさん手伝ってください!あそこの貴族に事情を聞きますから……あの冒険者を無力化してください!本気で良いです!」



 そう言われたアシュラムは『デス・ロード』としての本気を垣間見せる。



 部屋内部の至る所に無数のスケルトンとスケルトン・ナイトそしてそれを仕切るデス・ナイトが召喚され、ビーズもステイプも即座に武器を捨てて両手を上げる……



 言った手前この状態は僕のせいだが、アシュラムに人格があり敵でなくて本当に良かった……



 アシュラムと比較すれば、ボーン・ジャイアントなど子供の様な相手でしかない……アラーネア完全体以来の恐怖だ。




「待て!お主達は冒険者であろう?優秀なサモナーと見た!どうだろう?我が男爵家に仕えないか?給料は金貨5枚いや!15枚で個室も用意してやるぞ!なんだったら私が伯爵になった後、男爵の爵位と僅かだが領地も約束しても良い!お主にはそれだけの力がある!どうだ?」



 アルベイがビーズに近寄ると……



「お前が話している相手は王国の王様に愛され、両王女様が心から頼り『ジェムズマイン南部』を領地として仕切るヒロ男爵様じゃ!!お主は見かけない『王国の男爵』じゃが!?はて?王国にお前なんぞいたかの?まさか男爵でも『小国郡国家』とか言うまいな?」



「な!?なんだと!?……そんな……何故こんな辺境に?……コレは……違う!違うんだ!王国の男爵よ聞け!儂は騙されたんだ!」



 僕は事情を聞く為に、彼をジェムズマインまで連行することにした。

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