第20話「水の中級精霊さえ知らない水魔法」


 ひとまず持っていた水鉄砲を水の精霊へ渡すと、思いの外楽しそうに遊んでいるのでその様子を眺めていた。


 しかし水の中級精霊は思い出したかの様に、突然壁に向かって水球をぶち当てた。



『ウォーター・スフィア!!』



 轟音と共に砕け散る擬態したスライム……。


 今までそこに居たはずの壁を模した3匹のスライムは、魔法の衝撃で跡形も無く消し飛んでいた。


 突然起きたその様に、僕とモンブランは開いた口が閉まらなかった。


 そもそも僕的には、突然頭に言葉が響いたと同時に巨大な水球が飛んでいき、それが『魔法』だと理解するのに結構かかった。


 魔法の名前に至っては、僕は全く聞き取れなかった。


『ごめんごめん!あまりにもこの水鉄砲ってのが面白くてスライムの壁忘れてた!今水魔法ぶち当てたからアイツら消えたでしょ?これで通れるよ!』


 そう言って水の中級精霊はそっちの方を指さす。


『ここから先の壁にくっついてるスライム達は、魔法ぶち込めば消えるから!同じ様に魔法で倒すといいよ!この下の階も同じ様に何箇所か居るからね!』



 そう言われて僕は、大きく崩れた入り口からそっと中を覗くと、端が水路の様になった空間があった。


 この先は、半分は湧水の通り道の様な道が続く様だ。


「えっと……僕魔法が使えないので倒しようが無いし……この先は階層主ですよね?危険な場所に足を踏み入れない方が今は良いかと思いまして……そもそも厳密に言うとまだ冒険者でも無いですし。」


 僕は水の中級精霊がわざわざ道を開けてくれたので、悪いと思い苦しい言い訳をした……


 モンブランには悪いが更なる言い訳に使わせて貰う。


「モンブランが水の精霊達と満足いくまで話したら、村まで帰ろうと思ってた所なんですよ。」



『聖樹っ子が満足いくまで話したらって本気で?冒険者なのに冒険しないで帰るの?』



「いや……目的は最奥部だったので、村の人の話だとココだったんです。でも此処はダンジョンで、最下層までまだ有るって話なので、危ないかなぁ……とか思った訳だったり……」



 到底一人では何も出来ないのは間違いでは無い。



「村には仲間も居ますし、そもそも先ほど言った様にまだ冒険者の登録さえして無くてですね。」



『え?冒険者じゃ無いの?契約者じゃ無いのに……じゃぁ何で私と話せるの?』



『そこなのよ!水っ娘ちゃん!この人間変なの!何故か私が見えて話が出来て……話すと長くなるんだけどね!取り敢えず変なの!』



『そうね!聖樹っ子ちゃん!コイツ変よ!違和感なく私と話してるし……普通さ……水精霊様!ぎょえええー!!……とか……水精霊様!どわぁぁぁぁぁぁ!!……とか……大概そんな感じなのよ?」



 聖樹の精霊と水の精霊は酷く僕を馬鹿にしている……


 水精霊に至っては、他の冒険者の真似までする始末だ。


 しかし水精霊の話は終わることはない……



『そして人間は二言目には水の加護ください!とか、水の魔法の伝授を!とか大概言ってくるのに…『いやぁ…僕は冒険者登録まだなんで〜』とかそんな事言うやつは、今まで見た事もないわ!』


『水っ子ちゃん!聞いてよ!それもコイツね……インチキ魔石脳なのよ!魔法教えて少しは私の重要性を教えようとしても自力で解決しちゃうのよ!アイスの魔法教えてみたら何も聞かずに成功させるのよ!おかしいと思わない?』


 モンブランの魔法話を聞いた水の中級精霊は、何かを思いついた様だ……


 試しとばかりに僕に……


『ちょっと水魔法使ってみなさいよ!私達の魔法はそんじゃそこいらの魔法と違うんだから!すぐに使えるわけないわよ!』


 などと言い始めた……


「いやいや!ちょっと待ってください!俺は魔法の魔の字も知らないのに…」



『良いからやりなさい!出来なくて良いのよ……そしたら私が!水の大精霊様がぁ!ちゃんと初歩からゆっくり教えてあげるから!』



『ちょっと!水っ娘ちゃん!なんかそれ私への当て付けに聴こえるんだけど?』



『違うわよぉ?水の魔法は難しいから?水の大精霊のワタクシが教えてあげるから!って、言いたかっただけよ?それに氷魔法なんか誰でも使えんじゃないの?ぷぷぷぷ……』


 モンブランは馬鹿にされた事を理解して歯軋りをしている……


 しかし水精霊のダメ出しは続く……


『そもそも!聖樹っ子がなんで自分の属性じゃない氷属性教えてるのよ!そこは聖魔法じゃ無いの?回復とか!加護とか!付加属性とか!』


 ダメ出しを連発されたモンブランは無茶難題を言い始めた……


『ちょっと!アンタ!今すぐ絶対成功させなさい!水魔法ぶっ放してやりなさい!あ・そ・こ・のスライムに!』


 僕が魔法を唱えられる筈もないのは一目瞭然なのに……


「え……っと……失敗しても知らないですよ!やり方も全く判らないんですから!」


 二人に半ば押し切られる様に僕は水の魔法を使う事になった。


 氷の魔法が成功した時の様にイメージからしてみる。


 まず水の大きさをイメージしてみる。


 と言ってもイメージさえどうして良いか判らないので、基礎は『水の弾丸』の様なイメージをする。


 そして水精霊が先程やった様に、その弾丸がいくつも飛ぶイメージをする。


 発射するときには水精霊への感謝を忘れずに……



『ウォーター・バレット!』



『ズドドドドン!ドォン!……………………』



『待てぇぇぇぇぇぇい!何ですか!その魔法は!ワテクシ……ソンナノ……ミタコトアリマセン!』



 水の中級精霊は見たこともない魔法と威力に、もの凄く慌てたかと思うと直後すぐに壊れた……



「え?ですから…えっと…水魔法?」



 以前モンブランに言われた様にしてみた……


 しっかりイメージして、氷魔法の時の様にしたら結果は大成功だった。


 しかし水精霊はこれを水魔法として見た事がなかった様だ。



『どうですかーー?コ・レ・が!!私の持ち主(植え替え主)デ!!アリマス!』



 してやったりのモンブランは、どう見ても鼻が伸びすぎていた。


 そもそも木の精霊だから、鼻が伸びるのは某人形と同じなのだろう。



『ウォーター・バレットってナニヨ!!魔法はちゃんと意味が通らないと発動しないんだから!聖樹っ子!なんかインチキしたでしょ!』



 僕はインチキ扱いされたのでその説明を細かくすることにした。


「いやいや!僕は魔法は全然やり方も構造もわからないので、モンブランが氷の魔法教えてくれた時の様にやっただけですよ。まず水の弾丸のイメージを作って、水精霊の力で射撃するイメージをして、水と精霊に感謝して『ウォーター・バレット』って言いました』


『ウォーター・バレット??』



「意味は水の弾丸です。」



『ほ……ほう……ミズノダンガン……聖樹っ子!ダンガンッテナニヨ!!教えなさいよぅ!』



『知らないわよ!私も初めて聴くもの……』



 水の精霊は小声でモンブランに聴くが『念話』なので、残念な事に全部聴こえている。



「えっと……水で作った弾タマのことですね…」



『球たまって事ね!成る程……そうか!私がさっきやったウォーター・スフィア(水の球体)を基にしたのね!やるじゃ無い!先生(私)がいい証拠ね!』



 水精霊の自己完結の方法がエゲツないが、魔法が出来たのは精霊のおかげだから感謝しないと……など思っていると何故か講師気取りで採点を始めた……


『成る程!小さな球を複数打ち出すのね!瞬時に私の魔法に近づけてアレンジするなんて……良いとこ見てるじゃない!いいわ80点あげましょう!水魔法合格範疇よ!』



『え?ヒロシさっきの魔法見えたの?突然すぎて水球だったなんて分からなかったけど?』



 残念なのは水精霊だけでなくモンブランも同じ様だ……



「いえ?全く見えませんでしたよ?でもまぁ……納得してくれたならそれで良いかな……なんか水魔法使える様になったし……僕…」



『………………またまたぁ〜!!水の球体……2人共見えてたくせに……』



『(聞こえないフリ)……そう言われればそうね……エクシアちゃんもアナタは規格外言ってたけど……絶対変よ?アナタ……まぁ、水っ娘ちゃんも私と同じ反応したから!よしとするわ!』



 水精霊の問いかけに、あえて答えない様にしたモンブランは、何故かエクシアのセリフを思い出した様だ。


 それにしても言われてやったのに、最後はモンブランに何故かdisられた……納得がいかない……


 それから暫くモンブランと、水の中級精霊と水精霊達のお喋りタイムが続いたので、僕はこの先がとても気になったので暇つぶしに向かった。


 念の為リュックは持っていくが、聖樹の苗木はこの泉のほとりに置いていく。


 持っていくとモンブランは話せなくなるだろう。


 さっきdisられたが、優しさを示す為に最低限の心配りだ。


 最奥部と思われていた場所からさらに先へ進むと、そこには大きな部屋があり枝分かれした三本の道が奥に続いていた。


 その部屋の壁際は湧水が流れる用水路があり、中にはペットボトルサイズのスライムが10匹程潜んでいた……

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