130 白銀杯㉓ 決勝4

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皆様の応援、レビュー、ブクマ等温かいご評価のおかげで

第7回カクヨムコン長編部門で中間選考を通過しました。

本当に本当にありがとうございます!


日頃のご愛顧、とても励みになっています。

今後も頑張って書き綴っていきますので、ひとつよろしくお願いいたします!


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 ――天使装備エンジェルシリーズ前衛武装 力天使の大剣デュミナス・バスタード


 懐かしき、彼のNSV一位 カレンデュラが一時はメイン武器として用いていたほどの強力な剣……甲2D浮遊島アルビオンのレアドロップの一つで、極端に偏った光属性ブーストが載る天使装備の中でも特にピーキーな性質を持つ超攻撃特化武装だ。


 闇属性と同様に他六つの基本属性に対し優位にある光属性は、それこそ入手・習得が困難なだけあって公式チートの如き嫌らしい性能を持つ。序盤からアレで光バフなぞ出されていれば単純な性能差で勝ち目が無かったくらいには嫌らしい。


 

 まぁ、優勝景品の授与があった時点で分かってはいた。


 カレンデュラが打ち合いで応じてくれたからこのような運びになっただけで、甲等級レアドロップを何種も取り揃える王族の手札をふんだんに用いられれば、ステータスで劣り、技巧で後れを取る俺たちに勝ち目などない。

 【闇蝕胞子】などという理不尽スキルを顕現する杖に、カレンデュラの最高峰の一撃を幾度も凌ぐ硬度を持つ外装など、甲等級のレアドロップはそれほど明確に理不尽な性能を持つ装備だからだ。


 力天使の大剣を光属性で強化されようものなら、単純なミスリル長剣などバターのように切り裂かれてしまう。受けが成立しない縛りでカレンデュラと打ち合うなど蛮勇にもほどがある。


 現状手持ちであの大剣に対抗できる装備はまさに、先に王女殿下に授けられた月蝕剣 エクリプス・セイバーしかない。


 今になって力天使の大剣を取り出し「一興」などという言い方をするからには、せっかく授けた月蝕剣で応じろということだろう。

 この展開を予期していた訳ではないが、攻略を有利に進めるためにと習得を急いだ闇属性のおかげで半分と、力天使の大剣に纏わせるであろう光属性との接触で補完すれば、不本意な形ではあるが一応は性能をフルで引き出せる。力天使の大剣が未改造であれば、ステータス差を鑑みなければ武器スペックはほぼ同程度で競える。



 カレンデュラは大剣の切っ先を真っすぐこちらに向けると、不敵な笑みで口を開く。



 「『一手決着』だ」



 「……へぇ!」



 契約決闘には、決着の形を当人同士の合意によって設定できる性質から、何がどうなれば決着かを申し合わせて競い合う非公式の様式がいくつか存在する。一手決着とは、互いが考える最高の一手をぶつけ合い、その結末を以て決着とするものだ。

 最大火力を打ち合って力比べ、耐えきれた方が勝ち。武器が破損した方が負け。HP残量、などなど……基準は無数にある。今回はカレンデュラに最大火力で打ち込んでこられたらこちらが押し負けるのは必至。だが彼女に限って、わざわざこちらのレベルに合わせて最適に打ち合ってくれた後でそんな無粋な決着を望むはずがない。

 

 何が狙いかは分からないが、わざわざその様式を選ぶということは一手打ち合うことに何らかの狙いがあるのだろう。こちらをどうとでも料理できる手札を見せつけた後でなお、正々堂々の決着を望むというのだから、こちらは乗るほかない。



 インベントリから月蝕剣を取り出し、くすんだ灰色の刀身を同じようにカレンデュラにかざす。



 「受けて立つ」



 


 ………




 「一手決着……?」



 出場者控えスペースから試合を観戦していたカツゾウとつまみはカレンデュラの唐突な申し出に首を傾げていた。

 カレンデュラはその気になれば装備性能やステータスでごり押しできる立場でありながら敢えて打ち合いによる技巧勝負でミツカと渡り合っていた。お互いに微ダメージを負い、現状はカレンデュラが押していたが、スタミナ的にもHP的にも決着はまだ遠いはずだ。

 お互いが残る死力を出し尽くす意気で挑むほどに削り合ってはいないというのに、わざわざその最中に強武器を取り出して一手決着に取り組むというのは決闘としてスマートな流れには見えず、特にNSV的な様式に慣れ親しんできた二人にとっては訝しく感じられた。



 一手決着は非公式とはいえ格式高い様式だ。一手を真正面からぶつけ合うことが本位となるその様式では、タイミングをズラしての奇襲など姑息な手は末代まで呪われるほどに嫌われ、力量差が明確な中で一方的に押し倒すような手合い違いも忌避される。あくまでも打ち合いであり、相手を負かす手ではなく打ち合う手が選ばれる。


 お互いの技巧、武器性能、ポテンシャルの解放率を考えれば一応は互角に渡り合えそうではある。故に、互いに余力がある場面でこの様式では望む決着に辿り着くか確証が持てないところだ。



 (満嘉さんを倒すことが目的じゃない……?)


 

 最高峰の一手決着ともなればその衝突エフェクトは圧巻である。「一興」と言うように、興行として盛り上がりはするだろうが、そのためにこのタイミングでわざわざ一手決着を望むのは解せない。

 とは言え、倒すのが目的じゃないとして、カレンデュラが何を狙っているかは皆目見当もつかない。




 ………




 意図は分からずじまいだが、申し付けられたからには乗る。勝とうが負けようがぶつかる。

 長く二位として過ごし、挑戦者でありながら頂点の一角でもあったことから、そのような横綱相撲体質が芯に沁みついている。



 闇乙の魔法を展開し月蝕剣に複合させると、同様に光乙の魔法を大剣に複合させたカレンデュラが構えを取る。


 【渾身】【会心】【クリティカル】三拍子揃った最高峰の一撃。

 足運び、力み、剣筋、全てが完成された流れ。


 観客にとって、その太刀はまさしく「一閃」と形容するに相応しい瞬くような一撃でありながら、流麗でどこか淑やかさすら感じられる動きからスローモーションのようにすら見えた。



 闇夜を駆ける梟の翼のように鋭利でしなやかな深い漆黒


 晴れ渡る空から射す陽のように清廉せいれんで愚直な眩い純白



 基本八属性の中でも最も強力な衝突を起こす陰陽の交差。


 光は闇を照らし、闇は光を陰らせる。


 一方で光が強ければ闇は深まり、闇が深ければ光は際立つ。



 相容れないそれらの衝突は慟哭のように激しい衝突音と空震をアリーナ中に響かせた。







 瞬間、目の前の景色がカレンデュラを除いて色相が反転したかのように様相を変え、時が停まった。







―――Code C


B因子とE因子の衝突を確認

――B因子とE因子の間に因果律を認定


逸脱因子プレイヤーの中から七種の聖痕適合者を確認

――いずれも同時点において生存を確認



条件が達成されました


Never Seen The Vista

Version 8 “Catastrophe”

Mode “Closed Beta Flex”


Versionを9 “Metamorphosis”に移行


正シナリオを構築

Phase 1 / 5 :裏1Wに移行します




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登場人物一覧をほんの少し追記しました。


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