第158話 閉幕

 いい感じに話が終わったので、話していた個体の後ろにいるもう一体のナーガの方に目を向ける。

 ビクッと一度跳ねた後、しっかりしている方の背中に隠れてしまった。


「危害を加えたりしないのに......まぁいいや。君たちはあのキメラがトカゲから聞き出した事を俺に伝えてね。あのキメラはこの言語を話すことに慣れていないみたいだから......よろしくね」


 そう伝えるとコクコク頷いた。同じ捕虜仲間だし、慣れてるでしょ。多分。


 キメラが話を聞き出している間は暇なので、タバコを吸いながら待つ。

 この隔離空間の外では女王様が荒ぶっているのがわかる。空間が隔離されていても女王様の感情が伝わってくるのは驚きだ。

 パスみたいのが繋がっているのだろう......これは気にしたら負けだね。ハハハッ。


 あータバコ美味しい。




 ◇◇◇




『キイテ、キタ』


 三本目を吸っているとキメラが終了の報告をしてきた。

 やっぱり話すのが苦手そう。


「ありがとう。じゃあその内容をあそこにいるナーガに伝えてほしい。君はこの言語でする長文の会話には慣れてないでしょ?」


『ワカッタ』


「それが終わったらトカゲ肉をあげるから待っててね。生肉よりも火を通した方がいいかな?」


『ソノママ、タベル』


「わかった、それで用意しておく。じゃあよろしくね」


 コクンと頷きナーガの所へ歩いていった。

 キメラの見た目は草食動物の詰め合わせでも、中身はしっかり魔物なんだなと思いました。生肉を食うシカウマ......ファンタジーだなぁ。



 お話しているナーガとキメラ。まだ時間がかかりそうだし、一度お外の様子でも見ておこうかな。

 見たくないなぁと思いつつも、なんか見てみたくなるこの感情......きっと、ついついホラーを見たくなっちゃうアレだ。怖いもの見たさ。





 ......oh。


 隔離空間から出てすぐ、俺の目に飛び込んできたのは凄惨な犯行現場だった。


 飛び散った血液、散らばった体毛や生皮、呻き声が聞こえるので、まだギリギリで生かされている死んでいないってだけの動物達。


 生皮が残っている部分の方が少ない、肉が丸見えな猫だったであろうモノ。

 首から上だけはノータッチな状態の狼達。

 綺麗に四肢の肉だけが削ぎ落とされた獅子っぽい猫科の動物。

 体毛を全て剥がれ、地肌と肉で虎柄を再現された虎。

 既に肉片になっているエルフ女と、生皮を剥がれた状態で女王様の椅子になっているエルフ男。


 ......エルフ男はビクンビクンしながらも、時々気持ち良さそうな声を上げていて、彼の股間の小刀は自己主張している。

 ......そっか、目覚めちゃったんだね。ご褒美貰えてよかったやんけ。HAHAHA。


 女王様は俺に気付いたのか笑顔で手を振ってくる。短時間で随分と感情豊かになったやんけ。


 ......楽しそうでなによりでございます。こっちの用が終わるまでは楽しんでていいからね。


 隔離空間に戻り、外出用に開けておいた部分をソッと閉じた。


 たまに生まれる意思がある魔法はなんなんだろう。魔法って奥深いなぁ......

 皆といつも通り楽しく生活しながら好きな事をして、たまに魔法の研究をするってのも楽しそう。


 早く皆に会いたいなぁ......


 うん、会いたい......モフりたい......癒されたい......




 なんかもうどうでもよくなってきちゃった。今更だけど、ヤツらが襲ってきた理由なんて知らなくてもよかったんじゃないか。敵意を向けてきたんだし、何も考えずに皆殺しにする......でオールオッケー。ハハッ。


 そんな事を考えていたらナーガとキメラがこっち来た。お疲れ様でした。


 頼んどいてアレだけど、早く終わらせてください。




 ◇◇◇




 ナーガちゃんが頑張ってお話してくれている。時々オドオドした子が耳打ちしたりと、なかなか微笑ましい光景。

 ここ十九日間の強行軍+全然睡眠時間が確保されていなかった事と、ナーガの綺麗な声の心地良さが重なって寝そうになってしまう。なんだこの催眠誘導ボイスは......


 そんなこんなで寝そうになる俺を、キメラちゃんが角でつんつんして起こすというファインプレーをしてくれたおかげで、寝ることなく最後まで聞くことができた。ありがとう。


 役に立ってくれたナーガとキメラの頭を撫でて感謝を伝えてから、ご褒美のトカゲ肉を与えた。



 ナーガとキメラのおかげで、トカゲが俺にちょっかいを出した理由がようやく判明したんだけど......


 くっっっそくだらなくて草ァ!!


 本当にありがとうございました。これからトカゲを見たら即殺しようと思います。



 そう思ってしまった今回の件。真相はこちらになります......HAHAHAHAHAHAッ!


 ・狂国とアラクネ国の戦争を観戦して、俺の事を脅威に思った

 ・俺が顕現させた龍さんを見て、その美しい容姿と強さにベタ惚れ

 ・恋の成就と俺と争う事を天秤にかけ、無事色恋沙汰が勝利

 ・ハニトラは、俺を油断させれば排除は余裕、龍さんを俺から解放できると思った

 ・黒トカゲは雌雄同体で龍さんがオスでもメスでも、どちらにも対応できるから問題無しとの事

 ・そして全滅へ......


 ね......くっっっっそくだらなかったでしょ?


 ......トカゲの恋愛観は理解できん。

 こんな事で俺がこんな苦痛を味わうとか......理不尽じゃね?

 もっともっと苦しませてから殺せばよかったよ。あ、でも、帰ったら龍さんにオスかメスか聞いてみようと思う。ずっとオスだと思ってたけど、どっちなんだろ?


 今後、蛇以外の爬虫類は敵と看做す。俺の視界に入ったらぶち殺すのはもちろん、探知に引っかかっても即殺する。

 今回の件のおかげで、なんとなく爬虫類は探知で判別できるようになったし、これは決定事項デス。


 ......巨人族とかに明王さんがモテモテなんて事態にはならないといいなぁ。絶対に無いと言いきれないのが辛いぜ......



 ふぅ、後はナーガとキメラがご褒美のお肉を食べ終わるまで待って、この洞窟に掛かっている隠蔽の詳細を聞いて帰ろう。


 ......はぁ。元の世界も異世界も、上位に君臨するようなヤツらの思考はブッ飛んでるよな。それに振り回される下位に位置するような者たちは大迷惑ですよ。



 あー......タバコがおいちいなぁ。溜め息が止まらなーい。


 二本目を吸い終わった辺りでナーガがお腹いっぱいになったらしく、お礼を言いにきた。

 トカゲは怖くないか聞くともう大丈夫との事なので、この洞窟に掛かっている隠蔽はどうやっているのかを聞いてくるように頼む。オドオドしていた方も頑張るよって返事してくれた。

 荒むばっかりだった俺の心に、ようやく癒し成分が到来した。心を開いてくれた感じが嬉しかった。


 これが吊り橋効果というモノなんだろうか......トキメキかけたやんけ。


 ......大分遅くなったけど、キメラとナーガを鑑定してみよう。これでヤツらがキメラとナーガじゃなかったらお笑いだね。



 ▼馬型合成獣

 所謂キメラの一種

 どうやって生まれるかなどは解明されておらず、出生から生態まで全てが謎な希少な種族

 この個体は馬の部分以外食すのには向かないが、馬肉の部分は美味▼


 ▼カームナーガ

 気性がとても穏やかで、争い事を好まない種族

 戦闘力が低い分、知性と手先の器用さが高い

 胴体部分の肉は上質なササミのような味▼



 ほーん......キメラって人為的に造られた生物とかではなくて、偶然の産物タイプの生物なんだね。そりゃあ希少種だわな。


 そしてナーガ。

 まぁ見た感じそのままだね。ここにいるナーガが他のナーガだったら、ここまでサクサクと事が進まなかったはずなので感謝してる。


 後は......うん、鑑定さんの食へのこだわりはよくわかった。食おうかなーとか、食べれるのかなーって考えていない時は出なくてもいいよ。

 これからそんな目で見そうになる自分が嫌だ。馬刺し食べたい。



 それにしてもよく食うんだな。お前の胴体分くらいある肉だぞ......腹壊すなよ。



 戻ってきたナーガから詳細を聞くと、隠蔽は魔道具などではなく最初からこんなだったと話してくれた。


 威圧しながらもう一度聞くも、答えは変わらず。拠点の隠蔽計画は頓挫してしまった。ファック。


 用済みになったトカゲは、貧弱なナーガのレベル上げ用に活用。スペ魔法で弱らせ、貸し出したチャクラムで切り刻ませる。

 投げるのは禁止し、刃物として使わせた。

 レベルを聞いたら20レベル代と低すぎたので、攻撃するのを嫌がるナーガに無理矢理殺らせた。


 だが、この行為が完全に余計なお世話だったみたいなので、ナーガの今後を気にする事をやめた。どうせなら捕まったり死なずに生きて欲しいと思ったけど、傲慢な考えだったんだなと反省。

 穏やかな性格なのはいい事なんだけど......そこら辺は個人の選択だし、まぁ好きに生きてくれ。俺も含め、生き物ってめんどくさいねぇ。


 ナーガに愛想の尽きた俺は、女王様が散らかした死体や肉片をドン引きしながら消去し、女王様にお帰りいただく。

 そして食事が終わって満足そうなキメラと、トカゲを切り刻んで落ち込んでいるナーガに別れを告げた。




 ヤツらからある程度離れた位置で帰還石を取り出し、魔力を流して洞窟から外に出ようとした瞬間――背中に強い衝撃を受け、そのまま洞窟の外へと転送された。

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