第34話<代償>

幼少期のルミニーは活発では在ったが決して攻撃的な人間ではなかった。




町外れの森近くに住んでいたその頃。




父親の職業は木こりで、母親と家で父親の帰りを待つ一般的な家庭であり。




森に詳しい父から生活費に為る薬草や、危険な魔物の種類を教えてもらいルミニーは育っていった。




「ルミニーもしも魔物に襲われたら父さんが命懸けで守ってやるからな」




いつも父親はそう言っていたが、魔物の出没が少ない此の町でそんな事が起きるなんて家族の誰も思ってはいなかった。




そんな平和な生活が一変したのは在る日の夜。




眠ろうと家族がベッドに入った頃、いつもなら静かな森から地響きが近付いて来て家の前で止まった。




魔物が出没したのは間違いなく、家の中に隠れる様な場所なんて無かった。




「・・・・・・誰かが助けを呼んできてくれるはずだ」




そう言って古びた剣を持つ父親を先頭に家族は身構え、外ではドアを削るような音が鳴り続けている。




一際大きな衝撃音と同時に、剥がれたドアの隙間から魔物の爪が姿を表し。




数分経たずに魔物はドアを壁ごと引き剥がし、空いた壁の穴から無理矢理家に入り込んだ。




二メートルは有ろう熊の姿をした魔物は、中央のテーブルを叩き潰し。




巨体の両肩を窮屈そうに揺らしながら、身構える家族に近付いていく。




突き刺しにいった父親の剣は魔物の片手で弾かれ、更に降り下ろされた片手で並んでいた家族毎吹き飛ばされる。




震えるルミニーに母親は覆い被さったまま気を失い、魔物は倒れた父親と母親を食らい始め。




覆い被さる両親に依り偶然にも身を潜めた状態のルミニーは、亡くした両親の血を被りながらも生存していた。




だが魔物が両親を食べ終わればルミニーも襲われるのは間違いなく、其れは時間の問題だった。




「大丈夫か!」




其の時、近所の知らせで駆け付けたA級冒険者二人が家に入って来て声を掛ける。


だが血だらけになった室内の惨状を見て、間に合わなかった事に気付く。




気を取り直し冒険者が剣を構え向き合うと、応戦しようと魔物が立ち上がり戦闘が始まる。




寸での所で助かったルミニーは被さる両親から這い出て、遺体となった両親を眺め。




絶望や哀しみと同時に沸き上がった怒りに呼応する様に、目の前には父親が持っていた剣が落ちている。




剣を拾ったルミニーは、冒険者と向かい合い隙だらけな魔物の背中向かって駆け出し一突きした。




だが魔物の体皮は固く、傷を付ける事は出来たが致命傷には至っていない。




雄叫びを上げ振り返った魔物はルミニーを弾き飛ばし、其の隙を突いた冒険者の一撃で魔物は倒れ。




両親二人の死亡という被害者を出し、勝利を喜べないまま闘いは終わったのだった。




不意討ちでもA級が苦戦した魔物に傷を負わせた事実がパーティ認識され、ルミニー経験値となり。




何もなく普通に生きていれば達する事の出来ないLVに、ルミニーは踏み入れる事と為ったのである。

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