第一章 転生・チュートリアル編

2 Q:T-2【参拝してみよう】

 「お、良かった武器持ちだな」


 目の前にはゴブリン。

 ボロ臭い布切れの隙間から伸びた薄汚れた緑の肌に、身の丈は子供くらいだが人の子のそれとは違った筋肉の付き方。今までは吹けば飛ぶような雑魚だと思っていたその見慣れた風貌も全く別物のように見える。

 

 初級エリアのゴブリンは大抵が木や石で作ったお粗末……というか原始的な鈍器で攻撃してくるが、稀に冒険者が投棄したと思しき武器を持つ個体が現れる。もっとも、手入れなんて概念のないだろう奴らの持っている武器は傷みが激しく、加えてそれを粗雑に扱うものだから耐久値も心許ない。

 とは言え現状ではそんなナマクラでもあるのとないのでだいぶ違う。何よりこの直後、どうしても必要な用事がある。


 ゴブリン程度奇襲で首をねるのは容易いが、今回は敢えて敵の眼前に出て先手を煽る。


 「グギャア!!」


 愚直にもナマクラを掲げてこちらに疾駆するゴブリン。

 見慣れた雑魚の見慣れたモーションなのに、一手間違えればあのナマクラが俺の命を奪い得るのか……と寒気が走る。

 

 だが生憎、今この命はゴブリン如きにくれてやるほど安くはない。


 振り下ろされたナマクラに向けて絶妙な角度で木の枝を当てる。正しい手順で当てれば木の枝であってもミスリル製の剣をも弾く――

 

 初級剣術 漆ノ型【受太刀】


 剣術の中で数少ない受けのスキル。

 ただ受けるだけでは木の枝など装備の性能差ですぐに折られてしまうが、角度、速度、タイミングを合わせてクリティカルで受けに行けば


 ガキィ


 恐らく単純なステータスでは今の俺より強いであろうゴブリンも貧弱な俺如きに弾かれて尻餅をつく。

 

 単純な防御スキルではあるが、このように洗練された受太刀は強化防御の一手となり、盾術で言うカウンターパリィのような効果が上乗せされる。

 上位の受けスキルであれば反撃効果も出るが、受太刀では渾身・会心を併せた一撃でもせいぜい軽微なダウンを取れるくらいだ。

 だがこの一手で一閃と同様に受太刀の熟練度を10まで上げられる。初級とはいえ各個スキルの熟練度がステータスに与える影響は無視できない。

 さらに相手にダメージを与えない受太刀では攻撃判定は出ないので


 ザッ


 と、そのまま尻餅をついたゴブリンを渾身・会心の逆袈裟、受太刀と同時に習得した初級剣術 弐ノ型【爪薙ぎ】で上向きに薙ぐ。

 

 ダウン補正で無防備となったゴブリンの急所を絶妙なタイミングで薙いだ一撃は当然クリティカル。補助エフェクト三拍子達成。

 初期ステータスに木の枝装備では武器持ちゴブリン相手に数手程度手こずるものだが、この条件では辛うじて一撃必殺。木の枝がゲーム通りに使えるのかという心配はあったが、NSV的なスキル判定は生きているようだ。

 

 ――ゴブリン(Lv.4 武器持ち) を討伐しました

   経験値 24 を獲得しました

   レベル 2 になりました

    各種ステータスが上昇します

   レベル 3 になりました

    各種ステータスが上昇します


 ――初級剣術 漆ノ型【受太刀】 の熟練度が10になりました

   初級剣術 弐ノ型【爪薙ぎ】 の熟練度が10になりました

   初級剣術 の熟練度が5になりました

   初級剣術 玖ノ型【返し斬り】 を習得しました

   中級剣術 壱ノ型【飛燕】 を習得しました


 ――ゴブリンの魔石 を拾いました

   使い古した片手剣 を拾いました


 お、クリティカル一撃ボーナスでちょうどレベル2つ分の経験値が足りたようだ。

 初剣弐、漆それぞれの熟練度も極め、新たなスキルも二つ。さらにナマクラとは言え片手剣まで手に入れた。


 さて、レベルアップでのステータス上昇は……


 HP:70/70 MP:100/100 SP:70/70

 STR:56 VIT:42 INT:24 AGI:44 DEX:60


 おぉ、まぁまぁまともに上昇しているようだ。消耗した数値もレベルアップで回復している。

 体力作りについては……この世界では体力がどういう機序で反映をされるのか分からないが、とりあえず真っ当な戦闘に差し支えない程度には鍛えておきたい。


 というわけで捜し歩いた甲斐あって運良く一匹目から武器持ちを狩れたことだし、ここは一旦人里に向かうのを優先しよう。



 ………



>Quest Tutorial-2(EX)



 里を囲む申し訳程度の木柵、その入り口に立った看板にヘンテコなフォントで書かれた『トリファ』の文字。……フォントがヘンテコなのはさておき一応表記はNSV同様日本語のようだ。

 

 はじまりの森もトリファの方面ではスライムやゴブリン程度の雑魚しか出ない長閑のどかなエリアなので、このトリファには初心者が立ち寄るのに最低限の施設しかない。故にトリファは勝手の分かる初心者であれば飛ばしても問題ないスポットではある。

 が、初期の旅をより安全に進めるためにこの里では外せない用事がある。

 

 里の外れの方には石造りの所々がひび割れてつたやコケが生えた建物。この辺りの少ない人口では手入れが行き届かないのも致し方ない。

 真っ先に立ち寄ったのはNSVのありとあらゆるエリアに申し訳程度に建っているこの教会だ。


 目的はズバリ回復手段。

 回復系のスキルの大抵は習得するのに何故だか宗教が絡む。

 NSVの世界観では大きく和洋二系統の宗教体系があり、和が気功、洋が回復魔法をそれぞれ司っている。気功・魔法とも上級スキルの習得には通常和洋それぞれ一部の特殊な宗教施設で修行など特別なトリガーが必要となる。

 一応世界観上は体系が別になってはいるが、和洋それぞれのルーツ……つまり信仰元が同じという理由で、実は初級に限り和洋問わずどこの宗教施設でも気功・回復魔法の両方を習得することができる。


 そういえばこの奇妙な体験にはこの世界の神のような何者かが関わっているのだろうか?

 もしそうならこの機に神託の一つでも与えてほしいものだが……いや、思いがけない使命とか申し付けられても面倒だな。



 さておき、回復スキルの習得では特定の装備を身に着けた上で規定の作法で礼拝する必要がある。

 ゴブリンから奪った片手剣を装備している俺の場合は


 ――気功術 【集気】 を習得しました


 自己回復スキル 集気

 本職の回復魔法に比べれば回復量もクールタイムも微妙ではあるが、攻略の前線においてなくてはならないスキルの一つ。

 この集気の習得こそが同じく近接戦闘職のマストである自己バフ系気功スキルツリー習得のトリガーでもあるので、習得しておかない手はない。



 実はキャラメイクの初段で必ずいずれか選ばなければいけない近接戦闘職か遠距離職かの選択により、チュートリアル初戦に拾う木の枝の長さが微妙に違う。

 近接戦闘職の場合、長剣判定の出る長さの木の枝を拾ってここで気功術を習得するのが一般的な流れだ。

 つまり、本来俺はわざわざ危険を冒してまでゴブリンから武器を奪う必要はなかったが、ここに来るまでにナマクラでも拾っておきたかった理由はの方だ。

 


 バキッ

 


 最初に拾った木の枝をその場でへし折り、短杖サイズになったそれを装備して礼拝しなおす。


 ――初級回復魔法 【ヒール】 を習得しました。


 木の枝は長さ次第では杖系の装備として認識されることもある。

 短杖は生産スキルの付与系統で正規の手順で紋を刻んだものでなければ魔法に補正が働かない。魔法の発動自体は杖がなくてもできるので、装備するだけ無駄の文字通りポンコツだが、恐らく形がそれっぽいというだけの理由でチュートリアル初戦で拾わされる。そして何故か何の役にも立たない木の枝を拾った途端、何だか閃いて初級魔法が一つだけ使えるようになる。なんじゃそりゃ。

 ただ、装備判定だけはしっかりと出るので、トリファの教会の時点で二種の回復系スキルを習得する際に限り有用な即興杖となる。ちなみにトリファの食堂や露店では売っていないが鶏の脚揚げの骨もポンコツ杖として使えたりする。

 木の枝は折ってしまえば剣術用に使えなくなるので、代わりの武器をゴブリンから調達したかったというわけだ。


 そして


 ――光属性生活初級魔法 【閃光】を習得しました。


 魔法と言っても生活とカテゴライズされている通り、この魔法は杖先を照らすくらいのただの発光スキルだ。一応闇属性の一部の魔物にはダメージを与えられるが、洞窟など暗所を照らすくらいしか現実的には使い道がない。

 

 さて、スキルは無事授かれたが神託の類は与えられなかった。

 まぁよく分からない事態によく分からないものに縋っても仕方ない。今はとりあえずこの見覚えのある世界を覚えている限り着実に進んでいくとしよう。



※ ※ ※


ゴブリンの魔石

使い古した片手剣


初級剣術(5)

初級剣術 漆ノ型【受太刀】

初級剣術 弐ノ型【爪薙ぎ】

初級剣術 玖ノ型【返し斬り】

中級剣術 壱ノ型【飛燕】

気功術 【集気】

初級回復魔法 【ヒール】

光属性生活初級魔法 【閃光】


※ ※ ※


お読みいただきありがとうございます。

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