第552話「歓喜するマークラ」


 僕はイスクーバとマークラを伴いギルドへ向かう。


 新しく建設中の街にはマークラの知識は欠かせない……


 そしてドワーフが技術提供してくれる以上、マークラを連れて行かないと二度手間になる。


 今までの経緯をマークラに話あうと、出来がいい彼はすぐに僕がやろうとする事を理解する。



「マークラさん、街の発展は急務です。しかし僕にはあの領内の情報が欠如してます……今すぐ全てを覚える事はできないですし、貴方程この領地に詳しい人もいません……改めてお願いなのですが……僕に雇われませんか?結果的に貴方の仕える主人の償いにも繋がりますし……」



「!!………この……私を信用されるのですか?敵対関係にあった男爵家の執事だったのですよ?……何故そこまで?」



「でも貴方はお金では動かないじゃないですよね?イスクーバさんと仕える主人の為に、例の汚名をどうにかしたい一心で働いてるんじゃないですか?ならば……利害の一致ですよ!」



 僕はマークラに言う……


 これが成功すれば僕は住民から恨まれず、マークラはイスクーバ達の汚名をそそげる……逆に失敗すれば共倒れだ……


 僕は出来の悪い領主と謗られ、イスクーバ達は悪辣貴族として名前が更に広まるだろう。



 でも彼等は根が真面目な貴族なので、絶対にこの領地を見捨てられない……気持ちは僕と同じだ。


 ならば結局同じ事だ……別々にやるより一緒にやった方がいいものが出来るし、僕とすれば使えるものは使うまでだ。


 マークラはイスクーバを見て意を決したようで、歩み出て首を垂れる………



「………わたくしマークラは街が出来上がるまで、ヒロ男爵様の『筆頭執事』として働きたく思います!我が元主人には暫くお暇を頂いて参ります!このマークラ……命に変えましても、街の建設必ずや成功させて見せましょう!!」



「マークラ!安心しろ義父へはわたしからも伝えておく!!……ヒロ男爵様……ありがとうございます!ここに居ない母に変わって心より御礼を!!」



 こうして晴れてマークラは、暫くの間は僕の執事として働く事が決まった。


 マークラを交えて『鍛冶工房』と『石材工房』の場所を決める。



 スマホで撮った、村の写真を見せながら話す。


 ある程度森を切り拓かないと面積的に問題があるようなので、建設地だけ指示をして開拓の指示はマークラに一任する事にした。



「マークラさん、あの領地の収入と管理も纏められたらお願いします。そこから必要な費用を捻出してください。足らなくなったら強制徴収などはしないで僕へいってください。妙案があるので!!」



「妙案ですか?……ちなみにそれは?」



「お薬の販売です!……冒険者が使っても財布が困らないくらい、安めに薬を提供します。売り場は『あの村限定』で……そうすれば買いに来た冒険者が宿にも止まり、飯も食いますよね?」



「お薬?傷薬とかですか?ですが……たいした収入にはならない筈ですが?」



 僕はマークラに初級ポーションを見せる。



 必要経費を計算してあるので、出所さえ言わずにいれば価格破壊を起こせる代物だ。


 金貨数枚で売れれば元は取れるし、スキルレベルを上げるのにも役に立つ。



「ポーションを販売ですか?幾らなんでも……100本単位で無ければあっという間に枯渇しますぞ?」



「大丈夫です!今は持ち合わせがそこまで多くないですが、必ず手に入れられる『ダンジョン』があるので……まぁその場所は内緒ですけどね!」



 ポーションに頼り切りでは村人の自立ができない……あくまで金策が必要になった時用の手段だ。


 僕はミオとメイフィを呼んで『任務依頼』を出す……当然ポーション素材の回収依頼だ。



 ポーションに必要な素材は主に草や苔だ……木の蓋と薬用瓶は、いずれ建設中の街に鍛冶工房が出来たらそこで依頼をするが、今は買うしかない。



 ミオにポーション作成で必要な素材の、『光草』と『光鈴蘭』それに『光苔』はこの周辺で手に入るものか聴く……



「どれも駆け出しが集めることができる草と苔ですね……何に使うのかは置いておきますが、駆け出し用の依頼としてヒロ男爵様がお出しになりますか?」



 僕はミオにこっそり耳打ちすると、目を見開いてビックリするが『ポーション』とは流石に口には出さずに居た……



「で……では早急に………メイフィ……貴女に引き継ぎますので、報酬などを明確に記載して下さいね?間違えは厳禁です!わたしは今からマークラさんと共に建設中の街に行きます……ギルドマスターからの指示なので」



 珍しく真面目なミオの説明に、メイフィはちょっとビックリしていたが、すぐに初心者窓口主任の顔になる。


 そしてメイフィはすぐに初心者窓口に走っていき、イーザとコーザを話し合いの場に呼びに行く。



「イーザ!コーザ!任務依頼です。此方へ来て下さい」



 メイフィは二つ椅子を用意して二人を待つ……


 少し前までは言い合う程の仲だったが、今はそれも解消されたようだ。



「駆け出し冒険者への『貴族任務』です!内容は採集ですので『特権対象外』と言う事を、忘れずに明記、説明して下さい!間違って宿代がタダになると騒ぐ冒険者も出てくると思いますので……」



「メイフィさん、特製数量集め続けた人には『ボーナス』支給ありと明記して下さい。……1000束毎に『初級ポーション』1本を配布と……」



 僕がそう言うとコーザがビックリする……



「1000束毎にポーションをですか?………たしかに量は膨大ですけど……。でも初心者には良い企画ですね!!ポーション売ったら、そのお金で装備買えちゃいます。即金でも金貨100枚ですよ?」


 価格破壊が起きると知らないコーザは、ビックリして居る。


 だから早く集めて値崩れ前に売らないと、装備を買うことは出来ないだろう。



 ミオは苦虫を噛み潰した顔になって居る……言うに言えず……言ったら問題しか残らない……そんな顔だ。



 イーザとコーザが依頼の書いた羊皮紙を持って、駆け出し冒険者用の掲示板に向かうと、途端に壁の向こうでは歓声が起きる。


 『光草』は薬草エリアで毎日採集出来るし、『光鈴蘭』それに『光苔』は貯水池外縁で大量に採取出来る。



 スライムを倒すついでに集められ一石二鳥だし、何より収入が増える。


 収入が乏しい駆け出し冒険者には、又と無い機会だ。



「それで……先に依頼の報酬を渡した方がいいですよね?」



 僕が任務報酬の金貨袋を取り出そうとすると、ミオから待ったが入る……



「ヒ……ヒロ男爵様……ギルドマスターにちょっと聞いて参りますので……暫くお待ちを………」



 凄い勢いで二階に駆け上がるミオ……間髪入れずに降りてくるギルドマスター……。



「ヒロよ!!例の薬の報酬払いは可能か?………」


「ギルドマスター!!男爵様ですよ!!」



 ギルドマスターはどうやら『部位再生ポーション』の事を言っているようだ。


 ギルドの中には手足が無い冒険者が何故か多い……



 少し時間を置いて、ギルドマスターの後ろからゆっくり階段を降りて来た厳ついオッサンが僕を睨み付ける………


 脚と腕に包帯をグルグル巻きにして松葉杖をついている……その様子からして、僕の薬を飲んだ患者であることは間違い無いようだ。



「テカーリン!コイツか?…………」



「なんで降りてきた!お前は上で待っていろと言っただろう!?」



「待って居られるはずも無いだろうが!礼を欠いたら末代まで恩人に礼も言えぬ大馬鹿者と言われちまう!!………」



 強面のおっさんはギルマスと少し言葉を交わすと、すぐに向き直り今までの凶悪な人相が嘘のようになる。


 その顔は頑固な親父が、急に遊びにきた孫に見せる笑顔に近かった………

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