第69話「最後までダメな刺客たち」
一部始終を見ていた門の衛兵達は、挨拶程度をしてギルドメンバーを称賛し興奮のあまり大きな声で話をするばかりで僕らの身分証明なんてする気も無くなった様だ。
マッコリーニの荷台の荷物も一つも見る事もなく(異常無し)の認印が書類に押される。
それで良いのだろうか?と思ったが僕らは身分証明なんて持っていないので、結果助かった。
僕らの身分確認もどきの間にエクシアが、騎士テロルと番犬の件の一部始終を衛兵長に話す。
衛兵長的には起きた事の擦り合わせであり、『番犬』の行った罪の確認なのだろう。
僕が3人娘と兵士達そして騎士テロルを助けた事は伏せる事はできない。
何故ならテロルが話したからだが。
エクシアの説明を聴いた衛兵長はすぐに何かを記した紙を1人の衛兵に渡して、自分は馬に乗りこう告げる。
「直ちにクリアレイク家ウィンディア男爵様の別邸と男爵本邸に報告に参る。番犬のリーダーは何かを企んでいる恐れもある。お前達はこのまま警戒を怠らずに一般列門及び貴族門を警護する様に!我らが守る領民を傷付けようとする輩を絶対に逃すな!」
そう言うと、衛兵長は馬を走らせて男爵が住う街の別邸へ向かっていく。
僕らは自由の身になった。
僕はロズに促されて街の方へ向かう様に歩くと、ゲオルと話込んでいた先程の衛兵が僕を見て、頭を深々と下げてありがとうございます……と言った事からゲオルが事情の説明をした様だ。
因みに後で分かった事だが、身分証が無くても普通に入れるとのことだった。
身分証があれば中に入る際の入場料が免除され街の施設が使えるとの事で、逆に身分証が無いと街の施設はほぼ何も使えないらしい。
なので冒険者登録をする為に一番最初に必要なのは身分証だった。
しかし僕ら異世界組はその身分証明をすぐに手に入れる事はできない様だ。
何故なら、まだ依頼も問題も解決していないのだから。
エクシア達は事件を気にしつつ自分のギルドの依頼を確実に熟す。
依頼人の安全を第一優先にするのが冒険者だ。
エクシア達は商団の積荷を店まで護衛する。
特別指定がない限りは本来は積荷を城内に運び込み、衛兵による検査確認完了時点で確認印を貰いギルドに任務終了を告げにいくが、マッコリーニの場合は他の商団から妨害を受けるだけで無く命さえ狙われた旅でもあった。
その為エクシアは敢えて彼が経営する商店前まで護衛することにした。
エクシアは、相手が根性がねじ曲がった商団だけに襲撃の罪を隠せない今となっては、最後の手段としてマッコリーニ本人を狙ってくると考えていた。逆恨みの犯行だ。
但しエクシアが先手を打った為に、暗殺を生業にするプロ集団の襲撃はないと考えおり、奇襲による襲撃は街に近い場所とも考えていた。
その為商団が、街へ着く直前である最後の夜営時に襲撃があってもおかしく無いと考えていたのだが…エクシアは勿論、襲撃側さえも予期せぬ騎士テロルの件があったのと、前日の夜営はマッコリーニが食事を振る舞った為に襲撃するには難しい程多くの冒険者が野営地にいた。
実はこの図らいもエクシアが考えた案のひとつだった。
不特定多数の冒険者や旅人が夜営地の側に居ては誰が刺客かわからないため、エクシアはマッコリーニに冒険者に飯を振る舞う様にわざと指示をした。
フォレストウルフの肉など旅の間に手に入れた魔物食材だ。
お金で仕入れた物では無いので懐は痛く無いし、相手のチャンスさえ潰せば時間の無い相手は勝手に自滅するからだ。
それにこうする事で、今此処にいる者が何処から来て何をしに何処へ行くのかが自然に聞ける上に、それとなく自然に持ち物を調べることが出来る。
襲撃目的ならば旅人より遥かに荷物量が少ないし、万が一荷物があっても持ち物が絞れれば判断の材料になる。
因みにそれを知らない僕は、男爵の馬車の為に飯を冒険者に振る舞う話をエクシアにしたところ、彼女はその考えをうまく利用してその周辺の冒険者に声をかける手に出た。
流れは自然である上に使える駒を纏めて使ったのだ。
ゴロツキなどの雇われ襲撃犯の多くは貴族が側にいれば動けない。
貴族がいる場所で万が一にも事件を起こせば街にる仲間に家族に友人、その個人に関連する人間全てが報復として縛り首になる事は間違い無しだ。
貴族にとって一族が危険に晒される事はあってはならない事だからだ。
それに、此方としては貴族の令嬢がいる以上身元を調べることが可能だ。
寧ろその為にテロルをうまく使ったに過ぎない。
本来協力を渋る冒険者が自ら馬車を使える様にする事で、貴族に恩も売れ美味い飯も食えて一石二鳥な上、エクシアは貴族の名前を使い冒険者証や身分証をテロルと一緒に見ることができるのでそれも襲撃者の判別に役立つ。お互いハッピーだ。
万が一にも身分証明を出さない奴や身分証その物を偽造していれば、そいつが襲撃犯である可能性も出てくる。
しかし結果的には怪しい者も居なく夜襲も無かった。
予定外の事件に多くの冒険者の目、そしてよりによって男爵の令嬢までが夜営に混ざる始末、それらのせいで夜に奇襲ができないのは当然だ。
これで残された道としては、入場門の列に並ぶ時と入場してから店までの間だ。
実の所、襲撃犯として雇われたゴロツキが数名居たが、夜営するだろう候補の場所に行く手前で騎士とフォレストウルフが闘っている様を遠くから見てしまいフォレストウルフの数に恐怖して命惜しさに逃げ帰っていたのだった…。
残された道のない敵商団は、後わずかで犯罪奴隷になるのは目に見えている。
黒落花生商団の主人は自分だけ不幸になるのが許せずにいた為、死なば諸共……マッコリーニの命を奪いに行商帰りのフリをして数名の商団員と奴隷を連れて武器を持参し列に並んでいた。
しかし、此処でも例外が起きてしまった騎士テロルの存在だ…事情を聴きに来た兵士がマッコリーニ商団にファイアフォックスのメンバー全てをよりによって貴族門から入場させてしまったのだ。
どうせこの先はない…と飛び出ようとした矢先、今度は番犬のギルドメンバーが先に衛兵に突っ掛かったせいで完全に出鼻を挫かれていた。
今飛び出ても警戒されているのでマッコリーニに辿り着けずに終わる…。
敵商団の刺客が手を出せるのは今を置いて無い。
何故ならばマッコリーニが商店に戻れば敵商団による刺客事件の詳細書面にサインがされるからだ。
全ての財産が凍結され、犯罪奴隷に落ちるのは分かりきっていた。
その為に、最後の手段で列に並んでいたが、簡単な機会さえ熟せない商団主だった。
因みにエクシアが打った先手は、前もって出していた敵商団の襲撃及び犯罪についての証明書類であった。
内容は出先で捕まえた敵商団員の自白で、途中の村に居た警備兵に突き出したのだ。
馬鹿なことにこの商団員はこの警備兵を賄賂で抱き込もうとした。
それも『商団に協力しなければ今後ひどい目に遭う』等と威圧混じりに…領主に忠誠を誓う兵士の相当な怒りを買ったのだろう…半殺しにされ即投獄された。
罪状は『国の危険を守る衛兵を買収し、犯罪に巻き込もうと企んだ罪』として既にその村の村長による状況確認も済ませ、縛り首が決定済みだ…マッコリーニが書面にサインすれば移送されるだろう。
その一部始終の情報を、エクシアがマッコリーニに指示して随分前に街まで早馬を出し、その処理をマッコリーニの妻が代理で行ったのだ。
エクシアにとってはこの一手が大きかった…暗殺組織である敵の動きを封じる最高の一手になったからだ。
==登場人物・用語集==
人物紹介1
野口 洋 学生♂高校3年生
石川 美香 学生♀高校2年生 金貨94
黒鉄 そうま 消防士♂27歳 金貨94
伊澤 結菜 看護師♀ 24歳 金貨94
遠野 雛美 学生♀高校2年生 金貨494枚 銀貨
『精霊』
モンブラン(性別不明) (聖樹の精霊)
水っ娘ノーネーム(水の精霊)
『ギルド』
『ジェムズマイン 街営ギルド』
テカーリン♂(ギルドマスター)
デーガン♂(サブマスター)
ミオ♀(ギルド事務員)(駆け出し)
メイフィ♀(ギルド事務員)(駆け出し)
バラス♂(解体担当)
イーザ♀ (ギルド事務員)(銅級)
コーザ♀ (ギルド事務員)(銅級)
オレンジ♀(ギルド事務員)(銅級)
フロート♀(ギルド事務員)(銅級)
『ギルド・ファイアフォックス ギルド等級 銀3級』
紅蓮のエクシア R「ギルドマスター」♀ (銀級2位)
ロズ(戦士・タンク)♂銅級3
ベン(戦士)♂銅級3
ベロニカ(弓使い)♀銀級3
ゲオル(魔法使い)♂銀級3
ザッハ「サブマスター」♂
リープ(事務員)♀
フィーナ(販売員)♀
ゴップ(解体担当)♂
『ギルド・番犬』
ゲルゲ(ギルマス)
『商団・商会・商店』
マッコリーニ商団
パーム(妻)♀(店長)
レイカ♀(娘)
ハンス(執事)
御付き1♀
御付き2♀
売り子A♀
売り子B♀
売り子C♂
売り子D♂
食事処「踊るホーンラビット」
ビラッツ(支配人)
宿屋「宿屋 陽だまり」1日銀貨5枚(食事、風呂付き)
亭主♂
『貴族』
『クリスタルレイク家』
ウィンディア男爵(父)
フロウティア(母)
マッジス(執事)
アープ(長女)
イーファン(次女)双子
ウーファン(三女)双子
騎士 テロル
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