第188話「冒険者の優しさと戦う理由」

僕は周りの冒険者に注目されていたので自分の意見を話す事にした……彼等が望む回答ではないが。


「言われた事がムカつかないと言えば嘘になるけど、敵は『人間』じゃなくて『魔物』でしょ?彼等は『そんな事さえ』知らなかっただけだから。心得が出来ていない彼等に何を言っても心から反省するまでは多分理解できないんじゃないかな?って思った次第で……」



「此処にいる冒険者は、僕を含めて皆が駆け出しだから目前のことにしか気が回らないと思うんです。でも魔物よりランクの高い巨大な魔獣と戦う戦場なら、いがみ合ってたとしても『幾ら喧嘩したって実は仲間なんだって』直感でわかるんですよ。」



「本当の敵は、仲間や友人そして家族を殺す魔物や魔獣そしてそれと同等なのが、領民の命を討伐部位に交換する事しか頭にない『腐敗貴族達』だと思います。人の命より魔物の部位が大切な『腐り切った貴族共』があの鉱山にはいたんですよ。」



「理由は端折るけど、そのせいで多くの領民が怪我したり死んだりしたんです……『貴族達が派遣した騎士の盾』として。でもそいつらはまだ人間なのかな?そんな事ができるのは人としてカウントしていいのかな?姿形は人でも『心』は魔物と同じだとそう思わないですか?」



「領民を助けるはずの騎士が領民を『盾』に使うんだ。でも彼等には後悔も反省もなくアイテムの為なら領民を人とも思って居なかった。そんな騎士を一括し黙らせたのがザムド伯爵でした。だから伯爵は貴族だけど僕達街の民タミの『本当の味方』なんだ…って思ったんですよね」



「それに比べればアイツらはただ『欲が深い』だけだからね……運良く僕らが見つけた装備を『欲しがった』だけだ……難癖つけていれば今まで通り貰えると思っただけだったんじゃないですかね?」



「だから彼等は『僕の敵じゃなくていいんだ』と思うんですよ?あんな言葉で装備は渡さないし仲間にも渡させない。それに、そもそも力ずくで奪いにくれば僕は間違いなく『僕達全員が必ず何度でも』勝てるしね!彼等が逃げ出した5階の魔物をちゃんと僕達は倒したんだから……あそこから逃げ出した『彼等は既に敵ではない』んですよ」



「まぁ今回は『しでかして』しまったから一歩間違えば『腐敗貴族共』と変わらなかったけどね……まぁ『運』が良かったんだよ。これで済んで……ギルマスも言ってたじゃん?『強運と悪運』の話」



 皆が静まり返り、イーザさんの嗚咽が聞こえる……



「すいません……彼等のアホさ加減に鉱山一連の事がつい言葉に出ちゃったけど、イーザさんへの他意はないんです。」



「イーザさん貴女は責任を感じているかもしれないけど……あの惨劇は冒険者達の自己責任であり、騎士として協力しなかった『腐敗貴族共』のせいです。たしかに推薦したのは貴女かもしれないけど『決定』したのは他でもない彼等だ。だから、もう泣かないで……」



「でも……それでも!私は………彼等を鉱山に……………彼等を………」



「大丈夫だよ!イーザチャン!俺達は自分の意思で行ったんだ!それに足がなくても腕が無くても何とかなる!」



「そうさ!冒険者は受付の話は聞くが、最終的な判断は自分でするんだ。自分一人で背負うなよ!気になるなら……たまにランチデートしてくれれば俺たちは………だよなー?」



「ああ!それがあれば最高だ………それに腕なくなったからイーザちゃんが親身になってくれて意外と俺嬉しいんだぜ!デートで『あーん』とかしてくれればさ!ほら腕ないから食うには大変だしね!寧ろ俺的には嬉しいし」



「お前それ抜けがけだろ!腕無しアピールずりぃーぞ!」



 頑張って皆がイーザを元気付けようとしている。



 彼女は嫌われている冒険者には徹底的に嫌われているが、好かれている冒険者は本当に好きなんだろう……好き側は若干盲目的でもあるが……



「銅級の皆さんが言う通りイーザさんは悲観する必要はないでしょう!?だってトレンチのダンジョンで『秘薬』出るじゃないですか?時間かかるけど集めればイーザさんが鉱山に斡旋した人は全員治りますよ?『破損部位の完全修復効果』があるんですよ……『受け売りですが……誰だったか……そんな事を以前聞いた事があります』」



「あ、そもそも!伯爵か男爵に聞けば効果わかるんじゃないですか?あんなに欲しがってるんだから……」



「因みに、僕たち5階階層ボスで手に入れたんで、運が良ければ手に入ると思うし!……それ以外にも、ほら!こんな怪しい本だって出るんです!何が書いてあるか…………」



 希望を込めて言ったつもりだが、考えてみたら特定条件下でのみ手に入る箱だった………皆知らないんだった………やっちまった…………



 更にこの怪しい本と言った書物……錬金術の本だった……………



 イーザは秘薬に話で縋るような目で僕を見て………エクシアとロズとマッコリーニと男爵は白目になった……………



 ちなみに、伯爵は気まずさも有り目を逸らしている……この行為で僕の言った事がほぼ事実と語っている。



 ギルマスとサブマスは『秘薬は5階』と『破損部位の完全修復効果』を頭に刻み込んでいた。



 空気が物凄く重くなったが、ミオが話し始めるにはある意味話し易くはなった。



 僕が、なぜ此処で急に鉱山の話をしたかと言うと、


「そ……それでは、話が横にそれましたが昇格試験の合格者の発表です。今回は『冒険者証抹消』はありましたが、『不合格者』は居なくなりましたので、合格者のみ名前を呼びます。」


「本日は『諸事情』で受付が混み合ってましたので、ダンジョン入場証の返却は発表の後で構いません」


「呼ばれた方は窓口に向かい初級冒険者証を提示してお待ちください。後程『銅級冒険者証及び銅級認定バッジ』を配布します」



「バッジは魔法処理されており、専用のギルド書庫を使用するのに必要になりますので無くさない様に注意してください。ギルドカードも銅級冒険者仕様になりますので、階級が上がった場合速やかに『銅級冒険者講習』を受けてください」



「『毎回言いますが!!』銅級冒険者になったとは言え『この後』すぐに装備を買い集めない様に!自分の適正が正しいか確認が必要ですので……浮かれ過ぎて間違えた装備を見た目で買う冒険者が続出しています……装備には相応のステータスが必要なので、装備できない場合もあります注意してください」



「合格者です、ヒロ、チャック、パイロン、クラウン、リチャード、モア、ゼブラ、スゥ、モディ、ワイナー、ユイ、パムット、チャイ、ソナー、ビーズー」



「呼ばれた順番に序列はありませんし、ダンジョンを退出した早い遅いは関係ありませんので注意してください。稀に早く呼ばれる事を自慢なさる方がいますが、全くそんな事関係ありません」



「先程言いました様に不合格者はいません。冒険者証を速やかに提出して『銅級冒険者証』への変換手続きをお願いします」



「続きまして、初級統括のメイフィからの発表と説明があります」



「こんばんわ!メイフィです。今より本日付けで銅級昇格試験の資格を得た冒険者の発表をさせて頂きます。名前を呼ばれた方は速やかに窓口にいきダンジョン入場許可証を受け取ってください」



「イーファ、レガント、ザッパー、データ、ブルート、フゥーイ、エスナ、ミナー、ペム、ポートン、ラグーン、ローミー、シャイファー、セレン、ドーマ以上15名です」



「何度かこの試験を受けている方も複数名いらっしゃいます。前回何がいけなかったのかよく考えて行動してください。」


「それと、本日ですが銅級冒険者から階級落ちで数名F級に加わっています。皆さんも毎日の日課をしっかり熟す癖付けをしてください。落ちる原因の殆どが、「期間任務」を熟さないからです。ちゃんと毎日任務の計画を立てましょう!以上です。」



 メイフィが締め括ると『待ってました!』とばかりにビラッツが大きな声でアピールする。

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