第144話「乗り間違えはお約束?」

『イーザの悪巧み』


 ミオと仲良くしてるあの男が来た……私はコイツが考案したって言う依頼の『弁当チケット』を有効に使ってミオに『格の差』を思い知らせていたのに……使えない冒険者共が足を引っ張ってくれたおかげで『ゴブリン』や『ホーンラビット』が増えて被害が出たらしい。


 ちゃんとアイツらがコボルドジンジャーを見つけてきて、ゴブリンとホーンラビットを間引いてくれてれば!!私は今の様な惨めな思いはしなかった!


 冒険者の使えない馬鹿どものせいで私は降格……初級窓口から勉強し直しとか本当にふざけてる。


 そもそもこの男が弁当チケット依頼など考えつかなければこんな状況にだってなってないはずだ。


 この男が全てイケナイんだ……その上あのミオが銅級窓口まで総括する事になり昇格……降格した私は結果アイツの部下になった…


 今朝からアイツの下で働けとかマジでムカつくし絶対嫌…でも今日は運がいい朝からミオの顔見ないですみそうだ。


 今朝表門の列にゴブリンの群れ2つが襲いかかり大慌てで馬車の護衛と街の衛兵が対応……銅級窓口受付員達が怪我人の救助に向かったが、待機列の商人などは朝早いせいで皆寝てたらしく被害が甚大だった。


 その所為でミオに近しいメンツが全員駆り出された。


 ミオの太鼓持ちメイフィはミオの代わりにココで代わりに仕事する話になったが、私は行きたくなかったからメイフィの話を無視してたらサブマスに言われてメイフィが行くことになった。


 晴れてミオとは別の空間で私は窓口で早朝受付になった。



 そのミオからメイフィが何やらお願いされていた。



 そのお願いされた内容はっと……なになに…



 銅級冒険者昇格試験『最重要通達事項』



 『今日の東門から出る待機馬車は2種有り』



 (変更あり)銅級昇格試験用の鉱山行き乗合馬車『定位置』→『東門外・臨時位置』(重要変更!!要注意)



 (危険) 鉱山戦 連合討伐用乗合馬車 第二陣 早朝「単独冒険者用」『定位置にて待機』



 必ず試験受講者への通達事項、待機位置が変更になっているので通常定位置には誘導しない事。



 鉱山戦はかなり危険な魔物がいる鉱山なので要確認!要通達!!



 何が要注意・要通達よ……今の私には鉱山の魔物よりアンタの方が脅威よ!



 でも……いい事思いついたわ!ミオのお気に入りのアイツが試験受けられなかったらパーティー内で大恥かくし、通達しなかったと言う事でミオもアイツに嫌われるはず!


 ここはあえて『聞かれなかったから』知ってると思ったとかミオには言い訳しよう。



 どうせ現場行ったら魔物にビビって腰抜かして役に立たないから問題ないし……駆け出しの冒険者が魔物に挑むなんてあり得ないつーの!マッタク……


 見てらっしゃい!私をこんな目に合わせたヒロとか言う駆け出し冒険者に!憎きミオ!仲違いさせてやるからね!



 ◆◇◆◇◆◇◆◇


「あのーすいません……ここの馬車って鉱山行きですか?」



「おー?兄ちゃん!そうだぜ!鉱山用馬車はここだ。奥が空いてるから入って早く座ってろもう出るぞ!」



 僕は馬車の停留所まで行くと御者さんに確認してから中の冒険者に手を借りて乗り込む。



 前回タバサを送ったときに確認したので間違いないはずだし御者にも確認を取った。



 皆朝が早いせいか馬車の中で既に寝ている…坑夫は居ない何故なら鉱山で大型の魔獣が出ている為鉱山で仕事ができないからだ。今は大概冒険者が高山に向かうために使っているらしい。



 周辺を見回すと、冒険者にも家族がいるには当たり前で『頑張って稼いできて』とか『大怪我しない様に帰ってきて』など前者は『金>夫』で後者は『金=夫』の様だ…『行かないで』とは決して言っていない…



 東門から歩いて出ていく駆け出し冒険者もかなり多く見える……昨日タバサが持ち帰った宝箱効果だろうか?朝も早いのに頑張るのは、少しでも実力をつける為には良い事だ。



 1日の時間が限られている以上、薬草を朝早く集めて実力をつける為の実戦に1匹でも多くスライムと戯れる必要がある……全く戦えないタバサが変わった事が良い例だ。



 僕も乗り込んだら周りの状況を把握するために景色や地形を覚えておこうと思ったが、昨日遅くまで騒いでいた上にスライム使役の講習会もありさらに遅くなった…思っていたより疲れていたせいで結構な揺れだったはずだがぐっすり睡眠をとってしまった。



「オイそろそろ着くぞ!起きろ坊主!」



「あ!すいません……え?此処って………」



「何言ってんだ!見えてんだろう?目の前はもう鉱山だって!いよいよジュエルイーターと戦う連合討伐戦だぜ!腕がなるな!死ぬなよ坊主!」


 げふん…………乗る馬車………間違えた…………


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 僕は一瞬乗る馬車を間違えたと思い、周りの冒険者に聞くと逆に周りがビックリしていた。



 今日、定位置の馬車は変更されていて窓口でそのことが通達されていたらしい。



 僕がその事を聞いてないと言うと、ミオさんやメイフィさんがいたはずだと言われたので、窓口にはイーザさんが居た事を話したら皆が頭を抱えていた。


「ありゃダメな受付嬢だ……諦めな……このまま降りたらひとまず救護所で怪我人の様子見る手伝いしな!お前さんみたいな駆け出しが来る場所じゃない!怪我人用の折り返しの馬車が夕方に出るからそれに乗って帰れる。だからそれまで我慢だ。」



「マジか!?あの馬鹿受付。今日ぐらいしっかり仕事しろってんだ!後で俺らもギルマスに言ってやるから安心しろ再試験受けられる様に掛け合ってやるから。絶対諦めんな!あの馬鹿が駄目なんだ!」



「お前も何かされた口か?」



「俺はダンジョンの討伐数をあの馬鹿が押す他のお気に入りに水増しするために利用されたわ!担当受付に渡すとか言われたから頼んだら……聞いてないって言われて、更に倒した魔物全部あの女のお気に入りに付けられてた。」



「お陰で稼ぎは少なくなるし、討伐ポイントは貰えないしで最悪だった!まぁミオさんからギルマスに伝えて貰って事なきを得たが……今回は生死が掛かってるから!なやっちゃ駄目な馬鹿だ!」



「確かにな!コレは駄目な奴だよな……下手すると死ぬからな。因みに俺はダンジョンの入場制限かけられてギルマスに相談した……マジであの女何考えてんだかって感じだよな!」



 ビックリする事に馬車に乗る半分の冒険者が被害を被っていた……よく今まで受付をやらせて貰えてたと不思議でならない……日本だったらクレームでは済みそうもなさそうだった。



 僕は馬車から降りると救護所に連れて行かれた。



「アンタ災難だったね……まぁ今はこの辺で手伝ってくれるかい?怪我人が多いから手があると凄く助かるんだ。」



「たまに迎えに行ってもらうかもだが、周辺の冒険者が怪我人を戦場から引き摺り出すからそれを引き取って連れてくるとかそんな感じさ。」



「戦場付近には絶対入らないから大丈夫!緊張しなさんな!」



 男性の回復師と女性の回復師の2人と薬師のオネェさんに言われて、ひとまず救護を手伝う。



 包帯を巻いたり薬を振りかけたり軟膏を塗ったりとやる事は多岐に渡り、時には冒険者が肩を貸しながら連れてきた意識の無い者の救護をしたりと、かなりハイペースに仕事をこなす。



「アンタ筋がいいね!回復師向きなんじゃないか?今度適正あるか調べてみるといい!」



 そんな話をしながらも、非常に明るく振る舞う二人は凄かった。



 弱みを見せず頑張って救う姿を見てたらユイナさんを思い出した……彼女は現代ではこんな仕事をしてたと思うと凄い人だなと尊敬さえしてくる。



「坊主!すまん。向こうから来る、あそこの冒険者に肩を貸してやってくれるか!」



「ハイ分かりました!」



 僕は回復師の何気ない指示で向かって行くが、この行動が全ておかしい方向に向けてしまった……



「大丈夫ですか?もうすぐです!いま回復師のところに連れて行くので頑張ってください!」



「あそこにまだ倒れているんだ!頼む!大切なメンバーなんだ……俺のパーティーのメンバーなんだ!助けてやってくれ!」



 そう指さされた先には一人の男が倒れていた。



 鎧はひしゃげピクリとも動かないので、もしや既に間に合わずこと切れているのではないか……と思えてしまう程だ。



「頼む!俺も左足が折れててあそこまではとても戻れない……アイツあのままだと死んじまう!」



「わかりました!任せてください!」



 そう言って僕は駆け寄る



「おい!?坊主どこ行くんだ!駄目だそっちは!」



 僕が向かった先には多くの冒険者が戦う戦場だった……先程の場所は大きな岩壁が邪魔で奥まで見えなかったが結構な広さがあった。



 銅級冒険者の他に多分だが銀級冒険者と思われる凄い装備に身を包んだ者が最前線で盾を構え攻撃を受け止めている。



 中には攻撃に堪え切れず吹っ飛ばされる冒険者もいたが、転がりつつも受け身を取り傷薬を頭にぶっ掛けてから飲み干し戦場に戻る……



 使っている薬の色と大きさからしてよくて中級程度だと思われる。



 そんな程度の回復で前線に復帰するなど、まさに地獄絵図だった……

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