第10話 すべての人の心に花を-10


 二人は帰る途中で店を回って、しのぶの服や雑貨を買い揃えた。まるで身内のように由起子はしのぶを連れ回した。初めは戸惑っていたしのぶも、由起子に振り回され、いつしか何の抵抗もなく話ができるようになった。夕食の荷物も持ちながら、マンションに帰ったときには、思わず、ただいま、と言ってしまった。はっとしたが、由起子は何も気にしていないようだった。それを察してしのぶもほっとした。

 夕食のシチューを口に入れ、笑顔を見せるしのぶに、由起子は、おいしい?、と問い掛けた。ん、とスプーンを食わえたまましのぶは頷いた。よかった、と応える由起子にしのぶは、そのまま笑顔になってしまった。

「どう?学校は?」

「ん。面白いよ」

「そう」

「和美さんも、あゆみさんもまゆみさんも優しくしてくれるし、他のみんなも、結構親切だよ」

「よかったわ」

「あれだね、ここのガッコって、なんかぁ、雰囲気が違うね」

「そう?」

「ん。うまく言えないけど、ぎすぎすしてない、っていうのかな、さっぱりしてる、感じだね」

「ふーん。変わった言い方ね」

「んー、他に言い方が思いつかない…から…」

「勉強は、どう?」

「はは、それは、全然ダメ。わかんない」

「そう」

「あたし、あんまり、ガッコ行ってないから」

「しのぶちゃん、何年生?」

「あ…、言ってなかったんだっけ。二年。だから、ちょうど、いいんだ」

「そうなの。あぁ、よかった。ちょっと、迷ったんだけどね、あたしのクラスに入れるの」

「…由起子先生、無理して…入れてくれたんじゃないの?」

「んん、そんなことないわよ。あたしのクラスの方が都合がよかったから、それだけ」

「…ホント?」

「ホントホント。だって、他の先生に頼めないわ、こんなこと」

「……そう…ね」

「まぁ、もうひとつ理由はあるんだけど…」

「なに?」

「別に、たいしたことじゃないのよ。心配しなくてもいいわ。…あのね、あたしのクラスには、あなたの面倒を見てくれそうな子がいた、それだけ」

「…あゆみさん?」

「そう。よくわかったわね」

「だって、初めに、あゆみさんに頼んだじゃない」

「そう、そうね。初めから、朝夢見ちゃんに頼みたかったの」

「どうして?」

「それは、そのうちわかるわ」

「…そう。いい人だよね、あゆみさんって」

「それだけじゃないのよ」

「…ふーん」

「そのうちわかるわ」

しのぶは由起子の顔を見ながら、手を進めた。ひと口シチューを食べて飲み込むと、思い出したように訊ねた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る