第37話<完璧な布陣>

朝から寝室のドアをノックする音が響く。




偽者とはいえ、わざわざ魔王を起こしに来るとは勇気の在る奴だ。




ドアを開けると、ウスロスが白々しく頭を下げる。




「参謀として重要な報告が在るのですが宜しいでしょうか」




もう相手がコイツという時点で嫌な予感しかしない。




「どうしたんだ?」




「実は城の近くでダンジョンを発見しましたので、至急報告せねばと思いまして……」




まだ怪しい感じはするが一応詳しく聞いてみると、どうやら城近くの岩場に洞穴が有り。




其の洞穴から奥に行くと穴が続いていて、ダンジョンになっているという事らしい。




中には蟻の魔物が居るらしいが大した強さではないので、宝が在る可能性を考えると行ってみる価値は有るとの事だ。




確かにダンジョンと云えば貴重な宝のイメージが強いが、どうやら異世界での認識も同じらしい。


そう考えると行かない訳がない。




出るという蟻はおそらく昨日倒したキラーアントだから大丈夫だろうけど、一応安全の為にガオンとゴブリンを連れて行こう。




問題はコイツとネズだ。




ネズの方は隙が在れば俺に噛み付きそうだから、連れて行く事は出来ない。




なので使役出来そうな骸骨でも探していてもらうとしよう。


見付けた骸骨にむしゃぶりついていそうだが、其れは役得で丁度良いだろう。




ウスロスは無理矢理理由を付けて留守番させるにしても、エミリに何をするか解らない。




そうなるとエミリとトウも一緒に行くしかないが、まだ守れる程に強くなったとは言い難く不安は残る。




だがウスロスと居るよりは安全だろうから、やはり連れて行くしかない。




「ウスロスは城を守っていてくれ、ダンジョンには我が出向くとしよう」




俺が行くと聞いてウスロスが笑ったような気がするが、もう気にしたら負けだ。




予定通りガオン・ゴブリン・エミリ・トウに声を掛け、ダンジョンに向かい出発する。




ウスロスに聞いた場所の洞穴に着くと、まるで門番のように五匹居たキラーアントはガオンに横振りの一撃で瞬殺されている。




倒せと指示する暇も無かったが、ここ迄は予定通り現時点での完璧な布陣だ。




「罠が有るかも知れんからな、念の為骸骨兵に偵察させよう」




そう言って洞穴の前で全員を待機させ骸骨兵を突入させたが、ガオンは不満そうにアクビをし始めている。




骸骨兵の帰りを待ったまま数十分が過ぎようとした頃には、ガオンは大きなイビキをかいて眠っていた。




完璧な布陣のはずだったが、予定外の状況だ。




一番強い、お前が寝るなよ。


もしも強い魔物が出たらどうすんだよ。


他に戦う奴ゴブリンと俺しか居ね-じゃねーか。




俺の心の叫びは届かず、ガオンは眠ったままだ。




もう他に出来る事と云えば、強い魔物が出ないように祈るだけだった。

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