23 元プレイヤーの少女

 「はぁ~……さすがに疲れた……」


 「さすがにソロでは……」と言いたげなザインとリズにスタンピード攻略の証としてマッドキングボアーの魔石を持たせ見送った後、何だかんだでボス戦三周、うち一周で【突進予測】の習得までこなして、すっかり暗くなった頃に帰路に就いた。

 NSV時代なら夜通しでも周回できたくらいだが、さすがに今はゲームと違い肉体的な疲労が凄まじい。単純にSPだけの話であればレベルアップの度に全回復するし、気功術や道中採集してきた薬草で回復もできるが「SPを消耗する度に身体が疲れる」というが思いの外しんどく、たった三周で断念することにした。

 とは言え、序盤はそれこそ初剣壱程度で筋肉が軋むほどやわだった肉体も、シゴキとレベルアップによる不条理な超回復をこなしたおかげで短期間で格段に進化した実感はある。

 リアルなようでゲーム的な要素もあり、いよいよここが何の世界なんだか分からなくなる。


 「ミツカ殿!」


 と、ダンジョン方面からルイーゼに入る門のすぐ傍でザインが待っていた。


 「わざわざ待っていてくれたんですか?」


 「さすがに一人でダンジョン周回など……いや、ミツカ殿の腕を考えれば可能ではあるのだろうが、それでもやはりそのような偉業を目の当たりにしたことがないからな」


 「ご心配おかけしました……」


 「それに……いや、既に解決はしているんだが、こちらでも色々あってな……」


 疲れて帰ってきたところに厄介ごとは勘弁してほしいが……解決済みというからにはそう身構える必要もないだろうか。

 約束の肉も捨てがたかったが、報告の必要があるということでギルドに直行すると、夜もそこそこという時間に未だ喧騒に包まれていた。


 「ザインさんが帰って来たぞ!」


 「あれが噂の……」


 ザインと一緒に入って来た俺を見て喧騒が止む。


 「あー、ザインとミツカ、こっちに来てくれ!」


 と、人だかりの奥からケニーが顔を出す。


 「応接室に行く。そこで待ち人もいるんだ」

 

 「待ち人ですか?」


 「ミツカ殿にどうしても会いたいという話でな」


 「はぁ……俺にですか……」


 NSVであれば知り合いは山ほどいたが、ここはNSVとは似て非なるゲームのような現実世界。当然顔見知りと言えばロウェルとこのギルドの職員、ザインとリズくらいなものだが、待ち人と含みのある言い方をするからにはそれ以外の何者かなのだろう。しかしこちらからすれば全く心当たりのない待ち人だ。一応警戒はしておこう。


 ザインに連れられ応接室に入ると、ケニーとリズ、そして恐らく冒険者と思しき少女が居たのだが


 「……」


 「……」


 少女と俺は目が合った途端に絶句して、お互いの装束を頭頂からつま先までじっくりと見渡した。


 少女と俺に面識はない。だが少女の装束は初見ではなかった。


 「あー……すまん、二人とも。呼び立てしたところ悪いが、まずは丁1Dルイゼリオスのスタンピードの顛末てんまつについて報告を願いたい」


 そんな二人のただならぬ空気を察してかケニーが議題を差し込む。


 「あぁ、はい。変異ボスを倒したのでスタンピード自体は徐々に収まって来るはずです 変異ボスの魔石はザインさんとリズさんに預けた通りです」


 「確認した。信じ難いが、確かにマッドキングボアーの魔石だった。そういえば二人に魔石を託した後も残ってソロでダンジョン攻略をしていたと聞いたが……」


 「はい、さすがに疲れたので三周で切り上げましたが」


 言いながら、しっかり回収したマッドキングボアーの魔石を三つテーブルに並べるとケニー、ザイン、リズの三人は目玉が落ちるかと思うほど目をかっ開き、少女だけは眉間に皺を寄せた。


 「まさか本当にソロで攻略するとは……」


 「だから言ったじゃないですか、この人バケモノなんですよ」


 頭をガシガシと掻きだしたケニーにリズが呆れ顔で告げるが、さすがにこの一日で掻き疲れたのか一つ大きくため息をつくとすぐに顔を上げた。


 「……それで、マッドキングボアーを討伐するとスタンピードが収まるというのは?」


 「徐々に、ですが。俺の知る限りでは間違いない情報です」


 「確かに物見の報告ではダンジョンからの魔物の溢出が数時間前から途絶えているとのことだ。殿の情報とも合致する」


 明らかに日本人風な、それでいて恐らく少女を指しているであろう、にしては不似合いにいかつい名前に気を取られるが、ケニーは続けて謝辞を述べる。


 「二人とも、ルイーゼの危機をよく救ってくれた。ありがとう……!」


 ケニーは囲んだ机にぶつけんばかりに頭を下げる。


 「いえ、こちらも利害が一致したので……」


 「別に、通りすがったら魔物に出くわしただけなので」


 どうやら本当にカツゾウというらしい、確かに目つきだけは厳つい少女もぶっきらぼうに続ける。

 

 「実は、ミツカ殿が二人に伝えた通り、メタルリザードとコカトリスの出現が確認された」


 「そうだったんですか!?」


 共にCランク下位程度の雑魚魔物ではあるが、スタンピード時はレアドロップ素材御用達の人気ターゲットだ。もっとも、ザインやリズの言、ルイーゼの戦力を考えると図鑑上はCランク下位ではあるが単体でも討伐は困難を極めるだろう。それを二匹とも討伐したとなると……


 「しかもダンジョン外へ溢出して山を下ってルイーゼに向かって来ていた。ザインやリズも居ない中で討伐隊を組むにも苦慮していたが……そこのカツゾウ殿がほぼ単独で討伐してくれたおかげで、若干の負傷者は出たものの事なきを得た。その負傷者もカツゾウ殿が治癒してくれたおかげで今はピンピンしているがな」


 見覚えのある装束……俺と同じNSVの特殊装備――β褒章であり、甲等級レアドロップでもあるに身を包んだ、それもカツゾウという明らかに日本人然とした名の少女がほぼ単独で二匹を討伐した上、この世界では一般的ではないらしい回復魔法も使うのだという。

 俺に用がある待ち人というのは、恐らく俺と同じ境遇の元NSVプレイヤー……


 「……」


 「……」


 多分向こうも俺と同じことを考えているだろうが、何と切り出すべきか悩みあぐねている内に二人とも口を開くタイミングを逸してしまった。


 「あー……そうだな。俺たちは一旦席を外そう」


 言いながらケニーが席を発つ。


 「何かしら、込み入った話もあるだろうからな。隣の部屋で控えている。防音については心配無用だ。終わったら呼びに来てくれ」





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