1-2:〈スフィル・ワールド〉転移事件
20xx年3月31日。
今春、高校2年生に上がる女子高生の
そのゲームの名は、〈スフィル・ワールド〉。
つい数日前、突然リリースすると大々的に発表されたこのゲーム。
自他ともに認めるゲーマーで、日々新しいゲームを探し回っている凛ですら、世間と同じタイミングでその存在を知った。
つまり、事前の宣伝やβテスト等は一切なかったということだ。
リリース日は4月1日。
日数が限られているからなのか、制作側は宣伝にやたらと力を入れているらしい。
ネットでもテレビでも〈スフィル・ワールド〉の名を見ない日はなく、お堅いニュースですら、コメンテーターがその名を口にするほどだった。
事前インストールは、リリース日前日の3月31日だと発表された。
それと同時に公開された、プロモーションムービー。
そこに映る世界は、無料アプリとは思えないほどの美しさで、さらに人々を惹き付けた。
そして迎えた3月31日。
全国各地、老若男女を問わず、たくさんの人がインストールを行った。
みんな、リリースのその時を心待ちにして、各々いつも通りの日常を過ごしていた。
3月31日が終わる、その瞬間まで──。
◆◆◆
目を覚ますと、そこは見覚えのない草原。
いや、プロモーションムービーで見た世界によく似た草原に、凛は横たわっていた。
暖かい日差しが身体を包む。ふわりと気持ちのいい風が頬を吹き抜けていく。
その慣れない感覚に、寝惚けていた頭が一気に覚醒した凛は、勢いのままに立ち上がり、ぐるりと辺りを見渡した。
どこを見ても、どれだけ見ても、そこは間違いなく草原。
そして、その草原を埋め尽くすかのように、数え切れないほどの人々が横たわっていた。
自宅のベッドで寝ていたはずなのに。
そう思いながら、凛は自分の姿を確認する。
最後の記憶で着ていたパジャマ姿ではなく、何故か制服姿だった。
足元も、裸足だったはずがローファーを履いている。
周りの人たちも、私服というよりスーツや制服を着ている人が多かった。
混乱する凛の目の前に、半透明な画面が現れた。
初見だったが、そこはゲーマーの勘と知識を駆使し、恐る恐るその透き通った画面に手を伸ばす。
〝装備〟や〝アイテム一覧〟などの画面を全て読み飛ばし、目的の〝プレイヤー設定〟画面を開く。
初めに表示されたのは、今の自分と全く同じ姿をしたアバター。
その隣には凛の本名ではなく、〝プレイヤー名:カリン〟の表記。
それは、凛がゲームをする時に使用する名前で。
画面をじっと見つめながら、朧気に考えていた仮説が当たっていることを凛は確信していた。
ここは、〈スフィル・ワールド〉。
ゲームの世界なのだと。
◆◆◆
この、4月1日に起こった〈スフィル・ワールド〉転移事件を、ゲーム内にいるプレイヤー達は〝転移の日〟と呼ぶ。
プレイヤー達の転移直前の動きは様々ではあるが、誰も現実世界で死んだ憶えはない。そのため、〝転生〟ではなく〝転移〟だと解釈している。
とはいえ、みんな同じタイミングで転移をしてきているため、現実世界で自分が実際どうなっているのか、知ることは不可能だった。
言い表せぬ不安を抱えながら、それでも何とかプレイヤー達が生活を出来ているのは、この世界での〝死〟が、イコール消滅では無いからかもしれない。
ある状況下において、例え体力が0になっても、最後に立ち寄った教会やアイテムを使って保存したポイントからコンテニューが可能となっている。
その設定があまりにゲームらしくて、非現実的な世界観を強調していて、ほんの少しプレイヤー達に安心を与えているのかもしれない。
◆◆◆
〝転移の日〟から、はや3ヶ月。
プレイヤーは大きく3つのグループに別れていた。
1つ、現実世界へ帰るため、ただ攻略に向けて突き進む者。
2つ、安全第一で、街から出ない者。
3つ、ゲームとして〈スフィル・ワールド〉を楽しむ者。
凛ことカリンは間違いなく、3つ目のタイプだった。
ギルドなどの組織に一切属していない、珍しい女性ソロプレイヤーとして、カリンは〈スフィル・ワールド〉での生活を謳歌していた。
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