第29話 すべての人の心に花を-29
*
数日降り続いた雨が上がると、すっかりと風が冷たくなっていた。それでも、夕暮れの雲間から覗く陽射しはまだ暖かで、しのぶは空を見上げてほっと一息ついた。
「どうしたの、しのぶちゃん」
朝夢見が訊ねると、しのぶはゆっくりと振り向きながら、言った。
「やっと、晴れたな、って」
「ホント。やっと、ね」
まゆみもそれに応えるように言うと、和美と顔を見合わせながら、頷き合った。
「ね、ホントに朝夢見さんトコ、行ってもいいの?」
まゆみが嬉しそうに訊ねた。
「ん。初めてだっけ、まゆみちゃんは?」
「あたしも」
まゆみが頷くのに合わせて、和美も言った。
「そっかぁ。こないだ、しのぶちゃんが来たから、みんな来てるような感じだったわ」
「しのぶちゃん、行ったの?」
「うん。ちょっと、興味あったから」
「あん。あたしも、前から行ってみたかったの。独り暮らしってどんなのなんだろ」
「いいわよ。あんなトコに独りで暮らせるんなら」
「あんまり、けしかけないの」
「いいじゃない。ホントのコトなんだから」
「いいな~」
四人が南門から出ようとすると、一台の車が正面に止まっていた。その横に二人のチンピラ風の男が立っていた。二人は出てくる四人に気づくと、互いに顔を見合せ頷き合った。四人はそれに気づかずに横切ろうとすると、ゆっくりとその男たちは近づいてきた。そして、四人の前に立ちはだかるように立つと、にやにやと笑みを浮かべながら四人を見た。和気あいあいの四人は、その雰囲気に気づいて鎮まって、その二人を見つめた。一人、朝夢見だけは、きっと二人を睨んだが、二人の男はそんなことに委細構わずにやにやしながら立っていた。そして、怯んだ様子を楽しむかのように、少しずつ前に出ながら、言った。
「岩崎…しのぶ、って、オマエだな」
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