第11話 次回・アドル死す!
ギルドに入り、まっすぐにカウンターを目指す。
何人かいた冒険者が此方を見たが、俺は特に気にせずギルドのカウンターの上にダンジョンで入手した戦利品を置く。
「買取を頼むよ」
この1週間ほどリリアの提案で分身をコントロールする練習をしていたので、ダンジョン探索は休んでいる。
だが頑張った甲斐あって、今では1体だけならそこそこコントロールが出来るようになっていた。
流石に細かい動きまでは厳しいが、実践で囮代わりに使う位なら出来るだろう。
明日からはまたダンジョンで超レア集め&レベル上げなので、その前にギルドで換金しに来たわけだが――
「聞きましたよ!アドルさん!」
俺の顔を見て、受付のティクが興奮した様に声を上げる。
一体何を聞いたというのだろうか?
エリアボス討伐の話かな?
もう倒してから結構経ってると思うんだが、今更?
「エビルツリーを単独撃破したそうじゃないですか!しかもたった一撃で!!」
単独?
一撃?
ティクの口からでた思わぬ言葉に、俺は眉根を顰める。
「エリアボスを一撃で単独撃破とか!凄いですよ!」
「いやいやいや……」
一撃で倒せたのは、討伐隊が結構なダメージを与えてくれていたからだ。
言ってみれば、漁夫の利の様な物だった。
あれを一撃で倒したと評するには無理がある。
そもそもリリアの結界ありきの結果なのだから、単独ですらない。
「一撃で倒せたっていうか――」
たんに止めを刺しただけだから。
そう言おうとして――
「私!ずっとアドルさんはただ者じゃないと思ってました!」
興奮したティクが言葉を遮られてしまう。
彼女はカウンターから身を乗り出して。ぐっと顔を近づける。
「今冒険者界隈ではその話題で持ちきりですよ!!最強の冒険者であるアドルさんの事で!」
界隈って……どうやら間違った噂が相当広がっている様だ。
俺は小さく溜息を吐いた。
討伐隊を助けてエリアボスを倒した話が広がるのは分かるが、あれだけ人数がいて何故俺が一撃で倒したなんて間違った情報が流れているのか、謎でしょうがない。
「サイン貰ってもいいですか!」
「勘弁してくれよ」
一撃所か、単独とも言えない勝利だ。
そんな漁夫の利で得た物にサインを求められても困る。
つか、冷静に考えたらありえない事ぐらい直ぐに分かりそな物だが……
「なあ、ティク」
「はい!」
俺の問いかけに、彼女は上気した表情で元気よく返事を返して来る。
此方を見つめる彼女の瞳は、期待にキラキラと輝いていた。
きっと心の底から噂を信じてしまっているのだろう。
その期待を裏切るのはあれだが、俺は虚偽の内容を誇るつもりは更々ない。
誤った噂を放置しておくものあれなので、ちゃんと訂正しておく。
「冷静に考えて、俺がエビルツリーを一撃で倒せると思うか?」
「へ!?……うーん、そうですね。最初はちょっと想像はつかなかったですけど……でも、討伐に参加した冒険者の方々も同意してましたし」
参加してた冒険達が同意?
「誰が?」
「えーっと……地響きの方々とか、ケネスさんや他の方も口々にそうだって言ってましたよ」
「……」
いやいやいや!
あいつらが一番状況を理解してる筈だが!?
イレギュラーな
参加していた奴らなら、それは十分理解できていたはずだ。
それがなんで俺が一撃で討伐したって話になってるんだ?
止めを刺したってのが、誤ったニュアンスとして広がってるって事だろうか?
「ひょっとして……違うんですか?」
「違いませんよ。マスターが一撃で仕留めました」
俺がティクに返事をするよりも早く、それまで静かだったリリアが口を挟んで来る。
まるで悪戯しているかの様な悪い顔だ。
その時、ピーンと来た。
こいつが犯人だと。
「お前か?」
「イエスorハイでお答えしますわ。マスター」
全く。
何やってんだこいつは。
まあ言っても無駄か。
「はぁ……つか、どうやって他の冒険者を篭絡したんだ」
こいつ一人で吹聴した訳じゃないのは、ティクの言葉から分かる。
俺はその手段が気になって尋ねた。
変な事をしてなけりゃいいんだが……
「簡単ですよぉ。マスターが助けなかったら被害は確実に増えていたわけですし、貸を返せって言っただけです。後、仲間を置いて逃げ出してた人達も結構いたので、その辺りをちょろっと脅した感じですかねぇ」
人の足元見て脅しをかけてたとか……こいつ本気でとんでもねー事しやがる。
しかしいつの間にそんな事を?
いつも一緒にいたはずなのだが……いや、そういやアイテムを盗まれた後の数日間はそうでもなかったか。
あの時は落ち込んで宿に籠ってた訳だが、リリアはそんな俺を放って一人でちょこちょこ街に出かけていた。
散策でもしているのかと思っていたが、どうやらその時に冒険者達と接触していた様だ。
「何を溜息ついてるんですかぁ。マスターはいずれはダンジョン攻略を成すお方なんですから、流行の先取りですよ。さ・き・ど・り」
「あほか。と、いう訳だから」
ティクが少し苦笑いしている。
リリアの言葉はまる聞こえだったろうから、当然の反応だ。
だが彼女は――
「まあでも、いいんじゃないですか?」
「えぇ……」
聞いたうえで、それでもいいじゃないかと言って来た。
何でそうなる?
「アドルさんが強くなって、皆さんを助けたのは事実な訳ですし」
「いや、誰か助けたと。エリアボスを一撃は全く別物だと思うんだが」
「ふふ。リリアちゃんも言ってますけど、噂に負けないぐらい強くなっちゃえばいいんですよ。それに噂がデマだって修正してしまったら、協力して吹聴した冒険者の方々が恥をかいて余計な不興を買うハメになっちゃいますよ?」
「ぬう……」
リリアの方を見ると、今にも「くくく……」と笑い出しそうな悪い顔をしていた。
恐らく全て計算づくで行動していたのだろう。
恐ろしい奴だ。
訂正して余計な恨みを買うのも馬鹿らしいし、まあ諦めるしかないだろう。
「という訳で、サインをお願いしますね」
ティクは色紙を俺に押し付け、ドロップ品を確認しだす。
誤った噂だと分かったのに、それでもサインはいるのか……
「これって下層にいるデビルバットのドロップ品ですよね」
「ああ」
「ソロで下層の魔物を倒すなんて、流石は最強の冒険者アドルさんだけはありますね」
「いや、それはもういいって……」
「ふふ、冗談ですよ」
俺は適当に色紙にサインを書き込む。
当然こんなものは一瞬だ。
「ん?」
特にやる事もないのでカウンターに手をかけて待っていると、開きっぱなしの扉から背の小さな少女が入って来るのが見えた。
両端を結わえておさげにしている髪型の女の子で、年齢的には大体リリアと同じぐらいに見える。
――胸以外は。
胸元だけは明らかに幼くなかった。
御立派の一言だ。
子供とは思えないアンバランスなそのボリュームサイズに、ついつい視線が吸い付いてしまう。
これが男の本能という奴だろうか?
「何かラインが気に入らないので、虐めて来ていいですか?」
「いい訳ねーだろ」
気持ちは分からんでもないが、だがない物ねだりをしても何も解決しない。
ましてや相手に嫌がらせなどもっての外だ。
「ちっ」
舌打ちすんなよ。
少女は入り口付近にいた冒険者の男に声をかける。
すると話しかけられた男は、真っすぐに此方の方を指さした。
一瞬カウンターかとも思ったが、その指先は完全に俺を指さしている。
「どうやら、こっちに用があるみたいですねぇ」
「虐めんなよ。絶対に」
嫌らしい顔をしたので、強めにたしなめておく。
こいつなら冗談抜きでやりかねん。
「善処します」
その返事、不安しかないんだが?
まあ何かやらかしそうだったら、頑張って止めるしかないか。
少女は男に頭を下げた後、此方に駆け寄って来た。
バルンバルンと豪快に揺らしながら。
……あえてどこがとは言うまい。
「あ、あの!アドルさんだべか!?」
だべ?
「ああ、そうだけど。君は?」
「わ、ワタスはテッラっていうべ!」
ワタス?
なんか変わった言葉遣いの子だな。
「俺に何か用かい?」
テッラという名に心当たりはない。
結構かわいい顔だちだし、何よりそのアンバランスな胸元は一度見たら忘れる事はないインパクトだ。
間違いなく初対面だろう。
「わ……ワタスを貴方のパーティーに加えて欲しいべ!このとおりだべ!」
テッラはその場にひざまずき、頭を地面に擦り付ける。
土下座だ。
主に他人に懇願したりする際に使われるパフォーマンスな訳だが――
「何やろうとしてんだ!?」
リリアが当たり前の様にその頭を踏みつけようとしたので、首根っこをひっつかんで持ち上げた。
「いえ、いい踏み台があったのでちょっと」
「踏み台じゃねーよ!」
「左様でしたか。これはリリアちゃんとした事がうっかり」
何がうっかりだ。
絶対わざとだろ。
「あの、アドルさん」
ティクに声をかけられ、気づく。
今の自分の状況に。
周囲の視線が俺に集まっている。
土下座する少女の前で子供を摘み上げるその姿は、第三者から見たら虐待している様にしか見えないだろう。
俺はリリアを適当に放り投げ、急いでテッラに立ち上がって貰う事にする。
「ちょっと悪いんだけど、土下座は勘弁してくれ。話を聞くから」
「じゃあパーティーに加えてくれるべか!?」
何らかの事情があるのだろう。
そう思って話を聞くと言っただけなのだが、テッラの中でそれは都合のいい答えに変換された様だ。
だがここで断ったらまた土下座されそうなので――
「事情次第だよ。とにかく、土下座は止めてくれ」
「分かったべ!」
100%断る事になる。
正直、騙すようで心苦しいがまあ仕方ないだろう。
「とにかく、買取の査定が終わるまで外で待っててくれないか?」
「分かったべ!素直に待ってるべ!」
彼女は元気よく返事を返すと、ギルドの外へと駆けて行った。
「うざっ」
そんな彼女にリリアが吐き捨てる。
自分の事を棚に上げて、よくそんな言葉が吐けるもんだ。
まったく。
「ふふ、大変ですね。有名人は」
ティクの言葉に俺は首を竦めて答えた。
有名になっても碌な事などない。
まったく勘弁してほしい物だ。
しかし、あの子――
「謎の少女テッラ。その巨大な胸にアドルは思いを馳せる。果たして彼女との会合が齎すものとは一体。次回・アドル死す!」
「…………リリア、いきなり何言ってんだ?」
誰が死すだ。
縁起でもない事言うな。
「いえ、ちょっとナレーションをば」
リリアの言うナレーションとやらが何の事かよく分からないが、まあ放置しておく。
俺は査定を終えたティクから金を受け取り、外で待つテッラの元へと向かった。
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