第8話
そんなつもりではなかったのに。クラリスの愚痴がアスランの人格を変えてしまったのかもしれない。
まさか、まさか、と打ち消しながらも、クラリスはそれを否定できないでいた。
(どうすれば、アスランは元に戻る……?)
クラリスは頭を抱えたまま思案した。
そして、胸元から取り出した小瓶をみつめた。
昨夜の願いを「恋の雫」が聞き届けたのだとしたら、もう一度、願えば叶うだろうか。
クラリスはごくりと息を飲んだ。
「アスランを元に戻して……」
言い掛けて、たくさんの女の子に囲まれるアスランの姿を思い出す。
真面目なアスランとは違い、前の軽薄なアスランは女の子に優しいが、あれはあれで放っておくと甘い言葉で女の子を騙して傷つけるんじゃないだろうか。
せっかく願いが叶うなら、元よりはもう少し、女の子の気持ちがわかるようになってもらいたい。
そう考えて、クラリスは小瓶に向かって呟いた。
「アスランが……女の子の気持ちになりますように」
言い方がまずかった。と、クラリスが気づいたのは、翌朝、校門の前で内股で立っているアスランに、「おはようクラリス! ねぇ、今日の放課後、一緒にお茶を飲みに行きましょ!」と頬を染めて言われた瞬間だった。
「女の子の気持ちになれっていったけれど、それは女の子の気持ちを理解しろって意味で、女の子になれって言った訳じゃないのよ!」
階段の踊り場で、クラリスは小瓶に向かって叫んだ。
今日は昨日以上の地獄だった。学園の生徒と教師にとって。
誰しも平和な学園内で内股で走り語尾にハートをつけ空気に花をまき散らし喋る時は頬に手を当てる侯爵令息なぞ見たくないのだ。もちろん、クラリスだって見たくない。アスランに内股で口に手を当ててもう片方の手を振りながら「クラリス〜♪ ねえ、見て見て〜ネクタイ、リボン結びにしちゃったー♡」などと言って走ってこられた時には、衝動的にアスランを窓から投げ捨てて後から自分も飛び降りるところだった。
そんな凄惨なゴシップはおそらく新聞社だって求めていないだろう。
「女の子らしくしてほしいんじゃなくて、もっとワイルドで……硬派……そうよ、もっと硬派に!」
翌朝、家を出たクラリスの前に、黒い馬にまたがったアスランの姿があった。
「よう、クラリス。送っていくぜ。俺のナナハンの後ろに乗りな!」
そう言ってニッと笑うアスランの制服は、何故か袖のところで破れていた。あと、頬に大きい十字傷がある。たぶん描いたんだろう。
あと、クラリスの記憶が確かなら、アスランの愛馬は「アルターテ」という名前だったはずなのだが。
「……私は、馬車で行くから」
「おいおい。ツレねぇこと言うなよ! 二人で風になっちまおうぜ!」
謹んで遠慮したい。
「ワイルドだろぉ?」
「はあ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます