第47話 すべての人の心に花を-最終話


        * * *


 抜けるような青空の下、赤い車が止まると、勢いよくしのぶは飛び降りた。ゆっくりと車を降りる由起子とは対照的に、しのぶは車から大荷物を引きずり出すと、快活にマンションに入って行った。そこは、朝夢見の住むマンションだった。待ち構えていた朝夢見に歓迎されて、抱きつくと、しのぶは勢いよく階段を駆け上がった。

 朝夢見の隣の部屋の前に立ったしのぶは、大きな荷物を床に下ろした。

「早く早く」

しのぶが手招きして急かすと、追いついた由起子は鍵を取り出した。朝夢見も待ち構えていたように、由起子を迎えた。

「はいはい。急かさないの」

「だって」

由起子ががちゃりと鍵を開けると、しのぶは我先に駆け込んだ。

 締め切った部屋は、幾分、埃臭くすらある。それでも、しのぶは感心したまま立ち尽くしてしまった。

 由起子が窓を開け放った。穏やかな風が、静かに部屋に注ぎ込まれた。

 しのぶは、大きく息を吸って、その空気を吸った。

 朝夢見と由起子は、そんなしのぶを見つめていた。

 しのぶは、くるりと二人に向き直ると笑顔を見せた。朝夢見は笑顔で応え、由起子も小さく頷いた。

「気に入った?」

「うん」

「これから、独りよ?」

「大丈夫。あたしは、独りで生きる運命なの」

大時代がかった台詞に由起子と朝夢見は失笑してしまった。

「なに?なんか、変?」

「んん。別に」

「ならいいけど」

しのぶは担いでいた荷物をほどきはじめた。

「案外、多かったわね」

「うん。居候の割には。これ見ると、色々、先生に買ってもらったんだな、って思うの。感謝してます」

仰々しく頭を下げるしのぶに、由起子は笑みを浮かべながら応えた。

「いえいえ。でも、まだまだ足りないわね。食器とか炊事道具とか」」

「んん。しばらくはあゆみさんに借りるわ。いいでしょ?」

「うん。どうぞ。たくさんあるから、好きなだけ使って。だけど、あたしのは、家から持ってきたのだから古ぼけてるけど」

「いい、いい。そんなの。使えればなんでもいいの。文句は言いません。あたしは、何にもない、乞食から、ここまで成り上がらせてもらったんだから」

朝夢見は由起子と顔を見合わせながら、笑った。

 しのぶは、荷物をほどいて、こまごまと、動いている。そんなしのぶを眺めながら、由起子と朝夢見は微笑んでいた。

 冷たい風は、静かに、部屋の空気を、新鮮にしていく。陽射しは暖かい。

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