第24話 すべての人の心に花を-24
マグカップは大きくて、しのぶの両手で辛うじて支えられていた。カフェオレは穏やかに湯気を上げている。そっと口をつけると甘い感覚が口の中にじんわりと広がる。しのぶはほっとして、息をついた。そして、由起子を見上げると、由起子もひと口つけて、マグカップをテーブルに置いた。しのぶはマグカップを大事に手に包み込んだまま、由起子を見つめた。由起子は、そんなしのぶの視線に、ようやく気づいたように微笑んだ。
「どう、おいしい?」
「ぅん」
「ご飯、先に済ませてもいいんだけど、後からお話するとなると、緊張して味がわかんなくなるかもしれないから、ご飯は後ね」
「ぅん」
「じゃあ、話してくれる?」
「…話してって言われても…、なにから?」
「そうね…、家はどこ?」
「ん…。鷺ノ森と深山の間あたり。ちょっと、鷺ノ森の方が近いかな」
「家族は?」
「お母さん…と、……その恋人……」
「お父さんはいないの?」
「あたしが…小さいときに…、別れたの」
「…そう。兄弟もいないの?」
「あたし、ひとりっ子」
「ふーん。それで、お母さんと、二人で暮らしてたの?」
「ぅん…。でも、たいてい、家には…、…矢島さんがいたから」
「ヤジマ?その…お母さんの、恋人?」
「うん」
「お母さんの仕事は?」
「バーのホステス。昼間はずっと寝てるよ。夕方になったら仕事に行く。それで、夜遅くに帰ってくるの」
「そう。お母さんはやさしい?」
「…ぅ…ん」
「嫌いなの?」
「……ん」
「好きなの?」
「……」
「どっち?」
「……、…ん」
「はっきりしなさい」
「……きついね、先生って」
「あなたの気持ちを知りたいの。まじりっけのない、本当の気持ちを。だから、はっきりして欲しいの。あなたは、家が嫌いなんじゃない。家族と縁を切りたいと言ったのよ。あなたにとっての家族は、お母さんだけなんでしょ。なら、そのお母さんをどう思ってるの、はっきりしなさい」
「……好き…じゃない」
「ん。嫌い、なのね」
「……ぅん」
「じゃあ、あなたが家を出る理由、縁を切ってでも独りで生きていこうという理由は、お母さんが嫌いだからなのね」
「……ぅ、うん。でも、ちょっと、違う…ような」
「どう違うの?」
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