第470話「ちびっ子の面倒で四苦八苦」


 僕が外に出るとソウマが……


「流石に詰めれば数人はいけるだろうけど……24人は無理っしょ?まぁ数人は子供と一緒にあの大きな『孤児院』で寝るとしてもだよ?」



「一応25人は寝られるから……でも誰が何処で寝るかを分ける必要はあるね?このテントを管理する為にも僕は此処にいないとだけど……」



「だろ?25人しか………はぁ?……25人だって??」



 ソウマはそう言って中に入っていく……そして顔だけ出して



「マジか!……何だこりゃ!すげぇ!スイートルームじゃ無いか!!」



 皆が入れ替わり立ち替わり部屋に入る。



「部屋は25部屋だけど、雑魚寝を入れると50人まで入れるみたいだよ?」



「「「「50人??」」」」



 誤魔化す為にモノクルを使うが、流石にユニークアイテムの鑑定などでない。


 僕はそそくさと『モノクル』をしまうが皆が結果を見たがる。



「悪いけど、このテントは『魔導士学院』からの預かり物だから詳細は見せられないんだ!」



 そう言って誤魔化すと、皆は……『仕方ない』と諦めてくれた。



 結局全員が、もの珍しさに負けてテントに入り寝る事になった。


 個室利用は基本女性と僕だ。



 空いた部屋は孤児が寝る……ベッドが『キングサイズ』と大きいので、子供は余裕で3人は寝られるから喜んでいた。


 孤児の人数は11人で基本3人で一部屋に収まった……理由はバラバラになるのが怖いそうだ。



 僕はマークラとイスクーバに部屋を与えてその中で『副村長』の不正の証を調べてもらう事にした。


 どちらか必ず部屋にいてもらう様に言ったが、その必要はすぐに必要がないと分かった。



 まずユイナが孤児の洋服の洗濯を開始した事と、着替えなど無い孤児は洗濯が終わるまでお風呂に順に入る事になった。


 乾燥が間に合わない場合は、ユイナが部屋で大人しく休んでいる様に言ったからだ。



 ちなみに自然乾燥ではない……洗い終わったらエルフ達に乾燥をして貰う様だ……夕飯のご馳走が報酬の様でエルフ達は予想外の食事にありつけて喜んでいた。



 洗濯と子供達の入浴はユイナがリーダーでミクとカナミにアーチあとは村民の女衆が全員でやっていた。



 僕がマークラかイスクーバに中にいる様に言った理由は二つで、中に人が居るとテントを持ち運べなくなるのと、不正の証拠を無闇にみせない為だ。


 副村長側の人間対策もあるが、それ以前に『誰が死んで誰が生きているのかを知った時点』で、恨みを晴らす為に副村長の命を狙わないとも限らない……それにそもそもが犯罪の証拠でもあるので無闇矢鱈に見せられないのだ。



 僕も子供の洗い立ての服を乾燥をさせたが、非常にボロボロだった。


 親も無く暮らしにゆとりも無い……洋服など二の次なのは当たり前だ……洋服など買っても腹は膨れない。


 そもそも買う金もないが……



「そう言えば村には糸の材料は無いのですか?もしあるなら僕のアイテムで糸を作れるので………綿花なんかあると良いのですが………」



「『綿花』ですか?何ですかそれは?」



 どうやら薔薇村と呼ばれるので草木に精通しているかと思ったが、この村の住民はそれを知らない様だ。



「ワタの種子から取れる繊維ですね……ふわふわした感じの白い物と言いますか……見た事ないと説明し辛いんですよ。それはこよって糸にすれば洋服に使えるんです……と言うかこちらの糸は何で出来ているんですか?」



「フォレストスパイダーの糸やキャリオンクローラーの糸とかが安全ですかね?後は糸を吐き出す魔物や巣に使う魔物が多いです……他に『糸』を手に入れる方法があるんですか?」



 僕は村民の話でものすごくビックリした。


 今僕が着ている異世界産の服もそれだと思うと気色が悪い……しかし問題はそこでは無い『僕が糸の存在を知らない』とバレてしまった。



「成程!僕の『育った村』では基本的に糸から人が作りますからね!そうか……根本的に違うんですね?はははは!勉強になるなぁ!!」



 若干無茶があったが『嘘では無い』……後は嘘では無い証拠として綿花を探すしか無い。



 しかし、僕と村民の会話を聞いていたローリィとエイミィは走ってきて……



「丸っこい真っ白い物?美味しそうな白いふわふわなのに食べられなくて、あの変な種が入ってる?」



「確かに白や茶色くて種があるけど……食べたんだ?そのままだと体には良くないよ?でもあの種子からも『マーガリン』の材料が作れるんですけどね?色々手を加えたあと、他の素材と混ぜ合わせるんですけど……マーガリンはパンに塗って食べると美味しいし……マーガリン作れないかな?」



 その会話にユイナが混じる……



「ヒロ結構色々知っているよね?歳の割に……綿実油は食用油にも使われるしマヨネーズとか石鹸にも使われるんだよ?」



 エイミィとローリィが頭を傾げながら質問をする……



「マーガリン?マヨネーズ?食用油??聞いた感じ……食べ物ですよね?もしかしたら手に入るかもしれませんよ?私達が森で暮らしている時に一度だけ連れて行ってもらった場所にあったので……アレから随分時間も経ち行けるか分かりませんが……調べに行きますか?」


 僕がソワソワし始めたので、ユイナもミクも『いってらっしゃい!お土産よろしく!』と言って送り出してくれた。



 送り出した大きな理由は簡単で、現在は僕とソウマはテントの中には入れないのだ。



 孤児の中には僕ぐらいの年齢の人も数人居るが、殆どがちびっ子だ。


 とは言えそのちびっ子には『女の子』も居る、それにテント内の部屋に篭っているのも時間的に無駄だ。



 まぁ異世界の常識で育った身とすれば、その状況でテントに入りたいとは思わないが……



 ちなみに此方の世界では、湯浴みごときでそこまで気にしている余裕などはない様で、ちびっ子達は平気で外に出ようとするのでユイナに怒られていた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 僕はローリィとエイミィに連れられて森をしばらく歩いた……僕には森の見分けはつかないが、『香木の森』と『賢人の森』に分かれているらしく今歩いているのは『香木の森』だそうだ。


 そしてもう暫く歩くと『賢人の森』に辿り着くらしい。



「そう言えばさ、薔薇村と呼んだりしている割には『薔薇』が無いけど何で?時期的な物?」



「この村が出来た時は、辺り一面が薔薇で覆われて綺麗な村だったって子供の時親から聞いたけどね?『森の賢人』との付き合いがなくなったからじゃ無いかな?



「森の賢人?」



「うん……森に詳しくて魔物じゃ無い魔物?みたいな感じ……色々森の幸を授けてくれるそうだけど……私達は見た事がないからね?見た事があるのは『フェアリー』くらいかな?」



「フェアリーだって?ソイツ等はどんな奴………もしかしたら……奴等の仲間同士で情報交換とかしてる可能性が捨てきれないとか無いよね?」



「いやいや!フェアリーって言ってもヒロさんの知っている、あのヤバい奴じゃ無いよ?フェアリーは森や花畑にはかなり居るから全部が悪いやつでは無いよ?」



 唐突に『フェアリー』の名前が出たので僕は変に身構えてしまった。



「そうだよ!フェアリーは可愛いんだから!何で敵対する気満々なのよ!」



 僕はその言葉を聞き、咄嗟にクロークからフェムトのショートソードを引き抜き、振り向き様に横一線に凪払おうとすると……



「びえぇぇぇぇぇぇん!!殺されるぅぅぅ…………ローリィ!!エイミィ………あんなの此処に連れてきたら仲間みんな死んじゃうヨォ!アンタ達に久々に会えたのに!!」



 僕はギリギリで刃を止める事ができた。


 フェアリーの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった……

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