第88話「パームのお節介極まる……結果マッコリーニが撃沈」
「何を申しておる!お前達の村の男手を借りている以上、ここの領主としてお前達を守る義務が私には有るのだ!娘達の我儘で其方達を放り出すわけがなかろう!」
折れない男爵に各村の村長は付け加える。
「いえいえ!男爵様!ずっと帰る訳ではありませんよ…村を見て直せる部分を直してまた帰って来ます…あと畑も気になりますしな!どうせ明日には一度帰らんとならんのですよ!」
「そうです…長くて2日位の間だけですよ、男爵は3日もずっとご飯を食べ続けるわけではありませんでしょう?我々は今日から数日間だけ村を見るだけです。それに男衆が鉱山に行っている間の畑の世話だって有るんですよ!」
さすが村長だけあって、口が上手い無駄に歳をとっていなかった…そこにマッコリーニが男爵に言葉をかける。
「男爵様がご利用なさるには相応しく無い店かとは思いますが、その部分に目を瞑って頂ければジェムズマインで今予約しないと食せない程の一番人気な店では御座います。」
「店の主人は私の知り合いでありまして、本日は特別に我が商会で貸切にしていますので他の目はありませんし、席数と食材の量はご家族の分は十二分に御座います。」
「もし、席と食材のことをお気にされているのであれば問題なくご用意させて頂きますが…。」
男爵が先程の美香の能力を見て、『少しでもファイアフォックスと知り合う為にはいい席だ!』と考えて返事をしようとするが…既にその前に父親の後をついて来た3人娘はマッコリーニの言葉を聞いて、エクシアの借りている荷馬車の荷台に勝手に乗ろうと果敢にチャレンジしていた…。
それを見た村人は笑いながら「こりゃ行くしか無いね!男爵様!」と口々に言っていた。
「す…すまぬ…マッコリーニ殿…今皆の分の馬車を用意させる…荷馬車は我が兵にファイアフォックスのギルドまで届けさせよう。」
「兵よ!馬車を用意せよ!今からジェムズマインの街まで出向く!」
「執事よ、先に馬でジェムズマインに行き別邸の準備を、準備が終わったら踊るホーンラビット亭に。今日は帰りが遅くなるだろうから夜は魔物も危険であろう…ジェムズマインで泊まり、明日朝に村の様子を確認して戻るとしよう。」
その後、結局街まで行く事になった男爵一家は急いで作りの大きい頑丈な作りのコーチと呼ばれる種類の馬車を用意した。
エクシア達が乗ってきた馬3頭にはベンにベロニカそれとエクシアが乗った。敵性探知ができるベロニカが先行する事で魔物対策になるためだ。
馬車は2台用意され、1台目には異世界組の僕達5名が何故か詰め込まれた。
御者席と助手席にはゲイルとマッコリーニが座り、馬車の後ろには兵士が2人フットマンとして立っている。
2台目の馬車には男爵家族で御者席と助手席にはテロルとロズが乗り、この馬車の後ろにも2人フットマン兼兵士が立っている。
兵士は帰りにこの馬車の御者になるらしい。
男爵が屋敷を出ようとした時、村人が歓声を上げ始めた…男爵に恩のある冒険者パーティーの輝きの旋風が2つの村の護衛を買って出たのだ。
ちょうど4人のメンバーは各村に2名に分かれて行く事にした。
メンバーはエクシアとマッコリーニにまたもや馬車を貸してくれと言ってきた…理由は村に行く間小さい子供もいるので、幼い子は荷馬車に乗せて連れて行くらしい…翌日朝になったらギルドまで届けるという。
執事が男爵家の荷馬車を輝きの旋風に貸すと言ったが、今から皆で飲んでしまえばエクシア達は荷馬車の準備などできるはずがないので村人の為に貸し出した。
男爵の用意した馬車は4頭だての馬車でスピードが出るお陰で街まで早く着いた。
一足早くジェムズマインの街についていた男爵の執事は、非常に優れた人物の様で既に男爵邸の宿泊準備をメイドに伝え終えて、クリスタルレイク領に通じる門で男爵を待っていた。
「お早いお付きで男爵様…既に男爵別邸の準備は指示しております。御令嬢様がいつお眠りになっても大丈夫な様メイド達に準備をさせておりますのでご安心を。」
「踊るホーンラビット亭の店舗は西区画側にございます。マッコリーニ様が前の馬車にいらっしゃるので道の方は大丈夫かと思います。」
「そうか!ならばお前も一緒に来るが良い。今後の事もあるからな今のうちにファイアフォックスと懇意になっておかねばならんのだ!お前がいると私が気が付かない事も教えてくれるからな。」
そう言って男爵夫妻は座っている座席を詰めて乗る様に言う。
執事な為、主人と同じ席などあり得ないのだが今馬車には御者席は勿論、助手席も全て埋まり後ろのフットマンの場所さえも埋まっている。
男爵の横に座るしか無いのだが、ロズは…
「執事の旦那ここに座るといい!俺は一旦ギルドによって『指示して行かないとならない』事があるからな!」
そう言って、座席からおりるとエクシアにギルドで用意をする様に伝えてくると伝えて、足早にギルドに向かっていった。
「旦那様…ファイアフォックスのギルドは気持ちの良いことをなさる構成員が揃ってますな…旦那様の言われた事がよくわかります。マッジスも心から良い仲でありたいと思います。」
そう男爵に伝えると、テロルの隣の助手席に座る。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
踊るホーンラビット亭に着いた後、マッコリーニは人生最大のピンチだった…男爵一家が来るなど妻のパームにも、支配人のビラッツにも伝えていないのだ。
急に決まった事なので当然と言えば当然だが、知らぬ当人とすれば何がなんでも知らせてほしい事態である。
2人は男爵家族とファイアフォックスと謎の旅人が見ていないところで『マッコリーニ』に滅茶苦茶キレていた…。
馬車がついた時に一番最初に会うのはエクシア達ファイアフォックスのメンバーと馬車の助手席で案内をする亭主なのだ…妻のパームは商団の主人の妻として当然旅の成功のお礼を言うのは当たり前だ。
事前に手紙で読んでいた事もあり、男爵邸宅に豪勢な馬車を用意して『大切な旅人を乗せてきた』と勘違いしてもおかしくは無い。
それに手紙に同封していた『素晴らしい飲み物』と娘のレイカがくれた『飴ちゃん』なる物をくれた本人が居る…その上その旅人と僅かな期間旅をしただけで娘の体調はまるっと180度変わったのだ…そんな凄い事をこなして、素晴らしい物を気軽にくれる人だから『当然馬車を用意した』のだとも思った。
当然2台とも『その旅人達がのっている』と思っていてもおかしく無い…2台目を助けられた騎士テロルが御者をしているのがそれを物語っている…と勘違いした。
「あらあら!ようこそいらっしゃいました!『あの普段娘の事しか見えてない馬鹿亭主の割にはこんな気の利いた馬車』を用意するとは!」
「ファイアフォックスの皆様に!えー旅の方々?で良いのですかね?この度はうちのバカ亭主がお世話になりました。今日は大したお持てなしは出来ませんが、ゆっくり旅の疲れを癒して頂ければ幸いです。」
「さぁさぁどうぞ!お前達!すぐにお客様を店内に!客人をお待たせしちゃだめよ!ご案内なさい!」
そう言ってパームは一台目の馬車の窓に声をかけてから、お付き達に案内する様に促しその足で2台目の馬車に向かう。
「バカ亭主が、箱の中に押し込めて窮屈でしたでしょう!是非店で足を伸ばしてゆっくりなさってください!」
「ちょ!…パーム!待ちなさい!待ちなさい!其方は!…」
「お店の料理は街一番の人気店ですから!旅のお方も、遠慮無くどうぞ!旅のお礼を用意させて…はぁぁぁうううう!…こ!これは…だ!男爵様⁉︎何故ここに!」
「は!…た!大変失礼致しました!この馬車は男爵様の物なのですね!と…とんだ失礼を!(土下座)」
「いやいや!マッコリーニ商会の女主人殿!今宵は『是非足を伸ばさせて貰おう』と思っているぞ!それにしても奇遇だ!私も『娘の事しか見えてない馬鹿亭主』なんだぞ?はっはっは!」
男爵一家は執事の案内で店に入って行く…土下座中のパームの幽鬼の様な恨めしく睨む目がマッコリーニの寿命をゴリゴリと削って行く。
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