第8話「冷めた夕飯……マッコリーニの商売根性」
前を行くエクシアはロズと真面目な話をしている……
「でも姉さん……彼等が暫くでも一緒にウチのギルドに入ってくれれば、凄い助かるんですけどねぇ?そう思いませんか?」
「馬鹿だね!こんな優秀なスキル持ちもっと上級ギルドが欲しがるに決まってんじゃ無いか!中級って言っても中の下なんだウチは。」
エクシアは自分のギルドより良い所は星の数ほどあって、王都に行けば僕たちは引く手数多な筈だと言う。
エクシアのファイアフォックスは頑張りが認められて、王国から個人ギルド名乗っていいと言われたらしい。
皆で頑張って此処まで来ただけあって、自分の身の程を知っている様だ。
「鑑定持ちに薬師2人、もう1人のソウマは戦闘経験こそ無いがアンタに劣らない筋力はあるよ。あの筋肉見てみな!ありゃタンクの素養があるよ。ショウボウシってのが向こうでどんな仕事か知らないけどね、身体鍛えてるのは間違いないはずさ……」
エクシアは『タンクは何人居ても困らないだろう?』と言う。
だったら、彼女としてもこの時点で全員一緒に抱えたいに決まってる。
「マッコリーニさんの御息女が倒れた時のユイナの的確な措置は、薬師と言うより回復師向きだしね。ユイナはもしかしたら回復さえ持ってる可能性だってあるし、ミカに関しては薬師もさる事ながら違うスキルがメインだと思うよ」
そう言うエクシアは、僕らの身のこなしも見ていた様だ。
ミカの動きに対して『有る程度身体を動かして無いと、魔の森であの動きは出来ないしね』と言っている……
「あの小さい身体なのに、足場も悪い森をすいすい歩いてるだろう?そもそも此処の魔素に耐えられる適性の高さが物語ってるしね。毎度往復してる商団でさえ、浅い場所に入って少しの時間であの様だしね」
「だったら、尚更皆うちに…」
「だからこそ上級ギルドが放っておかないんだって……ヒロシが錬金術を人前でやってみな。ギルドに所属する全員が王都からお呼びがかかって、全員纏めて王都お抱えの冒険者になってもおかしくない位だよ?」
そう言ってエクシアは戯けて見せる。
「今持ってる魔物除けのチャームなんか、魔の森に罠をかけるって言った時に5分でこさえたんよ?錬金スキルはまず持ってて間違いないはずさ。若しくはそれの準ずるマジックアイテムを作れる資質だね」
エクシアの話では、どうやらこの世界では混ぜるだけで作れる程魔法のチャームは簡単じゃない様だ。
そもそも僕達の世界には『魔法』が無いが!
エクシアは今度は魔法の話をロズにし始める……
「マジックチャームってのはね魔道士ギルドの知り合いの奴が『素材に魔力を混ぜながら素材が破裂しない適量加減で作るんだ。』って言ってたよ。って事は知らないうちに魔力でこさえてるんだよ。彼はさっきも鑑定魔法を無自覚でやってのけたじゃないか?」
今すぐ言いたい……そんな気は無いし、そもそもそれは混ぜただけで異世界パワーがなんとかしてくれてると……
しかしエクシアは、何故か僕達を雲の上の存在に持っていく……
「万が一にも途絶えた技術の錬金術師様がだよ?やっと中級に上がれた底辺ギリギリのウチのギルドに居ることが幸せかい?」
会話の内容から、とうにキノコ探しやら周りの観察などに集中できず、僕らが後ろで聴き耳を立てている事に気がつかない程に真面目な話している双方は意見は白熱中だ。
僕は調べた鑑定結果の情報を言うことも忘れて、2人の真面目な会話に僕等4人で顔を見合わせ一斉に話し出す。
そうまは『願っても無いんじゃ無いか?街で変なのに引っかかるより遥かに信用が…現に今だって色々教えて貰ってるし。』と言う……
確かに冒険のイロハを、無料でそうそう教えて貰えるとは思えない。
それを聴いた結菜は『同じスキルのこと習うなら知っている人に聞くのは当然だし……街でスキルの事話したらどうなるか分からない上に、変に利用されて私達がバラバラになるのも困るんじゃ無いかしら?」と言う。
美香のスキルは、ユイナとエクシアと同じなので、激しく同意を見せ、
「私は結菜さんと同じスキルなので、誰かに聴きたくても珍しいスキルだったら騙されそうで…内心とても怖いんです。エクシアさんは優しいお姉さんでスキルも同じなので安心できます」
……と言うので、僕も今まで思ってた事を、ミカの言葉にならって言う。
「実は街に着いたら、皆に言い出そうと思ってたんだ。このままこのギルドで暫くでも置いて貰えないか交渉するべきじゃ無いかって!!危険を冒してまで他の冒険者を探さなくても良いんじゃないかな?どうでしょう?」
僕達は、エクシアとロズが振り返った瞬間に話した様で、僕達の要望は全部本人達に聴かれたようだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
エクシアとロズに僕等の話を聴かれてから、暫く今後について身の振り方をエクシアにそれぞれの意見で話すことにした。
その後エクシアとロズと共に、上級ランクの魔物用の罠を仕掛けてキャンプに帰って来た。
罠と言っても上級ランクの魔物にすれば、足止め程度にもならない。
だが襲撃を音で知らせる事で、準備位の間は持てるように設置しているので問題はないらしい。
そもそも上級ランクの魔物は、道沿いになどホイホイと出てくるわけでは無いらしい。
森の奥から獲物を追っかけて出てきた場合の対策だという事だ。
運が良ければ、付随してかけた獣用の罠で明日以降のキャンプで使う獲物が、罠に掛かって獲れるかもしれない。
びっくりする事に罠の設置は、冒険者2人よりもそうまの方が早くて上手かった。
蔦を使った足輪に、飛び出すスパイク丸太……掛かると音がなる罠など多種多様な罠を作り、仕掛ける場所が連鎖的にかかる様に設置した。
なんでも、父親と山に入ってキャンプをする事が多く、色々な罠を父親に教わったのだそうな。
エクシアは『そうまのおやっさん……こっちの世界の方が向いてるかもな』
とポロっとこぼしていた。
そうまの親子は上級種の魔物にも一通り対応できる罠で、一体何を狩るつもりで山に罠をかけまくったのかは聴かずにおいた。
因みに、キャンプに戻ってからエクシアは超絶ご機嫌で、メンバーがそれを見て『別人だ!魔族に入れ替わられた!ヒト型魔族だ!』と怖がっていた。
ロズに至っては、そうまに予備の装備を渡して特に盾の扱いを教えていた。
数時間前のスキンヘッドを武器に、悪漢としか感じられなかった態度とは思えない転身ぶりだ。
盾役で使う受け流しを重点的に教えている様だが、夕飯の支度そっちのけでやった為エクシアに大目玉を喰らっていた。
僕等は当座の居場所が見つかり一安心でもあり、冒険のイロハを明日から教えて貰う事になり、喜びと緊張が入り混じった何とも言えない感じになっていた。
そのせいもあり、僕は先程の鑑定結果など頭の中から消えていた。
思い出した頃には既にキャンプに居たので、マッコリーニや商団の皆の目もあって話せなかった。
因みに森の中で決めた事は、まず初めにスキルの鑑定と薬師に関しては必要以上に他言しない事。
コレは決め事と言うより、冒険者としての心構えでしか無いけれども。
冒険者として、どんな装備やスキルを持っているかを他の冒険者に知られる事が、依頼を受ける上でこの上ない危険を伴うらしい。
場合によっては、ダンジョンなどで襲われる原因にもなり得る……と教えて貰った。
依頼を受ける時やパーティーを探す時に、自分のスキルの一部をパーティーリーダーに言う事はあっても、誰彼構わず言う事は避けねばならないと今日教えて貰った。
冒険者としての最低限の心構えの一つだったが、それについては既に僕と結菜と美香は減点だ。
もうエクシアとロズに、スキルを知られているからだ。
重要な決め事や、このギルドに実際に所属するのは街に帰り、冒険者の登録してからという事に決まった。
当たり前の事だが、冒険者でなければギルドに入る意味がない。
……と言うか入れないらしい。
ギルド専属の事務員と言う手もあるが、脳筋ガチムチ強面冒険者や魔物を相手にするのだ。
そもそも元の世界に帰るためには、最低限戦えないといけないし、冒険者ギルドの事務員さえ務まらない。
一般人としては、ギルド清掃員や各種販売窓口が良いとこだろう。
ギルドの事が無くても、僕達には元の世界に帰る手掛かりを探す手前、戦闘力は必須なのだ。
こちらの世界での当座の資金繰りの為に、夕食で集まる時にマッコリーニにチャームを買って貰えないか打診する事にした。
夕食中に買い取りをマッコリーニに持ちかけたので、大口を開けて干し肉に齧り付いてた彼の空気が瞬時に凍りついていた。
マッコリーニにしてみれば、まさか魔物除けのチャームを売って貰えるとは思っても居なかったのだろう。
言われた内容を、即座に把握しようと頑張っている様子が見て取れるが、何度も聞き返す余りにエクシアの……
「ヒロ?アタシが買取ろうか?」
の一言で、食事中のハンスが酷い目にあった。
マッコリーニは夕飯を食べているハンスに、金貨が詰まった袋と鑑定スクロールの束を速攻持って来させていた。
肉を齧っていたハンスには良い迷惑だろう。
ちなみにハンスと言うのは、マッコリーニ商団の金庫番兼何でも屋の様な存在だ。
マッコリーニは、買取全てのチャームを鑑定スクロールで確認した。
そして買い取りが決まった時には既に、マッコリーニの干し肉スープは冷え切っていた。
マッコリーニは、その冷え切ったスープを食べながら………
「今日の干し肉のスープは絶品だ!これほど旨い飯を食えたのはこの仕入れ旅で初めてだ!」
と…かなり満足気味だったが、冷え切ったスープには固まった脂が浮いていて、あまり美味しそうには見えなかった。
因みに魔物除けのチャームの買取数は5個で、1個あたり金貨3枚合計15枚の金貨を手に入れた。
実は森を回る時に先頭を歩くエクシアに魔物除けのチャームを渡していたのだが、渡した瞬間に購入をお願いされ金貨3枚を受け取ったので、実は財布には合計18枚の金貨がある。
この世界の貨幣価値がわからないので、森を回る時エクシアに街の物価を聴いてみたが前の貨幣価値に換算すると……
銅貨が10円、銀貨が1000円、金貨が10000円と言った所だ。
銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚の交換レートだった。
僕達の世界の100円硬貨に類する物が何故かこの世界には存在しないので、その点が硬貨を使う場合注意が必要だと思った。
このほかにも鉄貨幣や大金貨、白金貨があるらしいが、流通量は少ないらしい。
因みに鉄貨幣の通貨換算は、1枚1円で10枚で銅貨1枚だといっていた。
鉄は貨幣にするより、武器にしたほうが利用価値がある。
当然と言えば当然だし、そもそも錆びるので貨幣に向いていないといっていた。
銀貨と銅貨の交換レートは、銀の方は装備品に混ぜたり宝飾品に利用されたりと、様々な兼ね合いらしいし埋蔵量も関係しているかもしれない。
ちなみに、商店では大量の鉄貨幣は、ほぼ御断りだそうだ。
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