第63話 ブリュネとお話する
ブリュネが職員に言ってお茶と、レイ用にとホットミルクを用意してもらい、しばらく誰もこの部屋に近付かないように言いつけた。
アキヒサは「口で言っただけで守るのか?」と疑問に思ってしまうが、そう言えばブリュネは気配察知スキルが高かった。
なので誰かが盗み聞きしていると、すぐにわかるのだろう。
ともあれ、貰った飲み物を飲んで人心地ついたところで、ブリュネが口を開いた。
「スキルだけれどね。
これまでのワタシの苦労はなんだったのかと思ったわ、本当に」
ブリュネが言うには、これまでスキルは剣しか持っていないのだからと、戦いだと本当は投擲や格闘の方が得意だったのだが、いざという時のキメ技には剣を使っていたのだそうだ。
そのためには常に剣を所持していなければならず、当然だが剣は重い。
気配察知に投擲、格闘のレベルが高いとなると、ブリュネは本来はスピード重視の戦い方をするのだろう。
動きの制限があり体力を消耗する武器である剣の装備は、確かに向いていないと言える。
それでも得意分野のスキルを買わずに剣に拘ったのは、兵士の特別価格でなければ、スキルなんて到底買える値段ではないからだという。
「え、ギルドマスターですら、買えないんですか?」
アキヒサが考えるにギルドマスターとは、日本でいうところの大企業の支社長だろう。
それだとかなり稼いでいるのではないのだろうか?
このアキヒサの疑問に、ブリュネは肩をすくめる。
「いえね? ちょっと頑張れば買えなくもないわよ?
けれど、そうまでする価値があるのかってことね。
スキルを買って覚える技も、別にちょっと頑張れば自力でできるんなら『なぁんだ』ってなるじゃない?
金額と効果が釣り合わなければ、誰も買わないわ。
買うのは金持ちのコレクターくらいよ」
そんなことを話したブリュネが、「そうそう!」と手を叩いた。
「レベルでスキルの強さが違うのなら、もしかしてレベル差でスキル技も違うのかしらと思えば、案の定よ。
スキルレベルを意識して剣を振れば、教会で言われた技じゃない技が頭に浮かんだわ。
これまで、一つの技の威力が上がっていくだけだったのに」
この話に、アキヒサも驚く。
「え、これまでスキルの技が一つだけしか使えてなかったんですか!?」
アキヒサのまだ低レベルな料理スキルでも、『抽出』と『攪拌』という二つの技が使えるというのに、それが身に付くのがたった一つの技であるという前提だったら、それは確かにスキルを買うのを躊躇するだろう。
「アタシだってスキルにレベルっていうモノがあって、レベルによってできることが増えるってわかっていたら、考えたんでしょうケド。
そんな話聞いたこともないもの」
「なるほど」
アキヒサは相槌を打ちながら、レベルが知られていなかったことは何故だろうか? と考える。
教会がどうやってスキルをやり取りしているのかは謎だが、もしレベルシステムを知っていたら、金儲けの種にしそうなものだ。
となると、教会側にもレベルが見えていない可能性が高いだろう。
思えば鑑定というスキルのことを、ブリュネたちは知らなかった。
ということは、鑑定スキルは教会のスキルリストには載っていないのだろう。
教会が鑑定スキルの存在を隠している可能性もあるが、それにしてはお粗末だ。
教会にも鑑定スキル持ちがいなくて、あの司祭とやらが持っていた観察スキル止まりだとしたらどうだろう?
――もしかして、観察スキルじゃあスキルレベルが見えないとか?
アキヒサのこの疑問に、すかさずピコン♪ とパネルが反応した。
~~~
観察スキル
性別や身体的特徴、スキル名のみがわかるスキル。
レベルを上限まで上げると、鑑定スキルに変化が可能になる。
~~~
やはり、観察スキルでは所持スキル名だけが見えて、レベルが見えていないのだ。
アキヒサがパネルを見て一人で得心していると、ブリュネから不思議そうにされた。
「どうしたの? 急に黙っちゃって」
「え? いや……なんでもないです」
アキヒサはブリュネの前でパネルを出しているのだが、どうやらブリュネにはこのパネルが見えていないらしい。
レイには見えるというのに、である。
もしやこのパネルは、鑑定能力固有の能力なのだろうか?
そしてレイに見えるのは生体兵器だからというのが、一番しっくりくる答えだろう。
――それに鑑定能力者ごとに見え方が違うとかも、あるかも?
このパネルは、アキヒサの中で異世界イコールRPGというイメージの産物なのかもしれない。
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