02
まあ、結論から言えば、僕は手加減を間違えたんだと思う。現代において、魔術師がどのくらいの力で戦えば、『普通』なのかが分からなかったのだ。
僕は今から五百年程度前に生きていた魔術師だ。当時はかなり有名だった魔術師一族の生まれで、誰が当主になるかのお家騒動に巻き込まれ、つい最近まで古代魔術で眠っていたのだ。だから、ルネイルに「古語訛りがうざい」と指摘されても、古代魔術を学び知ったかぶって使っているのではなく、僕が眠る前からの話し方なので、いまさら直しようがない。
起きたら五百年後、というのには流石にびっくりしたが、僕の行動をしばりつけていた両親も、僕の命を狙った兄弟姉妹も、僕のことを知っている奴らも、一人残らず土の下ということに気が付き、自由に生活することにした。
五百年前は、「冒険者だなんて、不安定で野蛮な職業に就くのは許しません」と母親から禁じられていたが、今はそんなことを守らなきゃいけない理由なんてない。
とはいえ、古代魔術のいくつかは失われた魔術としてどんな魔術かざっくりとしか伝わっていないようだったし、大半が扱えるものが限られている大魔術として扱われているようで、かつてのように、考えなしで魔術を使うことは出来なかった。
そんな古代魔術を簡単に、ほいほい使えることがバレたら、普通の冒険者なんて出来ないと思ったのだ。
だからこそ、初歩中の初歩の魔術を使い、僕の一族からすれば五歳くらいの実力を装って冒険者としてやってきたのだが。
流石に手を抜きすぎて、追放される羽目になってしまった。
後悔しても、もう遅い。
本当なら、今大魔術として伝わっている魔術は全て使いこなせるし、なんなら『失われた魔術』とすら言われている古代魔術も普通に使える。
――まあ、こうして失敗してしまうことも、ごく、まれに、あるのだが。
「うーむ、変なとこに出てしまったの……。どこじゃ、ここは」
今では大魔術と言われている、古代魔術の《記録転移(レコード・テレポート)》という、一度訪れたことのある場所に瞬間移動する魔術のはずだったが、見覚えがない森に出てきてしまった。
本来ならば「ここに行きたい」と強く願って使う魔術なのだが、先ほどはどこでもいいから違う場所に行きたい、と思いながら発動させた。その場合、術者がよく行く場所のうち、五か所くらいからランダムで選ばれる。
なので、おそらくは僕がかつてよく行った場所だとは思うのだが……。
「五百年で随分変わるもんじゃのお」
あたりはずっと、森が広がっている。探索して、どの森か推測するのでもよかったが、下手に動き回って遭難でもしたら困る。
パーティーメンバーと……元・パーティーメンバーと最後に食事をした街から、国二つか三つ分離れたところに、行ったことのない場所でも転移出来る《新規転移(ニュー・テレポート)》でもするか、と思ったとき。
「……なんじゃ、あれ」
僕は茂みに倒れ込む、一人の少女を見つけた。
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