第30話<親バカ>

エミリが髪を整え終えようとする頃、寝室のドアをノックする音が響く。




ドアを開けると疲れきった顔のゴブリンが立っていて。


云われるがまま俺達は魔王の居る部屋に向う。




ずっと働いていたのか今にも死にそうな表情のゴブリンを見ると、自分の心配は確信に変わる。




やはり怪しい。


牢屋に居た方がマシだと思える位に、自分達も今日から濃き使われるかもしれない。




娘を守りたいがあまりに自分は判断を間違えたのか、そんな考えが頭を過る。




移動を終えると魔王はすでに座って待っていたが、何やら立ち並ぶ昨日と同じ顔ぶれに一体魔物が増えている。




魔王という位なのだから、自分が知らないだけで他にも配下の魔物が沢山居るのだろう。




静かに魔王の発言を待っていると「改革だ。我は考えたのだが、今日から配下の役職を決めようと思う」と以外な事を言い始め、一部の配下が歓声を上げている。




俺達は仲間という話しだから関係無いよな、なんて通用しなさそうな空気だ。




城の防衛隊長ガオン。防衛隊はゴブリン。壊れた城の補修と防衛。




ネズが秘書。




ウスロスが参謀。




まるで中小企業の取り決めのように、次々と魔物達の役職が決まっていく。




其れにしても配下が少なくないか?新人を集めたのだろうか。




其れに他の魔物達はなんとなく理解出来る役職だが、自分達がどう云われるか想像も付かない。




居る者全員に順番通りなら、いよいよ自分達の番である。




人間と戦うような役職でなければ良いが、そんな事を考えていると魔王が口を開く。




「次はエミリだが我の食事を作ってもらおう。人間の食に興味が有るのでな。トウはエミリの護衛だ。此処は人間が住むには危ないからな」




「解りました」




料理だと聞き安心したのか、エミリは笑顔で頭を下げている。




自分も「了解した」と頭を下げるが、其れと同時にウスロスがニヤついた顔で喋りだす。




「クク、其れは妙ですな。人間の食べ物に興味ですか・・・・・・」




言われてみれば確かに疑問ではある。


どう観ても骸骨の魔王が、人間の食事を食べるとは思えない。




「改革だからだ!!」




「なるほど・・・・・・、流石は魔王樣」




なるほどの意味は解らないが、どうやら骸骨でも食べる身体の仕組みなのだろう。




骸骨が食べ飲み込む不思議な姿を想像していると、魔王は思い出したように再び口を開く。




「料理の材料は我が調達するので、必要な物が在ったら言ってくれ」




優し過ぎるのが反って怖いのか、魔王の言葉にエミリは愛想笑いを反している。




其れにしても仲間という約束が効いているのか、護衛役とは厚遇過ぎではないだろうか。




きっと食料は配下に任せず、自分で選び抜いた食材にしたいという事なのだろうが。




材料迄魔王が調達してくれるとは、他の配下に恨まれそうで心配である。




今にも倒れそうにふらつくゴブリンを見てると、そう思ってしまう。




其れにしても想像していた魔王とは随分違うものである。


まともに会話も出来るから、見た目以外はまるで人間みたいだ。




魔王といっても今のところ悪い奴ではなさそうだが、やたらエミリの事を観ているのだけが気になる。




まさか骸骨の癖に人間のエミリを狙っているなんて事は、流石に考えすぎか。


気のせいだろう。




娘が幾つになっても可愛いのだから、自分は相変わらず親バカのままである。

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