第32話<ギャンブルの結果>

所変わり。


ルミニーとルドエルとリジョンの三人は、魔王を倒した事を先に伝書で送り。


一行は街に戻って来たのだが、街道に迎える人も無く凱旋という雰囲気ではなかった。




「先に武器屋行って、このデーモンバスターが幾らになるかだけ・・・・・・」




「駄目に決まってるでしょ」


「駄目に決まってるだろ」




本気でギャンブル資金の算段を始めるルミニーだったが、リジョンとルドエルの二人は声を揃え睨みを効かす。




「・・・・・・仕方ないね、取り敢えずギルドに行くよ」




そう言って馬車を走らすルミニーは、通り過ぎる武器屋を名残惜しそうに眺めている。




このルミニーのギャンブル癖が無ければ、魔王を倒した事も疑われず街道に人が溢れていたかもしれない。




だが現実はギルドに疑惑を持たれ市民に知らされる事は無く、街道は何事も無かったかのような静けさである。




三人がギルドに着くと八名位が入れそうな応接室に通され、テーブルを挟み置かれたソファーの片方にはギルド長が座り待ち構えていた。




「其れで魔王を倒したというのは、どういう事なんだ?」




三人がソファーに座ると同時にギルド長は質問を始め、まるで取り調べのような時間が始まる。




だが疑われるのも無理は無い。


沼の近くに魔王城が在るという噂は在るが、魔王が魔物を引き連れ街に攻めて来た事は無いのだから存在自体が疑問なのである。




目的地で骸骨兵に囲まれエミリ達とはぐれ、捜索した先で魔王城を見付け。


魔王に殺してくれと頼まれ、デーモンバスターを受け取り魔王を倒した経緯を三人は説明して。




其の証拠で在るデーモンバスターを、ギルド長に手渡す。




ルミニーがランク以上の実力を持っているのはギルド長も把握していたが、にわかには信じがたい内容だった。




一撃で倒したというのも疑われる理由の一つだが、其れはルミニー達自身も気掛かりではあった。




実際は魔王が死にやすいように、即死カウンター魔法の代償で自身のHPをわざと減らしていたからである。




そんな事を三人が知る由も無く、疑問になるのも当然ではあった。




だが手渡されたデーモンバスターは簡単に手に入る代物ではなく、其の話しを信じさせるには充分な証拠であった。




「話しは解った。ギルドとしても調査無しでは上に報告出来んので、明日もう一度行ってもらう事になるぞ」




「はいはい、仕方ないね」




面倒臭そうにルミニーが返事をして、三人は取り調べのような応接室から開放されたのだった。




もしもルミニーの云う通り先にデーモンバスターを売っていれば、証拠すら無かったので話し合いはもっと長引いていただろう。




だが当の本人は呑気に口笛を吹き、そんな事を気にしている素振りも無く。




「それでは武器屋に向かいますか~」と反省の欠片も無い。




「絶対駄目!」




リジョンとルドエルの二人は声を揃え、ルミニーを黙らせる。




二人がこれ程に否定するのも無理はない。




ルミニーが運良くギャンブルに勝てたとしても、ギャンブルの投資額が増えるだけで結果何も残らないのだ。




其れに普通に冒険していたら二度と手に入らない逸品で、チームの底上げには絶対必要なのである。




「それよりも其の剣、皆が観てるんじゃないか」




ルドエルの一言でルミニーが通り過ぎる人を見渡すと、自分達よりも上級の冒険者迄もルミニーの持つ剣を羨ましそうに振り返り見ている。




「どうするんだ? 売ってしまうのか」




「・・・・・・まだ良いか、明日の準備も在るしね」




思い止まり誤魔化すルミニーを見て、リジョンとルドエルの二人は顔を見合わせ笑っていた。


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