第120話「タバサの勇姿と新たなる仲間」


 僕達は少し話してからギルドに向かうと、ギルドではミオさんとメイフィさんがお弁当集計をしていた。



 お弁当の引き取りと食べた弁当箱は持ち帰らず、棄てずに返却する様に皆に言っていた。



 周りのお弁当が手に入らない受付達や解体窓口担当者などが、入れ替わり立ち替わり注文していた。



「あっ…ヒロさん。おはようございます!朝からもう大変です。揉みくちゃです…『踊るラビットお弁当集荷サービス』は物凄い人気ですよ。朝晩のお弁当を注文する人が殆どです!」


「あ!ひろさーーーん!おはよう御座います!」



 初心者窓口の一番端からメイフィさんに大声で挨拶されて、皆の注目を浴びて恥ずかしかった。



 受付の人が皆なぜか僕を見て会釈する。



「おい!ボウズ!お前凄いな。俺食べたかったんだよ〜あの店のメシ!入れないし買えないし…お前さんのお陰で家族分全部買えることになったから皆大喜びだ!」



「じゃあ、昼食時に家族皆呼んでギルドの長机でランチもいいですね!そうすればお弁当冷めないですよね?」



「お前!本当に頭いいな!ちょっと家族に言ってくるわ!」



「オイ!ミオーちょっと数分家に行ってくるから!誰か来たら待たせといてくれ!」



「はい〜了解しました〜。」



 そう言って家に向かった様だが…家がそんな近いなんて…家から職場が近いのは私生活との切り替えができなそうで嫌だな…とか思ってしまった。



「今日の予定はどうします?ヒロさん?」



「薬草30束とスライム6人で30匹討伐ですかね?…他に無いですもんね?受けられるのって…」



「はい…初心者が正門や裏門から出ても、フォレストウルフと戦って勝てる見込みがないので自力上げにはスライム退治と、貯水池付近の森から稀に出てくるゴブリン討伐ぐらいですね。」



「スライムは貯水池の他にも魔の森外縁部水路に、水門付近と郊外畑付近の水路、溜池周辺にも生息してますのでそちらに行くのも手です。」



「スライムの個体数が一番多いのは貯水池で次いで水門付近と貯水池外縁ですが、畑付近はスライムの個体こそそこまで多くはないですが、ホーンラビットやゴブリンがかなり目撃されています。畑の作物狙いですね。」



「魔の森外縁部水路はスライムの数はそうでも無いですが、ゴブリン斥候がよく目撃されます。稀にゴブリン戦士やホーンラビットの群れや跳び蜘蛛が出ます。魔物の種類が多いので戦闘パターンが多くなりますので要注意です。」



「魔物の種類が多い分討伐部位が多いので、経験を積んだ人はこの辺りでさらに経験を積んでいます。」



「ゴブリンはある程度討伐した場合、何かしらの依頼完了とかにはならないですよね?」



「そうですね…ゴブリンへの依頼は銅級からなので無いですが、冒険者として経験やレベルを上げるのにはスライムとは全く違うので、無駄では無いですよ?」



「今言ったのですが、銅級の依頼にはゴブリン退治がありますので、今のうちに慣れておくのも大切です。」



「とりあえず、薬草採取に行ってきますね!」



「は〜い。行ってらっしゃい!」



 ……………


 ………



「やっぱり凄い人かもですねミオ先輩!ゴブリンをある程度倒してなんて初心者は言えませんよ…稀にいる凄い冒険者な感じがしませんか?」



「そうね…ギルド・ファイアフォックスの紅蓮エクシアさんとか、ギルド・癒しの剣ジャスティンさん、ギルド・希望の盾テイラーさんとかの話を思い出すわね…皆スライムやゴブリンをたいした魔物と判断していなかったと言ってたわ…。」



「そう言えばヒロさん達って、ファイアフォックスのギルドメンバーとマッコリーニ商団とこの街に来たらしいから戦闘経験あるのもおかしくは無いのかも…」



「でも今は皆さんが、銅級冒険者になる事のお手伝いをするのが私たちに役目よ!」



「はい!頑張ります。」



 ミオとメイフィのそんな会話が交わされている中、僕達は東門の薬草が植えられている柵に向かっていた。



 柵に到着すると、ホーンラビットが2匹柵の中で暴れていた。




 タバサは躊躇なく柵を飛び越えると、数歩で1匹目のホーンラビットに接敵して初心者用のナイフを急所に突き立てると、腰を低く盾を構えて2匹目のホーンラビットの方へ向く。




「皆さん!今のうちに柵の外に!ホーンラビットには背中を向けずに、避けられる体制を維持しつつゆっくりと後ろに下がってください!」




 タバサの的確な指示に皆、冷静さを取り戻したらしく言われた通りにラビットに向かい合う。



 タバサはホーンラビットの最後の1匹が、自分以外の冒険者を敵視しているのを確認すると、ナイフを構え素早く数歩で距離を詰める。



 ホーンラビットがタバサの動きに反応した時には既に遅く、次の瞬間タバサのナイフはラビットの急所に吸い込まれる様に刺さっていた。



 見事な体捌き具合は、ベンとロズによる教え賜物だろう。



 皆がタバサの行動にビックリしているが誰も彼女をオーク娘などとは呼ばないのは、彼女の行動が自分より遥かに上の冒険者だと自覚した為だろう。



 僕達はすぐにタバサに駆け寄ると、彼女が1人で倒したホーンラビットを見て…




「このな丸々太ったウサギ、ビラッツさんに納品したら喜びそうなサイズだね」



 と言ったら、




「持っていったら、美味しい部分を私のお弁当に入れてくれますかね?」




 と笑っていた。




 もう彼女は昨日のスライムとゴブリンの一戦で肝が据わり、この周囲の魔物に対して対応ができる様だ。



 ひとまず柵の外に穴を掘り、タバサに今倒した血抜きと魔石を取り出して見せる…食料の作り方に魔物の解体と魔石の取り出し方のレクチャーだ。



 昨日のミオへのお弁当受け渡しで、僕のクロークの中は温度変化や腐敗の進行がほぼないのが分かったので、ラビット肉はバッグにしまうふりをしてクロークにしまい、魔石はタバサに渡して僕のクロークの説明もコソッとしておく。



 次にビラッツに会った時にでも、この肉は調理してもらおう。



 僕達は腰を据えて薬草を採集し始めるが、タバサの周囲には今まで彼女を馬鹿にしていた冒険者達が詫びを入れて、一から関係をやり直したいと申し出ていた。



 まさに今、彼女に同期の見習い冒険者の仲間ができた瞬間だった。



 彼女は皆に説明しながら採取のより良い方法を伝授している…多分薬効成分の高い薬草はこうやって採取するのだろう




 途中から僕達以外の新人も加わり、皆でワイワイ採集していると例のハゲた冒険者が混ざってきたので昨日の討伐報酬の件を話すと全面的に受け取りを断られた。




『あの時間帯にいなかった自分に原因がある』だから参戦した人数で頭割りで問題ないと断られたので、凄くしっかりした冒険者なのだと改めて理解した。



 しばらく採取していると、シールドのメンバー4人も参加してきたので挨拶して採取を手伝い、このあとスライム30匹だと話しておく。



「おし!これで全員収穫完了だ!じゃあスライム退治に行こうか!」



 シールドのメンバーがそう言うと、薬草を近くで集めていた女性二人組がスライム退治の為に『シールド』と臨時パーティーを組みたそうにソワソワしてたので、彼等にそっと耳打ちする。



 僕らは女の子2人を追加した合計12名の2連合パーティで、その日は各パーティで最低30匹スライムを狩ることが目標になった。




 タバサとソウマのシールド講習会だった…



 ソウマの盾の扱いは『シールド』のメンバーが前のめりに聞いて実践して、タバサの立ち回りと盾の使い方になぜか周囲から人が集まってきてタバサが教える形になっていた。



 両方ともファイアフォックスのロズさんとベンさんに教わった物だと説明すると、あちこちでそれを取り入れた実技訓練になっていた。



 もちろんタバサ彼女自身も実戦で、立ち回りと戦闘感を養っていた。

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