Episode-Sub1-17 一件落着しても未来に平穏が待っているとは限らない

「……ありがとう。お前のおかげで、俺は生まれ変われた」 


 シスターに言われた通り、満足いくまで裸でぶつかり合ったらサイラスが改心していた。


 なにが起きたのかよくわかっていないが、終わり良ければ総て良し!


 清々しい笑顔で握手を求めてきたので応えてやると、奴は嬉しそうに笑う。


「これから俺は自分の罪を償おうと思う」


「そうか」


「そして、俺と同じ苦しみを持つ者のために裸でぶつかり合うよ」


「……そうか」


 ――という形で、この一件は幕引きとなった。


 サイラスはフレア様によって件の人物のもとへ連れていかれるそうだ。


 当の本人は鍛えていただけると喜んでいたので問題ないだろう。


「さすがライラでしたね。お見事な導きでした」


「ええ、民草に愛されるシスターの名は伊達じゃありませんでしたね!」


「えへへ……それほどでも……」


「ねぇねぇ、シスターさん。今度、私の相談にも乗ってよ!」


「マイリィ団長さんはちょっと……」


「なんで!?」


 我が家からみんなの楽し気な声が聞こえてくる。


 喧騒を背に俺とウルハは少し離れたところで座っていた。


「ウルハの結婚話解消を祝して」


「「乾杯っ」」


 チンとグラスをぶつける。


 普段は非常事態に備えて飲まない酒だが、一仕事した後だと美味しいな。


「ふふっ、おかしいよね。結婚の話がなくなったのにお祝いだなんて」


「だな。ここまでうまくいくとは思ってなかったけど」


「そこはシスター様々だね」


 サイラスが改心するなんて想定外だ。


 裸でのぶつかり合いか……。


 やはり気持ちいい汗を流したら、心まで浄化されるのだろうか。


 今後ももしかしたら使えるかもしれないな。


「しかし、これでわざわざ王都に来る必要はなくなったわけだが……どうする? ここに残るか?」


「もう。なんでそんな意地悪言うのかな」


 プク~っと頬を膨らませて抗議の視線を送ってくる。


 あまりに膨らんでいたので突いてやった。


 プシュっと空気が漏れる変な音がして、顔を見合わせてケラケラと笑う。


 子供の頃に戻った、そんな懐かしい気分。


「それにしてもルルくん、すごく強くなってたね。全然びくともしてなかった」


「そりゃ普段は戦う相手が魔物だからな。あれぐらい軽くいなさないと副団長なんて務まらないさ」


「おー、カチカチだぁ」


 力こぶを作ってやると、ウルハは「ほへ~」と面白そうに触りだす。


「カッチカチだね」


「自慢の肉体だ」


「実は私も鍛えてたんだよね」


「へぇ。畑の手伝いとかで?」


「ううん、ルルくんを落とすためにここを」


 そう言ってウルハは自分の胸を掴むと、ぎゅっと持ち上げる。


 寄せられて、ぽよんと形を歪めるたわわなおっぱい。


「ぶふっ!?」


「あ~、動揺してる~」


「あ、当たり前だろ! そんなことするんじゃない!」


「チラチラ見ても説得力ないよー。ルルくん、昔からむっつりスケベだよね~」


「ウ、ウルハの勘違いだろ」


「……女の子は結構胸への視線に敏感だから気を付けた方がいいよ?」


「そ、そんなに……?」


 しかし、俺は胸への視線にはかなり気を遣っている。


 ……もしかして禁欲のあまり、無意識におっぱいを見ていた?


 だとしたら、団長やシスターにもバレているんじゃ……お、終わりだ。


 内心で乳チラ見ルーガなんてあだ名を付けられてたら泣く自信しかない。


「あははっ。大丈夫だと思うよ。私以外にはちゃんと毅然と対応してたから」


「ほ、本当か!?」


「うん。多分、私は幼馴染だから知らない間に緊張が解けてるんじゃないかな」


 ウルハの推測を聞いて、ホッと胸をなでおろす。


「わ、悪い。ジロジロ見られるのは嫌だっただろ?」


「ううん。むしろ、私的には嬉しいことなんだよね。他のみんなより一歩リードしてるってことだから」


 ウルハが腕にそっと抱き着く。


 ……確かに立派に鍛えられている。


 おっぱいセンサーが感触に大喜びしていた。


「私ね……ルルくんが好き。ルルくんのお嫁さんになりたい。だから、ルルくんのあの話・・・……乗っかってもいいよね?」


「……おじさんとおばさんと、ちゃんと話し合うんだぞ」


「わかってる! これからは私もガンガン攻めちゃうんだからね」


「いや、ウルハなら安心できるよ」


「そんなこと言ってるとベッドに行って襲っちゃうぞ~?」


「ははっ、慣れてるよ」


「その返しはおかしくない?」


 それからお互いがいなかった時期に起きたたわいもないことを語り合った。


 ウルハとこうして思い出話に花を咲かせるのは少しばかりお預けだけどこれからはこ

 んな時間をいくらでも作れる。


 そして、それは彼女だけじゃない。


 他のみんなとも。俺が提案した案には、そういう時間を作ってお互いをもっと深く知る意味もあるから。


 瞼を閉じれば思い浮かぶリオン団長、マドカ。カルラさんも来てくれるのかな……みんなで笑い合う光景。


 そんな未来を待ち遠しいと思うのであった。

 



     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 あれから短くない時間が経った。


 本当にいろんなことがあった。


 第五番団団長として慣れない職務。腐敗していた街の治安の整備。


 俺から望んで始めた――リオン団長たちとの同棲生活・・・・


 公私ともに新生活はめまぐるしい早さで過ぎていく。


 そして今――俺たちは砂漠を突っ走って、リオン団長たち第六番団のみんなから逃げていた。






「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 気迫のこもった叫び声が快晴のもと、響き渡る。


 俺は過去最速記録をたたき出す速さで駆け抜けていた。


 なぜならば、後ろから追いかけてくるみんなに捕まったら命の終わりを悟ったから。


「ルーガくん! 待ってぇぇぇぇ!」


「先輩! 安心してください! すぐ気持ちよくなりますよ!」


「ルーガ団長~! ムラムラしていたのは私たちも同じですわ! 我慢していた分、ヤらせていただきますわよ~!」


「大丈夫! 一瞬! 先っちょだけで終わりますから!」


 それ男側のセリフじゃない!?


 くそっ……! どうしてこうなってしまったんだ……!?


「おい変態団長・・! お前が犠牲になったら私たちは助かるんだ! 生贄になってこい! 裸になるのは得意だろ!」


「つれないこと言うなよ、暗殺者カノンちゃん! 俺たち一蓮托生の聖騎士隊の仲間じゃないか!」


「はぁ!? 勝手にお前が入団させただけでって、おい! 掴むな! 抱きかかえるな!」


「あっ、カノンさんズルい! ボクも抱っこして、先輩!」


「アホミツリ! そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」


「え~、カルラ副団長・・・、冷た~い」


 ジタバタするカノンを逃がさないように担いだ俺と並走するミツリとカルラさん。


「大丈夫! この辺りで待ってくれているはず――」


「ルーガ様! みなさまも! こちらです! はやく中へ!」


 鉄の扉を開け、俺たちに声をかける紫髪の少女。


 偶然、再会を果たした彼女は女装した屈強な男を数人引き連れて誘導してくれている。


「ミューさん!! よし、飛び込むぞ!! 舌噛むなよぉぉ!」


「うわぁぁぁっ!? やっぱりお前なんか信じるんじゃなかったぁぁ!!」


「先輩のいるところならどこまでも!」


「リオン、マドカ、みんな……絶対に後で助けに行くからな!!」


「必ず……みんなを正気に戻してみせますから!」


 全滅の未来を避けるため、俺たち――第五番団のメンバーは扉の中へと飛び込むのであった。






◇というわけで幕間は終わりです!

 第四章はルーガくんが第五番団になってからの物語となります。鋭意執筆中ですのでお楽しみに!


それと新連載始まっています!

『悪徳領主の息子になったので楽して異世界生活楽しみます~なのに『聖者』様だと崇めるのはやめてくれ!~』

https://kakuyomu.jp/works/16817139558069889100

今ちょうどおっぱい役のヒロインを攻略している最中ですので、こちらもぜひ!

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