第94話<グレンとベン>


まだ魔王グレン・ルーファスが、魔王と呼ばれていなかった頃。


幼き頃のグレン・ルーファスは、只の人間だった。


グレンの父親は魔法学校の教師で、二属性持ち。


魔法騎士をしていた事も在り、生徒からの尊敬は高く。

当然、息子であるグレンの魔法能力も期待されていた。


だがグレンは、まだ能力に目覚めてはおらず。


特別なスキルや魔法を使えるでは無くても、家族は暖かく能力が開花する日を見守っていた。


「早いぞ、待て~ベン」


愛犬を追いかけ、笑顔で川沿いを駆けるグレン。


羨望の眼差しを向ける人間と居るよりも、愛犬ベンと居る方が楽しく。


其れはグレンが少年になっても変わらず、其の頃ベンは老犬となっていた。


「今日も川原に行こうかベン」


ベンは健気に尻尾を振りグレンの後を歩くが、ヨタヨタと力を無くし。


其れは日増しに明白で、数日後には川原に行く事も出来なくなってしまった。


其の日から、グレンはベンと一緒に寝るようになり。


水を飲ませたり、布団をかけたりと甲斐甲斐しく世話をするのだが、グレンの両親は諦めていた。


「ベンも歳だから長くないんだろう、もう数日持つか解らないな…… 」


「ベンが居なくなってしまうと、あの子が心配だわ…… 」


そんな風にグレンの両親は心配していたが、翌日ベンの容態は劇的に変わり。


「川原に行くぞベン、走れ」


グレンの言葉に応える様に、ベンは昔と同じようにグレンと走り川原を駆け回る。


「不思議だ、こんな事があるんだな…… 」


「奇蹟だわ、きっとグレンの願いが神様に届いたのよ」


グレンの両親は驚いていたが、実際にベンは駆け回っていたので疑いようもなく。


理を越えた、奇蹟を信じるしかなかった。


だが両親が安心出来ていたのも数日。


グレンと元気に駆け回るベンの姿に、異変が起き始める。


少しずつ身体中がただれて崩れていき、酷い箇所では内部の骨が見えだしている。


「コレは、何か病気に掛かってしまったのか…… 」


両親は慌てて町を周りベンの治療をしてもらうが、回復魔法ですら治らず。


原因不明のまま、ベンの容態は悪化していく。


グレンと走り回る元気さを保ちながら、日増しに見た目だけがおぞましく。


アレは呪いだ、病気だと囁かれ、周囲に不安を撒き散らし。


気味悪がられ疎まれながらも、どうする事も出来ない。


そんな日が続き、とうとうベンの姿は骨だけになり。

其れでもグレンの言う通りに、ベンは喜び駆け回る。


そうなった時に、両親は理解するのだった。


待ちに待った息子の能力が、死霊使いだった事に。

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