Episode3-26 大きいなんてズルい

 絶体絶命のピンチは今まで何度もあった。


 ミュザークとの聖己戦。団長への夢精バレ。サキュバスのおっぱい天獄。レクセラとの死闘。


 どれも限界まで追い込まれたが、なんとか乗り切ってきた。


 けれど、今回のは……リオン団長との現場バレは越えられないかもしれない。


 なぜなら、こちらを見ているマドカが完全に修羅のような面構えをしていたからだ。


「あれぇ? お二人とも……いったい何をしているんですか?」


 後ろ手にそっと閉じられる扉。


 マドカはこの光景から脅迫できる《得られる》ものを独占するつもりらしい。


 とにかくこの状態のままはマズい。


 俺は一度団長から距離を取ろうとして……ん? ふぐぐっ……うぉぉぉっ……! 


 ふぅ……。


 ……団長!?


 なぜかリオン団長は離れるどころか、さらに腕に込める力が増している。


 より密着度を高めようとしているのだ。


 おかげで俺の腰からミシミシという音が鳴り始めているが、まぁそれはいい。


 どうして団長は俺から離れてくれないのか。


「別になんでもないよ? 久しぶりにルーガくんと会えて嬉しいから抱きしめちゃっただけ」


「本当ですか? その割にはキスまでしそうな勢いでしたけど……?」


「マドカちゃんの見間違いだよ。おませさんだなぁ」


「ふふふ……」


「あはは……」


「「うふふふっ……!!」」


 怖い! 怖いよ!


 誰か助けてくれ! エロスならなんとかふんばれるけど、こういう恐怖的な耐性はまだ獲得していないんだ!


 カルラさーん!! シスター!! ミューさーん!!


 しかし、現場にこの場を治めてくれる彼女たちのような存在はいない。


 このままだと間違いなく何かが開戦されてしまう。


 わかるのだ。ヒリヒリと肌に突き刺さる二人の闘気がとにかくヤバイ状況だとガンガン警鐘を鳴らしているから。


「……ねぇ、ルーガ先輩」


「な、なんでしょう?」


「先輩は私にハグされるのは嫌なのに、団長からはあっさりと受け入れるんですね……?」


 ほら、矛先がこっちに来た!


「ち、違うぞ、マドカ。これは不意を打たれて偶然だな」


「嘘はダメですよ。先輩が気づかないわけありません」


「いやいや、それは買い被りすぎ」


「聖女様の護衛中で気を張り巡らせている先輩が接近する足音を聞き逃すわけありませんから」


 ぐあぁぁぁぁっ!?


 論破された心の中の俺が吹き飛ぶ。


 状況を逆手に取られた。何も言い返せない。


 言い返したなら、俺は真面目に護衛をやっていなかったことになる。


 断じてそれだけはありえない。聖女様に全力で応えると誓った以上、俺は常に臨戦態

 勢を保っているからだ。


「さぁ、先輩? どうしてなのか本当の理由を教えてくれますか?」


 ……言えない。


 団長とは愛棒を管理してもらえる関係で、なんだかすごくいい雰囲気だったから流されただけなんて口が裂けても言えない。


「もし何もないなら――」


「それは違うよ、マドカちゃん」


「……リオン団長」


 追い込まれた俺とマドカとの会話に割り込む団長。


 すると、彼女はすばやく背中に指で文字を書いた。


 こ、こ、は、ま、か、せ、て。


 ここは任せて……って、団長……!


 顔を上げると団長がパチリとウインクする。


 でも、ずっと抱き着いたままで解放してくれない。


 なんでだ……? 疑問を抱えながらも移り行く戦況を見守る。


「私とマドカちゃんには明確な差があるの。賢いマドカちゃんならわかるよね……?」


「明確な差……まさかっ!」


「私にはルーガくんの上司という立場が――」




「おっぱいですか!?」




「――んん?」


 予想と違うマドカの答えに団長の動きが止まる。


 もちろん俺もポカンと呆ける。


 そして、頭を抱えた。


 ちょっと待ってくれ。


 絶対ややこしい方向に話が進むやつだ、これ。


「確かに……一般的な男性はおっぱいが大きい方を好むと聞いたことがあります。ルーガ先輩もやはり抗えない……!」


「マ、マドカちゃん? ちょっと落ち着いて? 別におっぱいのサイズは関係なくて」


「今だってそうです! ルーガ先輩に抱き着いて、私に見せつけているんですよね! 私のおっぱいは抱き着いても形が変わらないのに、団長のおっぱいはこんなにも歪むんだぞということを!」


「全然違うよ!? そんな意図はないからね!?」


「じゃあ、どんな意図だっていうんですか! ……はっ、まさか……! おっぱいを押し付けることでルーガ先輩の理性を破壊しようとして……!」


「いったん落ち着こう、マドカちゃん! ほら、ルーガくんもなにか言ってあげてよ!」


「それはマドカの言う通りです」


「裏切られた!?」


 すみません、団長。


 こればっかりは嘘つけません。


 団長の特級巨乳は触れてしまえば、いともたやすく人間の理性を破壊できる代物なんです。


 例え俺のように耐性を持っていたとしても、多量摂取は禁物なんです。


 だからですね、何が言いたいかというと……そろそろ限界でして。


 昨晩の会話的にそんな下品な自分の姿は聖女様に見せられないわけでして……ははっ。


「団長……すぐに目覚めてみせるので一瞬だけ聖女様をお願いします。いざっ!」


 愛棒の電源が完全に入る前にシャットダウンした。


「ルーガくぅぅぅん!?」


「やっぱりおっぱいなんだ……世の中おっぱいですべて決まるんだ、うわぁ~ん!!」


「あぁ、マドカちゃんも泣かないで~!!」






「騒がしいと思って出てきてみたら……」




「うぅ……! 憎い……! 世の中の巨乳が憎いです……!」

「だ、大丈夫だよ! マドカちゃんもまだまだ成長期だから、これからおっきくなるよ!」

「……はっ!? 俺はいったい何を……?」




「……いったいどういう状況ですか、これは」











◇マドカのおっぱいは絶対大きくさせません◇


◇特典小説もいっぱい書きました。こちらは配布法人が決まったらまた告知させていただきます◇

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