第152話・毛利に馳走する。


 博多湊 高橋鑑種


 どうやら博多を焼いて毛利に逃亡している筑紫が現われたようだ。

 それにしても姿を見せない相手の事を、不慣れな土地にも関わらずに察知しているとは、山中の諜報網の凄さよ。

 儂もそれを聞いている手前、仕方なく助勢を申し出たが断られたわ。実はホッとした。筑紫は嫌な奴だが、今は毛利方なのだ。大友が信頼出来ぬのならば、頼るには毛利しか無いのだ。


 どうやら五百の筑紫隊に三百で対応するらしい。それも野戦でだ。

何故だ。小数なのに何故有利な陣城を出るのだ。築きかけの城が崩れるのを嫌がったのか?


 まず毛利水軍が先に来た。

関船四隻に小早が十隻ほどいる。それに対して山中は三隻の商船だ。どうやら大砲を装備しているようだが、勝てるのか、どうなのだ?

 水軍の戦いは分からぬが、毛利水軍は山中の船数を知った上での数だろう。だとしたら毛利が有利だな。そして毛利水軍が山中船を破り、上陸してきたのなら、山中隊は壊滅する。



その場合儂はとっとと引き上げねば巻き添いをくう。

引き上げ時が肝心だ。

 ああ、なんでこんな日に来たのだ、来なけりゃ良かったわい・・


 毛利の船が接近して、山中の船が動いた。帆を畳んだ?

 回頭して真横に、そこへ毛利の小早が突出して来た。


「ボゴーン、ボゴーン、ボゴーン」と凄まじい音が聞こえた、小早の間で水柱が上がる。


(大砲だ!!)

「ポンポンポンポンッ」と火縄の音もする。その後から関船が突っ込んで来た。大砲を撃ちながら山中の船が回り込む。


 おわああ・・、砲撃の嵐に関船が次々と崩れて沈んで行く。

 なんて事だ、毛利水軍がまるで相手にならぬ・・


 それよりも陸地だ。

山中隊の凄まじい矢に筑紫隊が倒れて見る間に数を減らして行く。

 さらに竹槍を持った二隊が突撃した。

竹槍隊が筑紫隊を突き崩している。

あの戦巧者の筑紫が良いようにやられているわ。


 いかん、こうしていては儂が疑われる。

戦場ではどっち付かずが最悪を招くのだ。

「我らも出るぞ、筑紫隊の背後に突っ込む!」


 筑紫隊の背後は隙だらけだ。

「おおおおおーー」と声を上げて、そこへ突っ込む。

敵は崩れて壊走した。それを山中隊が追撃していく。



 海上は毛利の一隻が逃げ、それを山中船二隻が追っている。

 一隻はこちらへ、湊へ引き返している。


・・そうだ、儂は山中に案内を頼まれていた。向かおう。



 儂が乗船すると船は一気に船足を上げた。毛利の船は見えない。大勢の漕ぎ手がいるうえに帆も立てている。果たして追いつけるのかという儂の危惧はすぐに解消された。

 志賀島を回って小さな点だった追跡中の山中船が、すぐに大きくなり追いついたのだ。必死に逃げる傷付いた毛利船、それを山中船は縮帆して追跡しているのだ。

 つまり、わざと逃がしている。

 何故だ?


「あれをどうして沈めぬのだ?」


「あれを沈めれば、毛利は性懲りもなく何度も来ると思われぬか?」


「うむ・・・」


「それでは博多の復興が上手く行くまい。そう思われぬか」

「たしかに」


 ではどうするのだ?

 まさか、


「山中殿は毛利水軍を壊滅するおつもりか?」


「はっはっは、まだそれは無理で御座る。そうでは無く、博多に手出しせぬように交渉するので御座るよ」


「・・・」


 大毛利に交渉だと・・どうするのだ??




 交戦中の筑紫惟門


「撤退!」

「逃げろ、まとまって逃げるのだ!!」


 やられたわ、コテンパンにやられた!!

山中隊がこれ程まで強いとは思っていなかった・・


 恐るべき矢の数、それで百兵はやられた。

それに竹槍! なんなのだ! 何故戦場にそんな物を持ち出す!

 たちまちそれに突き倒された。

 さらに背後からの突撃、高橋勢だ、大友は和睦を破ったのか?


「固まれ、まとまらないとやられるぞ!!」


 撤退しているのは百兵ほどか、散々にやられたものだ。

 追ってくる山中隊は二百ほどか、百程と高橋隊は残ったな。

 ・・と言う事は山中隊の損害は無いのか・・

惨敗だ、これ程の惨敗したのは初めてだ、相手を知らずに戦ったのは拙かったな・・もっとよく山中隊の事を調べるべきであったわ。


だが、まだ分からぬぞ。儂のとっておきの策が残っておる。

挽回できる、やってやる!


 もうすぐだ。あの山の脇を抜ければ伏兵がおる。そこに誘い込むぞ。

 ・・ん、山中隊が前後に分かれているな。微妙な間が空いておる・・

 策を気づかれたのか? と言ってもやるしか生き残る道は無い、ままよ、


 よし、ここだ!

「止まれ、敵を迎え打て!!」

「「おうっ」」


 半数の背後の敵が回れ右をした。伏兵に気づいたのだ。だが百の伏兵がそれに雪崩をうって突撃している。良し!!


 直前の敵の半数も伏兵に向かった。


「突撃!!」

追手に突撃した。残った敵兵は棒立ちだ。馬鹿め!


「ポン、ポン、ポン、ポン、ポン」

 先頭の兵がもんどり打って倒れている

・・まさか火縄か、そんな物、持っているようには見え無かった・・


 敵の火縄が止んだ、一射でかなりの兵がやられたが、まだいける。


「今だ、蹴散らせ!!」

「ポン、ポン、ポン、ポン、ポン」


 なんだと、玉込の間は無かった筈だ・・腹に衝撃を受けた。腹が熱い、

足が崩れ落ちる、後から突っ込んで来た隊に崩れてゆく伏兵が見えた。

伏兵に伏兵だと・・・


 なんなのだ、山中兵とは・・・・


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