Episode3-31 百鬼族の首長

「くそっ……! 小童がぁぁぁ……!」


 感情に任せて何度も何度も手を振り下ろす。


 ルーガ・アルディカ。奴が聖騎士隊に来てから、いいことなど一つもない。


 わしの愛する聖女フレアの心を奪うどころか、このままではわしの立ち位置まで奪いかねん。


「ここまでどんなに我慢し、奉仕してきたと思っているんじゃ……」


 一目惚れだった。


 フレアを見た時から、わしの欲望は彼女へと注がれていた。


 今まで汚してきた、どの処女よりも美しい。


 絶対に己のモノとして手に入れ、その純白の身体をむさぼりたい。


 彼女が成長を重ねるたびに大きく大きく膨れ上がっていく。


 そのためなら何でもできた。もともと闇の沼に浸かっているわしに今さら躊躇などない。


 魔族どもと手を組んだのだってそうだ。


 全ては今日という日を迎えるため。


 しかし、血は侮れんのう。


 第二番団団長としてサポート役を買って出て、懐いていると思っていたが……さすがは【剣聖】と【聖女】の血を引く子。


 邪悪な心に敏感なのか、直感が働いたのか。


 決してわしを懐に近づけまいと線引きしておったわい。


「間違いない……。フレアはわしの魂胆に気づいておる」


 でなければ、あそこまでかたくなに否定しないだろう。


 そして、アルディカも知っている。


 あいつはレクセラを倒した。そう、信じられないことに魔王軍幹部を葬ったのだ。


 それは第一番団団長のオルガしか成し遂げていない偉業といっても差し支えない。


 間違いなくいちばんの障害になる。


 その障害がフレアのお気に入りで隣にいる。


 全て。奴が全てわしの計画を妨げている事実に腹が立ってならん……!


「殺す……! あやつだけはわしの手で直々に嬲り殺す!」


「おーおー、荒れてんじゃねぇか、人間」


 耳に届くガラガラと低い声。


 まるで人間とは思えないほど高圧的で、現実として奴に赤い血は通っていない。


 紫の眼球をギョロつかせ、ガチャガチャと腰に吊るした金棒を鳴らす。


「これだから最初から俺たちだけでやっておけばよかったんだ。なぁ、兄者」


 そして、化け物は一匹だけではなかった。


 巨大な斧を肩に担ぐ怪物はニタリと嗤い、鋭くとがった牙を覗かせる。


 射し込んだ月明かりが照らしたのは、二匹の鬼。


 緑の肌と青い肌を持つ百鬼族オーガ首長ボスにして最恐の兄弟。


 兄:バルルガルクと弟:ブルルガルクが目の前にいた。


「ふん、やかましいわ! 第一、貴様らちゃんと目を忍んで入ってきたのだろうな!」


「ちゃんとてめぇとの契約通り、人間に擬態してきてやってるだろ。これで十分だ」


 人類では発展していない魔法を使っているのだろう。


 本来ならばわしがいる屋敷を簡単につぶせる図体が、一般的な男のサイズまで縮こまっている。


「ちっ……ならば構わん」


「なんだ、その口の利き方。兄者、やっぱりこいつ一回殺しておこうぜ」


「落ち着け、弟。オレたち上位者は下等生物の戯言なんか気にする必要がない」


 ブルルガルクは血気盛んですぐに暴力に走ろうとするが、バルルガルクはまだマシか。


 でなければ、わしとの協力関係など結べていない。


 こやつはこやつで強い女を見れば豹変するがの。


「わざわざ訪ねてきたということは、例の仕込みが終わったんじゃな?」


「おうよ。準備はばっちりだ。いつでも襲えるぜ」


「ようやく……ようやくじゃ……。クククッ、これで奴らは完全に終わる」


 フレアたちがわしの作戦に気づいていたのが功を奏した。


 そちらに注意を惹きつけ、もう一つの作戦には全く勘付いた様子がない。


 警備を好きなシフトで組める利点を存分に生かしたから万が一にもバレる可能性はなかったが、念には念を。


「おい、レクセラを殺した奴はオレとやらせろよ」


「わかっておる。全ては事前に決めておいた手はず通りに事を進める。あの小童に地獄を見せてやってくれい」


「ああ、今から楽しみだぜ。命のかかった戦いほどたぎるもんはねぇ」


 待ちきれぬ子供をあやすように金棒を撫でるバルルガルク。


 彼奴きゃつの実力はこの目で確認しておる。


 レクセラにはおそらく油断があったに違いない。


 その点、バルルガルクに油断はないので確実にアルディカは終わる。


 なぜなら、こいつも倒せるとなれば本当にあの男は【剣聖】の素質を持つ証明になるのじゃから。


「いいなぁ、兄者。俺もしてぇぜ」


「戦う順番は交互。それがオレたちの約束だろう、弟よ」


「ちぇ……次の奴が強いといいんだけどな。最近、物足りない奴らばかりだ」


 そりゃそうじゃろ。


 貴様らとまともにやりあえる人材がいるなら人類は困っておらぬ。


「安心しろ。この退屈もあと少しだ。作戦さえ成功すれば必ず戦争になる。そうすれば、いやでも強者たちが表舞台に出てくるだろうよ」


「そうか! さすがは兄者だ!」


 パチパチと乾いた拍手の音が部屋に響く。


 ふん、知能は底辺じゃな。所詮は化け物。


 レクセラのような奴が異常なのだ。


 普通は彼奴らのように暴力しか持ち合わせておらん。


「話が終わったなら去れ。長居は無用じゃ」


「ふん、言われなくともこんな辛気臭い部屋からは出ていく」


「さっきからガキの小便くさい匂いがひでぇからよ」


「ベッドに横たわっているものはもう使い物にならん。持って帰ってもいいぞ」


「ガハハハッ! お前の方がよっぽど魔族みたいだぜ、変態」


 ゲラゲラと嗤う鬼兄弟。


 わしの神聖な趣味が理解できんとは……バカは救いがたいのう。


「では、去るとしようか」


「明日、しっかりやれよ」


 ひとしきり笑い終えた後、彼奴らの姿は瞬く間に闇に消えていく。


 完全に姿が見えなくなったのを確認してから、指摘されたベッドへと目をやった。


 あそこで失神している女にフレアのイメージを重ねる。


 決行は明日。


 いよいよフレアがわしのものとなる。


「ぐふっ……ぐはははははっ!!」


 その快感はどれほどになるだろうか。


 長年の夢に思いを馳せながら、グラスの酒を呷った。









 ◇あとがき◇


 いよいよ本日、本作『聖騎士になったけど団長のおっぱいが凄すぎて心が清められない』が発売されます!

 Twitterとか見てたら事前に手に入れている方もいらっしゃるかもしれませんね。

 よりにもよって書籍発売日がこんな回で自分でも笑ってます。調整ミスりました。

 第三章もクライマックスへと向かっていきます!


 そして、本日は『団長のおっぱい』デーとして、たくさん楽しいお知らせをお届けできればと思っています。

 感想もどんどんお待ちしています!ハッシュタグ #団長のおっぱい #聖騎士おっぱい などで呟いてくださるとわかりやすいです(笑)


 そして、ここまで来れたのも読者の皆様がついてきてくださったからです。

 改めて、感謝を。本当にありがとうございます!

 これからもたくさん面白い小説を書いてまいりますので、ルーガたちの物語にしばらくお付き合いください。


 どうぞよろしくお願いいたします。


 木の芽

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