第41話<一対一>

大量の栄養を得て進化した紅いキラーアントは、通常のキラーアントよりも大きく。




もうキラーアントとは別の種族だと云える、だが番いが存在しないのだから種族の繁栄は無く。




他の生物にとっては殺戮しか生まない、災害の発生だと云えるだろう。




そんな誰も遭遇した事の無い災害を前にして、魔王一行は同様に驚き固まっていた。






此れが貫禄というものだろうか。


紅いキラーアントが座る佇まいはまるで王座の様で、其の椅子が残骸の山だと感じさせない。




そんな事を考えていると高らかな笑い声が響き、紅いキラーアントが喋り始める。




「チョウド良い時に飯が来たな、コレは食べ飽きたトコロダ……」




そう言って紅いキラーアントは食べていた仲間の腕を床に放り捨て、残骸から飛び降りる。




キラーアントが喋った事に驚いたが、現状それどころではない。




俺達の事を食い物位にしか思っていないだろう発言からして、交渉の余地は無く。




皆殺しにしたのであろう残骸の数から考えても、此の紅いキラーアントが異常に強い事を証明している。




「滅茶苦茶強そうですけど、魔王樣どうしますか……」




ゴブリンも危険度を感じとったのか、声が恐怖で震えている。




広場には通路が一本在ったが、其処を通るには紅いキラーアントをどうにかしないといけなかった。




「ガハハ、やっと強そうな奴が出てきたぞ。魔王樣お任せ下さい」




そんな中ガオンだけは嬉しそうに笑い声を上げ、紅いキラーアントに向かっていく。




先手を打つガオンの振り回す大斧は紅いキラーアントに避けられ、二体は片手を組み合い押し合いとなる。




押し合う力は互角で、両者の位置は変わらない。




ガオンが片腕で振った大斧は、紅いキラーアントの片腕で防がれ実力は均衡している。




他のキラーアントなら今の一撃で弾け飛び撃滅しているだろうが、紅いキラーアントは平然と戦闘を続け。




立ち入る事の出来ない接戦に、他の者は見守る事しか出来なかった。




そんな状況が変わったのは、紅いキラーアントの放った一言。




「一番旨そうなのはオマエだな」




そう言って、狙い見た先の相手はエミリだった。




一対一なんて約束が在る訳ではないから、想定しておくべきだったのだが遅すぎた。




慌てて俺はエミリの前に立ち、二足跳びでガオンを通り抜けたキラーアントが目の前に迫る。




ヤバい。


そう思った瞬間には俺の胸元を、紅いキラーアントの右腕が貫く。




スキルを使う間なんて全く無かった。




コレは確実に死んだな。


エミリはどうなってしまうのだろうか、そんな事を思いながら俺の意識は消えていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る