第6話 RZVとの出会い(6)

RZVとの出会い(6)




「じゃあ、な。またこいよな。」

Yは、いつものような笑顔で、でもどこかしら寂しげな顔で。



そういつまでも遊んでいるわけにもいかず、帰らなくてはならなくなった。

(実のところ、バイト先から呼び出されたのだが。)


常磐自動車道に昇り、谷和原インターから、西へ。


4ストローク、750ccのスムースなトルク。

なんとなく、楽だが、RZVのパンチを味わった後だと

どこか、物足りなさを感じた。


フル・スロットルにする、も伸びはある、が、“あの感じ”には程遠い。

なんだろう、似ている感じを探すと、4綸の大排気量スポーツカーのような感じだろうか。

そんな事を考えながら、首都高のコーナーを駆け抜けて。

冷静に速さだけを比べれば、それほど大きな違いはないのだが、不思議な魅力があるマシン、RZV。

いつかそのうち金貯めて手に入れてやろう。

そう思いながら、用賀ランプを過ぎ、下りストレートをフル加速して

モリワキ・フォーサイトの共鳴音を楽しんだ。




家に帰ると、峠仲間のNから留守電が入っていた。

Nは、RZ250に乗っているが、努力の甲斐あって限定解除に成功。

(この当時はまだ、400cc以上は教習所では取れなかった。)

なんだろう?とは思ったが、時間も無かったし、

とりあえず疲れていたのでCBXをガレージにしまい、

そのまま眠った。



翌日。

眠りから目覚めると、すでに午後だった。

その日のバイトは遅番だったので、16:00からだ。

15:30、いつものようにGR50にまたがり、バイト先のスーパーへ向かう。

スガヤチャンバー、20φキャブ。

ひどく低速トルクが細いので、それを楽しみながらこまめにギアをシフト。

パワー・その、細いトルクとパワーバンドをキープする面白さ。

チューニングマシンらしく、これは極端にピーキーだ。

何といっても、パワーバンドは8000rpmから、というのだから。

(今にして思うと、ただ近所迷惑なだけだ、という気もするが。)

こまめにシフトを繰り返し、全開、全開、また全開。

あっという間に、バイト先に着く。

スーパーの店長、渋い顔で。「...おはよう...。」

「...すみませ~ん^^;。」

何せ、勝手に休んだ俺が悪いんだから...な。

レジに着き、いつものようにレジ係のバイト。



「らっしゃい!」

「らっしゃい!」

「らっしゃい!」



雪崩のように客が押し寄せて。

今日は開店セール。..やれやれ...。

20時を回ったころ、疲れでぼんやりしていると、背中をたたかれた。

「よッ!」

ひょろっとした、長身の青年。

白ヘルメットに、オリジナルのイラスト。


(この時は「アラレちゃん」だったかな^^;)


絵が上手な、Nだ。

奴は今、バイク屋の店員。

と、いうより、失業していた。

と、いうよりは、奴がプータローしている時に俺の行きつけのバイク屋に

就職させてやったのだが。

このN、頭は悪いがいい奴で、結構バイクのセンスはある。

RZ250じゃ結構早いほうだ。

んで、ご多分にもれず、こいつもパワー不足に悩んだ、というわけ。


「へへぇ~...(^^)」

「なんだよ、気味悪いなぁ。」

「買っちゃった。」

「何を?」

「ニンジャ。」

「え~、GPZ!?。」


こいつは、前からビッグマシンに憧れていた、

そりゃそうで、俺達がモト・グッチやら、ドカティやらでぶっ飛んでいるのを必死に

250で追走してきたのだから。

(まあ、それでもついてくるからたいしたものだ。)


「お前、金持ちだなぁ。」

「へへ、ローンだよぉ。60回!。」

「......。^^;。」


早速、レジに「休止中」の札を立てて見に行く。

パーキングの蛍光燈の下で、朱色のninjaは、なんだか低くうずくまって見えて

本当に、忍びの者みたいだ。


「今度、走ろうぜ、スカイライン。」

「へへ~、CBXなんてぶっちぎりだよん。」

「腕でカバーするさ。」

「ま、がんばって!。」



Nは50kgそこそこ、という体でひらりとまたがって、センタースタンドを外し、セルを

回した。

カワサキらしい、荒っぽいノイズが響く。

ゴロゴロ、と。

轟然と回るエンジンは、なんだか男っぽい。


「じゃな。」

「おお、気をつけろよ!」


Zシリーズだ、という証明のような排気音を残して、奴は走り去った。

このN、年は俺よりかなり下なのだが、躾の悪い餓鬼なんで

誰にでもため口を利く。

んでも、何故か憎まれない、得な奴。

多分、バカだからだろう....。

俺は、ninjaのテールランプを眺めながら、家にあるCBXのことを思い浮かべていた。

そろそろ、CBXも10000kmを越え、エンジンも絶好調だ。

でも、あのRZVの魅力の前には、ただのオートバイのように思えて。

なんとなく、色褪せたもののように思えた。

どこかしら、イタリアン・ファンタスティック・カーのような

不思議な魅力。

(これは、現在でも変わらないように思える。今、僕はRZVの他にYZF-R6をもっているけれど、

とても従順で良いオートバイなれど、どこか魅力の点ではRZVにかなわない。

そんな気がする...何故だろう?)



俺は、RZVの柔らかなラインで構成された、テール・カウルのディテイルを思い出していた。

バイトの残り時間の最中、幾度も釣り銭を間違えて客に怒られながら。


次の休み、俺は早起きしていつものコースを走りに出かけた。

このコース、アップダウンが激しくて、16インチマシン泣かせ。

例の如く、リア寄りに座って苦手な下りコーナーを克服しよう、と。

練習のつもりだった....





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