Episode3-13 聖騎士養成学園と後輩 

 聖騎士養成学園。国内唯一の国立教育機関である。


 完全なる実力至上主義を貫き、学び舎に足を踏み入れたならそこに貴族や平民の身分の差はなくなる。


 金銭による下駄履かせも爵位による圧力も通じない。


 試験を合格できた者だけが生徒として認められている。


 故に各地から強者が数多く集まる好循環が出来上がっていた。


 そんな学園が年に一度、外部客も招いて大々的に開かれるのが【剣舞祭】だ。


 最終学年である第四学年の生徒のみが参加するトーナメント式の実力勝負。もちろん【加護】も使用可能。


 持ちうる力のすべてをぶつけるアピールの場だ。


【剣舞祭】には聖騎士隊トップに君臨する聖女様が観覧しに来る。さらには各守護騎士団の騎士団長も集結するとなれば、これ以上自分を売り込む機会はないだろう。


 すでに学園内の熱気は高まっており、競技場の準備も完了。出店の機材なども運び込まれていて、他学年の生徒たちや業者が慌ただしく駆け回っている。


 そんな中、前日入りした俺たちは学園長室にやってきていた。


 俺たちを出迎えてくれたのはグレイ・カルキア学園長。


 元守護騎士団の副団長で、怪我で隻眼になってからは学園長として腕をふるっていた。


 引退しても体型は維持しており、今日もスーツが決まっている。


 自己紹介も終えて二人は席に着き、俺やマドカ、シスターは後方に待機している。


「お久しぶりです、聖女様。お忙しいところよく来てくださいました」


「いいえ、カルキア学園長。聖女として当然の役目です。今年も優秀な聖騎士候補生の姿が見れることを楽しみにしています」


「もちろんです。とは言いましても、昨年のレベルを期待されていると難しいかもしれません。そいつは我が学園の歴史でも特別な奴でしたからね」


 そう言うと、カルキア学園長はニヤリと笑う。


 学園長には学生時代に大変お世話になった。主に対戦相手として。


「まさか【聖女近衛騎士】にまでなるとはなぁ。あっさり俺の現役時を超えやがって」


「学園長の教育あってこそですよ」


「ははは、そう言ってくれるのは嬉しいが、謙遜しなくていいぞ。お前は初めから他人ひととはモノが違ったからな。聖女様もいいの捕まえましたよ」


「ふふっ。でしょう? 学園長のお墨付きもありましたが、私の目に狂いはありませんでした」


「いえいえ。アルディカも運がいい。よかったな、お前の未来は安泰だぞ」


 うんうんと頷く学園長と聖女様は楽しそうだ。


 何度も交流しているし、仲がいいのだろう。


 俺も水を差さないように笑顔を浮かべておく。


「聖女様と学園長様のお話を伺うに、学生時代のルーガさんはそんなに凄かったのですか?」


「ああ。聖騎士になるために生まれてきたような男だったさ」


「まぁ……!!」


「遊びよりも練習。女よりも練習だったからな。剣に対して真摯だった」


「まぁ……」


 なんですか、その『今となっては上司のおっぱいのことばかり考えて……』みたいな落胆した目は。


 それに今でも剣に対する姿勢は変わってないから。本当だから。


「それでもね、アルディカの周りに人が絶えたことはないんですよ。困っている奴がいたら知り合いじゃなくても助けるお人好しでしたから」


「それが第六番団でもやっていける秘訣でしょう。さすがは私の」


「さすがは私たちのルーガ先輩ですね!」


「…………」


 あれ? 一気に空気が重たくなった気がする。


 シスターはなぜかガクブルと震えだしてるし、カルキア学園長は目線を手元のティーカップに落とした。


「ゴ、ゴホンっ! 話は戻すが、アルディカ。後で第四学年のところに顔を見せてやれ。お前に会いたがってる奴らがたくさんいるから」


「えっと……よろしいですか、聖女様」


「もちろんです、私の騎士。私が知らないルーガ副団長のこともぜひ知りたいですし。これから長い付き合いにもなるでしょうから」


「ありがとうございます、聖女様」


「その代わり、他にも案内してください。私の騎士の思い出話も聞きたいです」


「面白い話があるかはわかりませんが……承知いたしました」


 聖女様の寛大な判断に感謝だ。


 学生時代のエピソードならば聞かれてマズいものはない。


 聖騎士団に入ってからと比べれば平凡だろう。


「話がまとまったなら早速行ってくるといい。特にミツリのやつは喜ぶだろうな。お前にベッタリだったから」


「……学園長?」


「だ、大丈夫です、聖女様。兄妹みたいな間柄ですから」


 なにやら聖女様と学園長がヒソヒソと話している。


 内容が気になるが、俺は俺で『また新しい女ですか……?』みたいなマドカとシスターの視線に挟まれているので動けない。


 しかし、ミツリか……。


 懐かしい名前だな。一学年下の後輩で俺が学生時代には毎日引っ付いてきていた女子だ。


 もちろん練習の時も同じ鍛錬を積んでいたので実力もあるし、間違いなく今代の卒業十席に名を連ねるだろう。


「……というわけですので、期間中に必ずお二人のお時間を作り上げます」


「……カルキア学園長」


「……はい」


「よくやりました」


「ありがとうございます……!」


 本当に何のやりとりをしているんだ。


 学園長がこんなに頭を下げている姿は見たことない。


 元聖騎士で、退役後も学園長として聖騎士隊に関わっているのだ。


 やはり尊敬の心も人一倍強いのだろう。


「では、こちらのお話も終わりましたので第四学年のいる棟へと行きましょうか」


 そう言って、聖女様は微笑む。


「その後輩さんに会うのも楽しみですね」


「はい。自分も久しぶりなので再会が楽しみです」


「…………ふふっ」


 半年の間にどれくらい成長したのか。本当に楽しみだなぁ。


 ところで、シスター。


「あぁっ……ぁぁっ……」


 今日ずっと震えてばかりだけど寒いのかな?


 おかげですごく揺れている。


 シスター山脈が揺れている。

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