第73話 謎空間2

 隠し部屋もギミックも、そして謎解きや宝箱も無い。


 何かお楽しみ要素をください。


 ただただ続いていく道を進んでいく。


 いつもなら特に何も無いこんな空間にイライラしそうな所だけど、全く退屈と思わないし飽きも来ない。

 俺も変なんだけど、ウチの子たちも妙にテンションが高い。


 何か特別な空間なのかな?


 結構な時間を使ってしまったけれど、円が小さくなってきているので三階層目もそろそろ終わりが近いっぽい。


 あと一、二周で中央へ到着ってなった時、急にお嬢様がピノちゃんを口に咥えて走り出してしまった。


 急にそんな事をするから、噛み付いたのかと思ってびっくりしちゃったじゃないか!


 俺も急いで後を追って走りだす。



 中央に到着すると、綺麗な泉?


 砂漠のオアシスみたいな場所があり、その泉に浸かっているお嬢様と、浅瀬でパシャパシャしているピノちゃん。


 すっごい可愛くてハートフルな光景だけど、急にどうしちゃったのさ。


 こんなに自分を見失ったこの子たちは今まで無かったから、どうしたのか聞いてみる。


 お嬢様は......無理そうだから、ピノちゃんに。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


 この泉に呼ばれたから......らしい。


 ピノちゃんも急に咥えられて、その上走り出されてびっくりしたんだって。

 呼ばれた!行かなきゃ!って状態にお嬢様がなっていたらしい。


 あー、うん。なるほどー。


 この泉は水属性の子か、精霊的な子ホイホイの場所なんだろうね。

 お嬢様が落ち着いたら、そこらへんの事を詳しく聞いてみよう。


 俺もようやく落ち着けたので、周囲を見渡してみる。

 空気も澄んでいてキレイな場所だ。


 今日はここで一泊する事になるっぽい。


 ウチの子たちはどちらも気を緩めまくりで、既にここから移動するって雰囲気ではなくなっているし。

 お嬢様は泉でプカーッと浮かんでいるだけ。全く動こうとしていない。


 ......寂しいけど放っておくしかなさそう。


 泉の近くにジャーキーとお餅を置いて、俺は夕飯にペ〇ングを食べる。普通の焼きそばのストックはあるけど、この何とも言えない不思議な味を無性に食べたくなる時がある。


 この日は俺が寝ようとする前にピノちゃんが戻ってきてくれたので、真っ白な寝袋を召喚で用意した。


 その寝袋に入って、白蛇のなんちゃってコスプレをする。

 ピノちゃんと一緒に地面をうねうねしたりして遊んでから寝た。

 途中で冷静になり、俺は何してるんだろう......ってなったのは内緒だ。




 ◇◇◇




 目が覚める。多分いつも通りの時間だ。


 起き上がろうとしたけど、上手く行かなくて転がってしまう。

 体がうまく動かせなくて、寝てる間に拘束された?とか思った。


 実際は、寝袋に入っていたのを忘れていただけだったのに。

 そのアホな場面を、誰にも目撃されていなくてよかった。


 それはさておき、俺の入っていた寝袋に侵入してきていたピノちゃんが胸元にいる。

 昨日の白蛇ごっこの後は別々に寝ていたのに......可愛いなちくしょう!

 頭から潜り込んだんだろう。しっぽがちょっとだけ出てるのがやばい。


 ありがとうございます。朝から嬉しさが限界突破しました。


 お嬢様の方を見てみると、未だにプカーッと浮かんでいる。

 一晩中プカプカしていたみたい。

 ふやけたり、風邪ひいたりはしないのか?


 置いておいたご飯は、お餅だけが無くなっていた。

 あんこはご飯すら食べなかったの。

 ちょっとマジで何をしてるの?どうしちゃったのさ。


 ピノちゃんにどうすればいいのかを相談してみたけど、何やってるかわからないからソッとしておけばいいって言われてしまった。


 そっかぁ。

 ......まぁそれしかないみたいだね。俺の体がモフみを求めて絶叫しているけど我慢します。


 今日はすべすべお肌だけを触ってから朝ごはん。


 ピノちゃんに煮卵を献上。

 食べ始めたのを確認してから、俺も自分の分を食べ始める。

 普通の白飯に、半熟の目玉焼き、ちょい焼き明太、きゅうりと白菜の漬物、そして味噌汁。


 日本の遺伝子に突き刺さる和食の美味しさ。贅沢を言えば和室で食べたくなる。

 急ぐ必要が無いのでゆっくりと朝食を楽しんだ。


 さて、今日はやる事がないぞ。

 お嬢様が何してるかわからない状態で動けない。


 よし。白玉を作ろう。

 完成品を出してもいいけど、これなら作り方もわかるし、ピノちゃんと一緒に作れそう。


 おっと、その前にピノちゃんの都合を確認しなきゃ。

 俺の膝で寛ぐピノちゃんに聞いてみる。


「今日なんかやりたい事あったりする?特に何もなかったら一緒におやつ作らない?」


 いいよーと、良いお返事を貰えたので、早速とりかかる。


 最初に手を洗って、ピノちゃんの体もキレイに拭く。


 それから白玉粉、水、ボウルとピノちゃん用作業スペースとして、シリコンマットを出す。

 滑りにくく、くっつかないのでこういった作業には向いている......と思う。



 先ずはボウルに白玉粉を投入。


 水を少しずつ入れて混ぜていく。


 耳たぶくらいの固さになったら準備終了。


 さぁここからがお楽しみのお時間でございます。

 ピノちゃんの前に一口大にした白玉をおいて、見本用の白玉を手で丸めていく。


 最後に窪みを作って完成です。


 手が無くても、ピノちゃんなら上手く作れそうな気がするから、白玉作りを一緒にやりたくなったんです。


 楽しそう!と乗り気なピノちゃん。頑張って作ってみて!

 自分で作ったりした物を食べてみて欲しい。食育ってヤツだね。


 しっぽと胴体を上手く使ってコネコネしている。そんな可愛い御姿を眺めながら、俺は俺でやりたいことを試す。


 食紅を取り出し、赤い白玉を作る。

 その後、多めの白玉を手に取り、細長く形作っていく。


 もうおわかりだろう。


 俺は今、白玉のピノちゃんを作成している。

 素のスペックだけでは難しいので秘奥義の指先の魔術師を発動させる。


 先程までとは比べ物にならないくらい、作成スピードとクオリティがあがる。

 本当にスキルってやべーモンだわ。


 人の手で作れる限界まで達したら、残りは糸で細かい所を調整する。


 最後に赤く色付けした白玉で、目と額の宝石を作って嵌め込めば完成。

 赤いのに白玉と呼んでいいのか?......いや、別にどうでもいいか。


 ......芸術品が完成してしまった。


 集中して作っていたから、かなり時間を使ってしまったけど。

 素晴らしい出来栄えすぎると自画自賛。


 ピノちゃんの方を見てみると、キレイな白玉が大量に作られていた。

 俺も手伝おうと思っていたけど、その必要がなかった。全部やらせちゃってごめんね。


 ......スキル発動無しで作った俺のよりも上手かもしれない。

 楽しかったか聞いてみると、またやらせて!と返ってきた。


 これから丸める系の物を作る時はお願いすることにしよう。

 上手に作れて偉いねーと褒めてから、仕上げにとりかかる。


 鍋に水を入れてお湯を沸かし、デカいボウルに水を入れてピノちゃんのスキルで冷やしてもらう。


 沸騰したお湯で白玉を茹で、浮いてきたら湯から上げて冷水で締める。

 出来たての白玉を口の前にまで持っていって、食べさせてあげる。


 白くて弾力のあるもの、それでいて甘さの少ないモノを好む......という今までのデータがある。

 多分気に入ってくれるはずだ。


 ......ドキドキしながら、結果発表を待つ。






 結果は大勝利!!


 自分の周囲にハート型の炎を浮かべてもぐもぐしている。

 初めて狙い通りの結果を叩きだせたぞ!

 ガッツポーズをした後に、記念撮影をして勝利の記録を残す。


 食べたいだけ食べてねーと、完成品を目の前に置いていく。

 そしてピノちゃんをなでなでしてから、俺は最後の仕事にとりかかった。


 白玉ピノちゃんをお湯に入れて茹でていく。模造品だから問題は無いんだけど、罪悪感がえげつない。

 リアリティを出しすぎた......もう少しデフォルメしておくべきでしたわ。


 茹で上がり冷水で締める。目が取れたり、型崩れしなくてよかった。

 完成した白玉ピノちゃんを収納。これのお披露目はまた今度で。


 俺も白玉を食べる。簡単にきな粉を振りかけただけのヤツだ。

 モチモチした食感と、きな粉の風味と甘さが丁度いい。白玉選手は餅に合うものなら大体合うユーティリティプレイヤーだ。


 ピノちゃんに味変する?と聞くも、いらないと即答。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


 ごめんなさい。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 素の白玉を美味しそうに食べているのを見て、とても嬉しい気持ちになる。

 今度はあんこも一緒にやれるイベントを企画してみよう。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


 食べ終わったピノちゃんは満腹で動きたくないらしいので、ロッキングチェアの上に寝かせてあげる。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 お疲れ様。俺の道楽に付き合ってくれてありがとね。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


 さーて、俺はもう少し頑張って、白玉を量産するとしましょうかね。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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