第42話 すべての人の心に花を-42
「ところで、しのぶちゃんのことなんですが、実は、今日は、あの子のことで、ご相談に上がりました」
「はい、なんでしょう?」
「ええ。こちらの園長さんにも、お世話になってきましたが、実は、私たちも、籍を入れようかと、思いまして。まぁ、自分ひとり暮らすのに精一杯なやつですが、靖江も納得してくれましたんで、もういいだろうと。それで、新しく家庭を持つことになりましたんで、しのぶちゃんに、帰ってきてもらおうかと。ええ、心機一転、頑張りますんで、しのぶちゃんにも了解してもらって、祝ってもらいたいんです。一緒に、親子三人で、新しい生活を始めたいと、まあ、そんなとこなんです」
靖江は無言のまま矢島の言葉に静かに頷いた。
「そうですか。それは、おめでとうございます」
「ありがとうございます。それで、できれば、先生の方から、しのぶちゃんに帰るように、言ってもらえませんか。先生には、心を開いているようですし、先生からのご助言があれば嬉しいんですけど」
「はぁ。でも、あたしには、できません」
「どうしてです?親子が一緒に暮らすことに、何か問題でもあるんですか?」
「しのぶを返してください!」
突如、靖江が口を開いた。
「しのぶ、しのぶに、帰ってきて欲しいんです。ずっとずっと、心配で、もう、どうしていいのか…。親が…、あたしが、親なんです。あたしに、しのぶの面倒を見る義務があるんです。あたしに、しのぶを返して」
「まぁ、やめろ。みっともない。すいません、こいつ、この間から、ちょっとおかしくて」
「いえ。構いません」
「まぁ、こいつの気持ちも、察してください。ようやく、籍を入れる気になったのはいいけど、しのぶちゃんが、帰って来てくれないと…」
沈黙が静かに流れた。
「緑川先生、しのぶさんを呼んできてもらえないか」
「園長先生」
「まぁ、差し出がましいようだが、私が立会人になって、相談させてもらおう」
「…はい」
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