英雄でいるの疲れたし、拾った幼女達を育てたら隠居を…ってなんで俺に懐いてんの!?

彩雲あいら

プロローグ

粉雪のレモンパイ

凍花の月

例年より多くの雪が降り、王国を極寒の寒さが襲う真冬の街ーーの外れにある世界を支えるとされる大樹の図書館には甘い匂いが漂っていた。


「ほら、出来たぞ」

オーブンから取り出したバターの焼ける甘い香りとレモンの爽やかな香りがする丸い焼き菓子を不思議そうな顔で見つめる狐の少女を撫でながら呟く

「ん…うんまいな、久しぶりだったが上手くいった」

ナイフで切った一欠片を手掴みで持ち、味見する。

甘く香ばしいパイ生地の食感としっとりしたレモンの爽やかな風味が口の中で1つになる。妹のには遠く及ばないがーー美味しい

あとは卵液を塗ったことで照り光っている表面に雪のような粉砂糖で化粧付けをし、ミントの葉を添えて、完成。

「ほい、食べるだろ」

「いいの?」

(手にあるレモンパイをキラキラした目で見てる時点で分かってるしな)

少女の口元に食べかけのパイを持っていってやる

「いいに決まってるだろ。あーん」

「ん……!なにこれ!美味しい!!さくさくして、しっとりして、甘いのにたくさん食べれそう!」

「っ…おいおいまだあるから落ち着け、食い終わったからって俺の指を舐めるなよ、、」

狐の尻尾を左右にぱたぱたと動かして、一心不乱に食べ進める。ついには俺の指をぺろぺろと舐め始めた少女を抱っこしてやり、背中に手を回して宥める

「先生!おかわり!」

「わーったから、落ち着け。花白かしろが竜倒したお祝いなんだからいくらでも作ってやるよ」

「やったぁ!」

拾った時見せていた悲しそうな顔はもうない

7歳で数多の魔法を操る少女はーー今日も、最強の元英雄で教育者の腕の中で


今日も、笑っていた


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