第10話「新食材!!フォレストウルフ・ミート」


 翌日は朝から大変な問題が勃発した…まさかの大激怒だ…。


 「いや!ですから!レイカちゃんは「栄養失調の兆候」なんですよ!!何度言ったらわかります⁉︎偏り過ぎなんです!食事が!!ハゲオヤジの分からず屋が!」


 結菜が大激怒していて、関わった人間が既に何人か白目を剥いている……


 当然理由は意見の不一致からくる物だが、此処まで毅然と物を言える女性はすごいと思う……


 そんな彼女の口撃は終わる事を知らない……


 「えーいーよーうーーしっちょーーー!!なーんーでーすー。(怒)耳が詰まってるんですかー?それとも、その耳は飾り物ですかぁー?その大層な頭に詰まっているのはゴブリンモノですかー?」


 そう言われた料理長は既に茹で蛸の様な顔だ……


 しかし結菜の口撃は勢いをさらに増す……


 「元々食が細く量も食べず、肉類は栄養管理者がほぼ食べさせない強制ベジタリアンであれば必要な栄養素が足らなくなるのは当然ですよね?エネルギー取らずしてどうやって生きていくんですか!」


 そう言うと、結菜は手に持った異世界の野菜を見せながら、マッコリーニ商団のお付きに野菜ごとの種別に並べさせ直す……


 お付きは涙目だ……


「ビーガンは悪いわけではありませんが強制で栄養を偏らせるなって言ってんの!ビーガン目指すなら自分だけでやって下さい!人を巻き込まないでください!」


 オタマで『カンカン』と音を立てながら、料理長にお叱りを入れる結菜だが、お付きの生命力がどんどん減っていく……


 簡易鑑定で見ると『カンカン』の音を聞くたびに、一人ずつステータスが『恐怖』から『恐慌』に変わっていく。


 しかし、結菜のお叱りはより一層力が篭る……


 「魔物でさえ色々食べてエネルギー補給してるんですよ!魔物が食べてんのに人間が食べなきゃ更に弱い人間なんか、そりゃいつか倒れるよね!人間の身体にはタンパク質が必要なんですー!」


 この日が料理当番になった結菜は、商団御付きの料理長に滅茶苦茶ブチギレている。


 意味不明な理由で、レイカに食べさせるのを辞めさせようとするからだ。


 現代用語ビシバシ大声で言っているので、内心は心配でしょうがない。


 しかし、僕が何か言えば手痛いしっぺ返しは確実だろう……口で勝てる気がしない!!


 御付きの料理長が言うには、



ご令嬢が食べるのに『見栄えが相応しく無い・熱すぎてお嬢様が火傷する・全体の食べる量が多い・保存肉等栄養は無い!』と言う


 口で言い負けてしまう料理長は、最終的に、


「この干し肉は前に俺が調理して食べたが美味しく感じない、新鮮な野菜こそがこの世の栄養の源だ!肉が無くても健康は保てるし、今までずっとこうして御世話しているから、他人は口を出すな!」


 などとバカな発言の連発には、流石に僕達も顔を見合わせる。


 しかし結菜とて、野菜をバカにするつもりは無い。


 そして僕とすれば、野菜は寧ろ大好きな方だ!


 しかし……お付きの料理長がこれでは、小さい時から毎度の食事を出さてれる、この娘の栄養面がすごく心配だ。


 芸能人が美容の為にやっているのとは、大きく違うのだ。


 前にテレビで偏る栄養が齎す危険を見たが、まさに今レイカはその状況だ。



 それを知った管理栄養士の資格を持ってる結菜にしてみれば、『オマエラバカか!一から料理の根本やり直せ!』と何度も言っていた。


 マッコリーニがその様を見て慌てながらも僕の方を見たので…


「多分間違い無いと思いますよ?彼女看護師って言ってたから栄養面には煩いだろうし…」


 と言ったら僕は火に油を注いだらしい!!


 結菜はくるりと僕の方を向き、オタマでカンカンと叩きながら、


「栄養面に煩いんじゃなく!成人男性、成人女性に必要な1日のカロリーは決まってるんです!取りすぎも、取らなすぎも悪い影響を出すんですーーーー!!」


 完全に貰い事故だ!そして自分の口で異世界用語言っちゃった!


 ガチギレの結菜を見て、エクシア含めてファイアフォックスのメンツが怯えてる……


 ベロニカと言う弓使いが、


「だめだ!……関わっちゃだめだ!的確にダメージを喰らう!向こうは武器も無いのに!話すだけで私の心が痛む!!致命傷が避けられない!!」


 ……と怯えている。


 エクシアは、もうだいぶ前に白目になり涎を垂らしてノックアウトだ。



 直前にロズは止めに入った様で、脳筋な為に地雷を踏み抜いたらしく……貰い事故の猛口撃がクリティカルヒットした……


「おかぁちゃん……生まれてきてごめん……」



……と、今は灰になって白目を剥いている。



「あ…あのさ……マッコリーニさん!取り敢えず今日は引き下がらせるから、明日位は結菜さんに食事任せてみたら?少しでも改善出来れば良い結果になるでしょう?もう誰も敵わないから……」



 ……と、なんとかこの世界に帰還を果たしたエクシアが、着地点を模索する。


 エクシアのセリフで結菜は、翌日から2日間の調理担当になった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 翌日の結菜の料理はと言うと……材料が魔物肉なのに調理の腕前は絶品だった。


大きな声でベロニカが……『ちょっと!ロズ食いすぎだよオメーは!』と言うと間髪入れずに『ベロニカ!お前こそ弓使うんだから軽やかに動けてナンボだろう!あまり身体……特に腹と尻に肉つけないほうがいい』などと言う。



しかしベンが……『いーやロズ!お前は食べ過ぎ!俺は両刀使ってるから両腕動かすから問題ないが!お前は遠慮しろ腹につく!ノロマなタンクがもっと足が遅くなる!』などと言うが、それに同意するゲオルは『そうだ!ちょっとは葉物とキノコ食え!そして肉をワシにくれ!魔法は腹が減るんだ!』などと野菜を渡して肉を取ろうとする。



エクシアに至っては、結菜が運び込む特等席を陣取って、次の肉を持ってきた結菜に


「うんま!ユイナちゃん!うんま!肉頂戴!向こうはいいから、ギルマス特権で先にこっちに!うんま!」



 と言うが、結菜の顔を見てサッと首を戻して『カタカタ』と震え出す。


 次の瞬間結菜が……


「ロズさん!!さっきの話聞いてましたよね?成人女性のカロリーは………(ぐちぐちぐちぐちぐち)」


 ロズはエクシアの震える姿を見て速攻で謝る……


「ちょっ……すいません!肉が食いたくてつい………ベ!ベロニカ!食べろほら肉が来たぞ!」


 そう言うと、ベロニカが……


「あ!あんたも食べな!ロズ!は……ははははは」


 怒りながらも、どんどん肉料理を捌き投入する結菜に対して、結果的にほくほく顔のファイアフォックスのパーティーメンバー。



 そしてマッコリーニさん達商団のメンツはと言うと…焼き上がる肉を我先に口に詰め込んでいた。


 問題のレイカは『ふえぇぇ!お肉がとても美味しです〜ふえぇぇ!』と絶叫していた。



「結菜さん!このお肉おいしいぃぃ…ふえぇぇ!トロけちゃう!ふえぇぇ!」



 レイカがそう言うと、マッコリーニは声にならない声をあげる……


「ふが!ふんっぐぐうぐ!むぅいず!(水!)ふっが!はっぐはっぐ!ふっが!」


 喉に肉が詰まって、死にそうなマッコリーニをよそに料理長は、


「ワシが馬鹿じゃった!魔物肉がこんなに美味いなんて!フォレストウルフの肉がこんな調理肉になるなんて!」


 等と大興奮しながら、どんどんと胃袋に収めていく。


「レイカ様こっちの味の違うお肉も、とーーても美味しいですよ!是非食べてみてください!うーーん!美味しい!明日からフォレストウルフ全部捕まえないとですね!」


 お付き1号がそう言うと、お付き2号は……


「レイカ様、お肉をこのバゲットに挟むと肉汁がもう!もんの凄く染み込んで美味しいですよ!あーー!もうっ…この肉汁の中で泳ぎたい!」


 などと言う………ハンスは死にそうなマッコリーニに水を差し出し、


「ふが!ふんっぐぐうぐ!むぅいず!(水!)づぇす!(です)むぁくぉりーぬ!(マッコリーニ)はっまぅ!(様)はっぐはぐ!ふっが!」(ハンス)


 と言うが、マッコリーニは青ざめて返事が無い。


「食事は身体づくりの源です!肉だけじゃ無く!料理長が厳選した野菜も食べてくださいね!ビタミンもミネラルも取ってちゃんとバランスよくしっかり食べましょう!」


 結菜は?と言うと、昨日が嘘の様でものすごく上機嫌だ。


 なりふり構わず食べている料理長及び一同が、結菜に胃袋を掴まれ陥落……完全勝利が確定した瞬間だった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 料理当番が結菜に決定した時点で、意地の悪い料理長が……


「あれだけ大口叩いて、商団の食糧をあてにしてるんだな?どうぞ!使って下さい?料理の天才さん?」


 と言っていたので、結菜は喧嘩を買ってしまった。


 こうまで言われた結菜は、護衛組の食料に手は出せないし意地もあるだろうから、何かないかと考えを巡らせた僕は、暇さえあれば旅団に襲いかかるフォレストウルフと回復茸と鑑定スキルに目をつけた。


 討伐後の魔物は他の魔物や大型魔獣を呼ばせない為に、毎度必ず焼却埋葬するかそのまま埋めるかだった。


 オークの肉だったらどれだけ良かったか!と以前ロズがぼやいていたことを思い出した僕は、エクシアがとどめを刺したフォレストウルフを、それと無く簡易鑑定してみた結果『可食部位は調理可能(割と美味)』と書いてあった。


 なので結菜とエクシアに伝えると、結菜とギルドの数人で部位ごとに切り分けて、コッソリ僕に持ってきた。


 僕はそれを鑑定し、その結果で結菜は少しずつ焼いては部位ごとの味見を護衛メンバーとしていた。


 ひたすらに頬張る皆を見ながら、凄まじい食欲だと思いつつ、負けずと僕も頬張る。


 異世界の魔物肉を食べて思ったのは(フォレストウルフ)は魔物なのに、お肉には綺麗なサシが入って肉質はとても上質だった。


 決して魔物と言われなければわからないし、フォレストウルフと言われなければ原型の凶悪さの想像もつかない旨さだった。



「異世界肉ってさ、異常なほど旨いね……料理の方法にもよるんだろうけど」


 と、僕らの感想は一緒だったので料理肉の採用に至った。


 たまたまキノコ収穫のため魔の森を歩いた時、目についたコボルドジンジャーと言う『異世界産 生姜』の様な物を見つけて、食用である事と毒がない事を確認したので結菜に見せたら


 結菜はちゃっかり商団荷物を覗いてきた様で、マッコリーニが魚醤みたいなのを仕入れていた事を発見していた。


 その積荷で見かけた魚醤と、コボルドジンジャーを今夜の料理当番の時使って見る様だ。


 多分あの顔は僕が渡した金貨で、何かをマッコリーニさんから買うのだろう……



 しかし結菜は上機嫌ですぐに帰ってきた。


「野菜類含めて必要分購入するって言ったら、マッコリーニさん頭下げて渡してくれたんだよね。だからそれ使ってあと幾らかの調味料使えばフォレストウルフの生姜焼きで、美味しいご飯ができるはず!味付けは異世界産になっちゃうけどね!」



 と言ったのだ……マッコリーニも流石に自分の商団関係者の問題でお金は使わせられないし、お金はそもそもチャームから得た物だ。


 それで買って皆に振る舞うなど、マッコリーニとすれば商団の恥以外のなんでもない。



 因みにその結菜の作った食事で、皆からのリクエストがあり食事の1回はフォレストウルフの生姜焼き肉に決定した。



 僕は折角なので、馬車に積めきれず埋めるか焼却する予定の余り肉と魔の森で見つけたゴブ茸と香木でフォレストウルフジャーキーの自分用のオヤツと乾燥ゴブ茸を作ってみた。


 乾燥ゴブ茸は、万が一の時用の保存食にならないかチャレンジした産物だ。


 レイカ嬢は、商団のお付きの目を盗んでこっそりコッチに来ては、出来上がったばかりのジャーキーと乾燥途中のゴブ茸の魚醤焼きを、手当たり次第にパクパクと食べていた。


 ゴブ茸の回復効果もあり、帰りの路程では体調がだいぶ改善した様だった。


 レイカ嬢に渡すのがジャーキーだけだと、また結菜に怒られそうだったので魚醤を乾燥途中のゴブ茸に塗って一緒に食べたのだが……これがまぁ!美味かった。


 在庫の肉が少なくなると、ファイアフォックスの面々はわざわざ森の中に自ら入っては肉を捜し出す様になった。


 途中から余りフォレストウルフに襲われなくなり、商団は何時もより早く馬車を進められたとか……なんとか。


 暫くフォレストウルフは街に繋がる街道には出て来なかったとか……

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