第359話「貶める者ヴァースキとアラーネアの因縁」


 そしてユニバース王の目の前にその象徴の大元たる人がいた……王は何も考えずに自然に跪き言葉を待っていた。


「ユニバース……すまぬな。かつての妾の父が愚かだった故、お主達は妾の事や父上の事が分からぬのだったな……ヒロすまぬがこの肖像画2枚は譲って貰えぬだろうか?せめて肖像画だけでも国に帰してやりたいのだ……馬鹿な父などどうでも良いが、母と妹だけは……」


 そう言って肖像画を2枚拾って、僕に言ってきた。


 僕はそれが自分に必要なものではないので、了承することにした。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 それからアラーネアは、3枚目の肖像画に描かれている、『ヴァースキ・マーハラージこと、貶める者ヴァースキ』には絶対に関わるなと王へ言う。



「良いか?ヴァースキ・マーハラージ……貶める者ヴァースキの目的は分からぬが、あやつを決して信じるな!あやつの間者は何処にでもおる……奴の目的は分からぬが……お主が知る者が妾の知る奴と同一人物ならば……もはや魔物だ。姿が変わらぬ『人間』などおってたまるか!」



 そう言って、アラーネアは肖像画を指さす。


 その指には物凄く力がこもっている。



「あの者は我が父と出会う頃には、100歳をとうに超えていた。それから数十年の付き合いだったが衰える事を知らない奴だった。エルフの国の秘術によるものと言っていたが嘘だろう。……いいか?妾の様に家族と王国を失いたくなければ、決して奴には『己の欲望』を明かすな!奴は絶対に叶う手段を必ず用意する。我が父がそうであった時の様に……」



 王と王妃は強く頷く。



 アラーネアはその後も説明をする。



 身体が完全に魔物になった時、そうなった大元の原因を作り出した彼の収める王国を彼女は完全に破壊したらしい。


 彼彼女がそれを知り得たのは、父に何をしたのか直接ヴァースキへ聞きに行ったからだ……言葉次第では許さないと決意して。



 しかし会ってみると、彼は『単なる実験台、そして欲望の対価はあるものだ』と吐き捨てて言った。


 激怒したアラーネアは数時間でその国を滅ぼした。



 罪の無い者を含めて多くの人間が亡くなったが、国民は大蜘蛛形態であるアラーネアを目前にして恐怖も感じなく、虚な目で国民全員が防衛に当たったらしい。


 その様は全員、糸の付いた傀儡のような状態だったらしい。



 そして、アラーネアに引き裂かれるヴァースキは恐怖に怯える事なく、ただ笑っていたそうだ。



 死ぬ直前に彼は一言『無駄な事を……』と言った台詞を、アラーネアは今でも覚えているらしい。



 その台詞を彼女は勘違いしていた。


 てっきり『もう済んだ事』だから『無駄な事を』と言ったとばかり思っていた。



 アラーネアは、ヴァースキが父に何かの怨みがあって、その様な行動に出たと思っていた。


 だが現状でアラーネアは、考え方を変えた様だ。



 アラーネアが引き裂き始末した彼は、今この時代にも何故か生きている事がユニバース王の一言で判明した。



 彼女の破壊によって彼の国が無くなった以上、彼の血縁者も途絶えた筈だ。



 しかしユニバース王の説明では、その男の詳細は何もかもが一緒だ。


 他人の空似だったらまだわかるが、服装から名前そして滅ぼしたはずの国の名前で同じなのである……そこまで同じなど有り得ない。



 ちなみにアラーネアは彼の国を破壊し尽くした後、暫く穢れに支配され正気を保てなかったらしい。


 数週間後、何とか自我を取り返し我に帰ったアラーネアは急いで王宮へ引き返したが、既に唯一残った妹は母を助ける為にダンジョンに潜って忽然と消えた様だ。



 この時アラーネアの居た王国の現状は、アラーネアと変わる様に王妃はダンジョンコアに捕らえられて自我の半分を無くし、妹はちょっと見ない間にダンジョンで行方不明に。


 父である国王はヴァースキの罠に掛かったり呪いを行った後、煙の様にどっかに消えてしまった……現在に至るまで消息さえ不明だ。



 騎士団はアラーネアを助ける為に王妃の指示の元、ダンジョン攻略の末に半壊状態。



 アラーネアは自制できず魔物になる日も多くなり、当然王国は国として機能しなくなる……結果ダンジョン・スタンピードにより王国は数年の後にダンジョンから溢れ出す魔物に飲み込まれた。


 そしてダンジョンのコアになった王妃の意思で、ダンジョンはその王国さえも地中奥深くに飲み込む事になる。



「妾の愚かな父が居なくなった後に、王宮と街の一部を飲み込んだダンジョンを多くの家臣が力を合わせて攻略したのじゃ。……魔物を排除して、破壊された王都を取り返しその数年後ダンジョンを押さえ込み、再度スタンピードが起きない様にしたのは、父の弟である其方達の祖先じゃ」



 国が無くなった理由と、アラーネアに起きた悲劇を掻い摘んで説明された後、王達の祖先の話を始めたアラーネア。


 明確に言えば、血筋は同じでも彼等は叔父の系譜にあたる様だ。



「今でも覚えておる……『メルクリウス・ファイブスター』其方達の祖先じゃ……勇猛な叔父であった。自分は武芸でしか役に立てないと言って、周辺の国を瞬く間に制圧していった剛の者じゃ……」



 そう言ってアラーネアはユニバースを見て、



「瞳の色も亡き祖母の色を引き継いだのが、メルクリウス叔父様であった……今の其方の瞳の色は我が祖母から引き継いだものだな……綺麗な琥珀色じゃ……話が長くなったの!そろそろ切り上げねば周りが不審がるから帰った方がいいぞ?仮にも王族であろう?」



 アラーネアは笑いながらそう言って話を終えた。


 アラーネアの話を聞いた王は暗くなっているかと思いきや、悲願であった失われた歴史を直接聞きご機嫌であった。


 ポラリス王妃に至っては、王都などでは買えない珍しい茶器で飲む紅茶に美味しい『飴ちゃん』なる物を、再度アラーネアに振る舞われ大喜びだ。


 何故まだ皆がこの部屋にいるかと言うと、『鏡』のことが片付いてない。


 王が帰る直前にアラーネアが、



「そう言えば『鏡』じゃが、あの魔鏡はなかなかな物じゃぞ?マジックアイテムとしては優秀じゃ!中の魔物が居なければ妾の事も中に封印できる代物じゃ!妾にしてみれば、ヴァースキを封印したいがな!!」


 そう言った時点で皆が思い出した。


 なので王妃はアラーネアとお茶会を続けて、王はアラーネアに昔話をして貰っている。



 入っていた宝に関しては確かに『呪われた王の箱』だけに危険だが、マジックアイテム効果だけで見れば、特定の何かを『封印する事ができる』魔鏡には変わりない。


 使うにも『中に悪魔が入っている』以上は使えないが、マジックアイテムの価値はかなりの物だ。


 言い換えれば、アラーネアが言っていた通りこの中の悪魔がいなければ、中に魔物をとじけめて置ける。



 ジェムズマイン鉱山の連合討伐戦で、この鏡があれば下手すれば無傷で対応出来る可能性さえ出てくる。


 まぁ今となってはジュエルイーターなどは、オニギリを餌にアラーネアに頼めば即座に輪切りにしてくれるだろうが……


 ひとまずこうしてても埒があかないので、僕達は開封部屋の外に出ることにした。



 王様達は僕達とは別に先に出る。


 一緒に開封部屋に入ったのだ……冒険者の間で『王様が強要した』などと変な噂が立たないとも限らない。


 あくまで『視察』なのだから、見て回った感を出して帰る予定だ。


 王妃様の収穫は大きさ的にも意味的にも大きいので、王妃のお付きがマジックバッグに入れて持って帰る。




「すまんな!ヒロ男爵!!楽しいひと時であったまた王宮へ戻り急ぎ残して来た仕事をせねば……ふぅ……」


 『宝箱開けたさに仕事そっちのけできたのか!』……とは言えなかった。


「有難うございます!私達王家は貰ってばかりで申し訳ありません!陛下に申し上げて、ちゃんとお礼を!!」


 王妃はそう言っていたのだが、既に面倒な『爵位』など貰ったのだ……これ以上はやめて欲しい。


 そう簡単に話して、二人は出て行く。


 視察名目なので、一応反対側の建物も覗いて帰る様だ……あまり興味がなさそうだが……


 ギルド内には至る所に騎士が立っていて、新人のいる銅級辺りの窓口は空気が『ピリピリ』している。


 僕とアラーネアは部屋を片付けて外に出る。


 僕より茶器で机を占領しているアラーネアは、何をしにきたんだろう……机に並べては、暇をしていた王妃とニタニタしながら茶器について語っていた。

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