第62話<ざわめき>

「罪人だから引き摺られてたんじゃね」




ギャハハと背後に響く笑い声も、どうやら再会に浸るルミニー達は気付いていない。




一通り再会の会話が落ち着いた頃、やっとルミニーが本題を切り出す。




「そうだ、登録手続きしてやってよ」




こうしてカウンター前に出た俺は、やっと好奇な視線から解放された。




カウンターの女性職員に手続きを確認すると、女性職員は一変して事務処理的な説明を始める。




女性職員の説明では。


冒険者ランクはEから始まり、同ランクの依頼しか請けられない。(一部特例有)


ランク昇格は試験も在るが、実力次第で場合による。


請けた依頼を何度も失敗した場合は、ランクの降格・罰金が在るという内容だった。




「其れでは石板の上に手をかざして下さい」


女性職員に促され、俺は石板に両手をかざす。




「コレってユニークスキル・擬態……? 。職種・なんちゃって魔王……? 」




訝しげに職員は俺の顔を見つめ呟く。




マズイぞ。


職業やスキルがバレるなんて、予想していなかった。




とにかく誤魔化さなければ、ギルド内に居る全員と戦闘に為りかねない。




だが焦れば焦る程、口は開かず言葉が出てこない。




「そっとしといてやんな、マオーって名前なんだよ」




さりげなくルミニーが助け船を出してくれた事で、本当は無い事情を職員は察してくれようとしている。




助かった。


ルミニー以外の相手なら簡単に負けはしないかもしれないが、そんな事になればエミリともお別れになってしまうだろう。




だが背後で騒ぎ続ける奴らには、そんな同情も無く。




「擬態って魔物のスキルじゃなかったか」




「盗賊だからイレギュラースキルなんじゃね」




盗賊じゃねーよ。魔王だぞ。


なんちゃってでは在るけど、さっき職員が言ってただろうが。




ギルドで登録しようとしている時点で、盗賊じゃないのは解りそうなものだが。




もう笑い話になるなら、何でも有りって感じだ。




「失礼しました、こちらのカードを御受け取り下さい。取り敢えず冒険者で登録完了です」




バカ騒ぎを察した職員はさりげなく一礼して、ギルドの会員カードを俺に手渡す。




取り敢えずって、冒険者は固有名詞で正式な職業じゃないのか。




だが今は、そんな事どうでも良い。




ルミニーとコイツらのバカ騒ぎのお陰で、何とか危機を乗り切ったのだから。




「ついでに買い取りもしてほしいのだが……」




ガオンが倒したミノタウロスの角を差し出すと、再びギルド内でざわめきが起きる。




「ミノタウロスの角って、あんなの倒せる訳が……」




実に良い反応だ。




こんな事も在ろうかと、残しておいて正解だった。




なんちゃってでも魔王なのだから、群衆のざわめきはこうでないといけない。


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