第347話「閑話 想定外の結果と強行手段」
『閑話 ヤクタ一最後の日 カウントダウン3』
帝国貴族の誰にも挨拶されないヤクタは、王宮のメイド以下だった。
ヤクタは王宮から出るまで何人もの貴族とすれ違ったが、会釈さえされない。
しかし、帝国の貴族は感じが悪いわけではない……ヤクタとすれ違った後に背後から声がするからだ。
お互い顔を合わせると、にこやかな雰囲気で挨拶をして共に王の待つ玉座の間へ向っている。
騎士達が来た時のままの格好であれば、間違いなく挨拶をされていただろう。
傷だらけの甲冑と汚れた様を見れば、間違って労いをかけていたはずだ……しかし今目の前にいるには『何もする気のない貴族とその兵士』でしかないので無視されて当然だ。
「ヤクタ男爵様、此方が先程お預かりした『箱』で御座います。今貴方様は『指名手配中』の身であります故、此処までのご案内とさせて頂きます。」
そう言って王の指示通り箱を渡してくる臣下に、ヤクタは再度皇帝との謁見をと詰め寄るが当然許可などされない。
それどころか、極め付けを言われてしまう。
「よく『秘薬』を手に入れたと貴族が来ては『帝国の剣様』と同位の『爵位と待遇』を求められます。その皆様は今のヤクタ様と同じ様に『帰られ』ます……王は『秘薬』など求めていません……見てお分かりでしょう?ご健在なのですから!」
当然の如く、その状況を客観的に説明される。
そして着替えた際に預けた装備を返されて……今の状況説明を嫌と言うほど思い知らされる。
今は『賞金首』で、全てのギルドに貼られる程の『悪事』をした元貴族とされている事。
その首にかけられた賞金は『金貨1200枚 生死を問わず』であり、当然だが賞金稼ぎの冒険者が探し回っている事。
極め付けは、既に『帝国領』に逃げ込んでいるだろう……と言う情報に更新されている事。
「差し出がましい事ですが、なるべく早く帝都をお出になられる事をお勧め致します……それでは失礼致します」
そう言って王宮に中に戻って行ってしまった。
彼等はもう『秘薬』を出来る限り高く売り捌き、人知れず生きるほか道はないと悟ってしまう。
「おい!お前たち宿に行き荷物を取ってこい!まだ若干我が資産がある……それを使い別の国へ行くぞ!」
ヤクタは既に爵位を剥奪されているのに命令してしまう……今すぐなど貴族だった頃の癖が抜る筈がないのは当然だが、既に貴族でないヤクタになど従えない彼等だったが、悪事をする者の鼻は敏感だ。
「分かりました……すぐに持って参りますが、ヤクタ様は何処に居りますか?」
脱走を手配した衛兵達は、すぐ様そう答える。
騎士達は此処まで振り回されてこの結果に納得などいかないので、ヤクタに約束と違うと言い寄ろうとするが元衛兵達に割って入られてしまう。
「この先に酒場が見えるあそこの個室を借りて待ってるから、早く取ってこい!そしてお前ら騎士どもは除名だ!さっきから文句ばかり言いやがって!」
ヤクタについて来た最後の生き残りの騎士2名は、ヤクタをぶん殴ろうとするがターズは一先ず止めに入り小声で、『今目立てば連行されて終わるぞ!ヤクタ様はもはや『賞金首』なのだ!事を荒立てるな!』とターズは言う。
仕方なく言う事に従い、酒場まで行きこれからの身の振り方を話す事にした。
だが、彼等は間違いをした事に気がつかない。
ヤクタ家に関係のない『元衛兵』などに荷を任せればどうなるかなんて分かるだろう。
当然だがその2人はそれを持って『小国軍国家』に逃げる予定だ……逃げる場所は一番近くても、そこしか無い。そこであれば王国に近いのでヤクタは間違いなく追いかけてなど来れない。
宿へ戻った2人は持ち物を荷物袋にまとめて、ヤクタ男爵達の金目の物だけ自分の荷物に詰め替えてから、残りは一纏めにして窓から見える裏路地に放り投げ捨てる。
急いで宿を出ると馬車停留所へ急いで向かい、小国軍国家行きの乗合馬車に飛び乗る。
同乗者には挨拶もろくにせず、フードを深く被り狸寝入りを始める。
しばらくすると馬車が動き出し、彼等は見事に帝国を出て小国軍国家の方へ消えていく……彼等は『犯罪者』ではあるがその事実を知るのは帝国にもジェムズマインにも居ない。
ジェムズマインでは自分たちが消える際に、周辺に豚の血を撒いて来たので『殺された』事になっているだろう……犯人は当然クゥーズ・ダーメンとその騎士だ。
死体が何処を探そうとも無いので、その内気がつきそうな物だが、それが彼等が用意した逃げ出す彼等のトリックだ。
問題は彼等が乗った乗合馬車は『小国軍国家』へ着くことがなかったと言う事だ。
数日後、彼等の遺体はジェムズマインから遠く離れた、帝国と小国軍国家の中間あたりの人気のない場所に放置されていたが、それが発見されるのはかなり先のことだった。
その様は酷く、ズタズタに破壊された馬車と共に見つかったが、同乗者の物を含めて持ち物は全て無くなっていた。
こうしてヤクタ一家は家財まで売り払って作った全財産を、騎士団にも関係ない者に全部奪われてしまう。
そうとも知らないヤクタは、その時醜い争いの末に元騎士二人を『破門』にしていた。
既にヤクタは貴族でも無いのに破門を言い渡される二人だったが、ターズは今彼等が抜けるのは困る。
何処へ向かうにしても一人では如何にもならない……其れどころか面倒な事に満足に武器も使えない子供まで増えたのだ。
誰一人として欠けることなど有り得ない。
怒りが収まらない元騎士達は抜ける気は満々だが、此処までの賃金だけは最低限回収するつもりでいた……それはクゥーズの専属騎士も同じだ。
クゥーズのお付きは端金では割りに合わないと思っていたので、既に獲物は決めていた……黒箱もとい『白箱』だ。
彼は一言も言葉を発していないので、ヤクタには自分の存在など空気程度にしか感じていないだろうと考えていた。
だが、その成果は大した物で、彼は『破門』とは言われていなかったし、白箱を持っていた。
当然腕が片方無いから持てない理由はあったがターズも居て、クゥーズも居るのだから何も彼でなくて良い。
だが文句を言わない以上、彼にはその役目が誰も不思議に思う事なく回って来た。
彼は、荷物を取りに行った二人が『遅い』と気がついていた。
そして、考えをまとめた結果『あ……やられたなこれは』と思ったので、彼は待つ理由がなくなったのでトイレに立つ……当然だが白箱を持って移動する。
ヤクタに任せてもいいが、今は絶賛元騎士2人と喧嘩中だから自分が持つと言う空気を出して、『ザムド様トイレに行って来ます。坊っちゃまはトイレは平気ですか?」と声をかけてから向かう。
クゥーズが一緒にトイレに行ったら先に済まさせている間に裏口から、来なければそのまま裏口から逃げ出そうと考えていた。
クゥーズもどうせ自分など気にしていないのは把握済みだ。
結果は一人でトイレに行き裏口から脱出に成功したので、そのままの足で帝都の正門へ走ると目立つので出来るだけ急いで目立たずに行動した。
そして城門前で見つけた隣の村行きの馬車に乗り込んだが……彼は隣村で馬糞を見て悔しさに憤慨する事になるだろう……
そしていよいよ此処でおかしい……と気がつく騎士二人。
ジェムズマインの元衛兵は待ってても帰ってこない、さらに先程トイレに立ったまま帰ってこない仲間。
彼等もいい加減気がつく……
彼等は慌ててそいつ達の元へ向かいたいが、声も掛けてもらっていない以上は既に遅いことなど言わずとも分かる。
それであればやる事は1つだ……ヤクタの首に賭けられた賞金『金貨1200枚』を得るために『密告』だ。
生憎この帝都の冒険者ギルドであれば、男爵と自分たちの繋がりなど分からない。
そう踏んだ彼等は破門を受け入れて即座に行動を移す。
怒った素振りを見せてその場を離れ、酒場を飛び出ていく二人。
だがそんな事をされれば、最終的に困るのはターズだ。
だからやりたくも無いヤクタのご機嫌を取った。
居なくなった場合の事の不味さと既にヤクタ男爵ではなく『ただのヤクタ』だと言う事を説明すると、やっと理解して青ざめ慌た彼はすぐにターズに追いかける様にお願いをし始めた。
仕方なく、帝都の人混みに消えた彼等を探すためにターズは『酒場』から出ていく
だが、ターズは考えても居なかった……彼等が『密告』しに飛び出たなどとは……その為に荷物を取りに行ったと考えて宿へ向かってしまう。
だがその時既に元騎士の2人は、すぐに街の者に『冒険者ギルド』を聞き出して『密告』に向かっていた………。
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