第二十三夜 駐車場の女

 日勤に充てられたKさんがお昼に休憩しようと、工場の屋外に設置された喫煙所に向かう途中で、構内の駐車場に髪の長い女を見かけた。すでに幽霊というものに慣れてしまっていたKさんはその存在を気にすることなく、ありふれた日常に溶け込ませることを覚えていた。いわば、当然のように認識しないのである。今回もまたその女を無視することにした。

 女は黒いランドクルーズの運転席側のドアをしきりに開けようとしている。ガタ、ガタと取っ手のぶつかる音がする。周囲にも喫煙所に向かうひとはいるが、誰もそれを気に留める者は誰一人いない。

 喫煙所から戻るときには女の姿は消えていた。


 Kさんが帰宅する頃にはもう日が傾きかけていた。鍵を持って駐車場に向かうと、お昼にいた女がまた黒いランドクルーザーに張り付いている。あの車は製造三課の課長の車だ。あれは憑りつかれてるな。Kさんは気の毒に思いながらも、見えるものが下手にかかわるとろくなことがないことを学んだために、それをどうすることもしなかった。


 その日の夜、製造三課の課長は交通事故に遭った。直線道路で急にハンドルを切ってガードレールに衝突し、単独事故を起こしたという。聞くところによると、課長のランドクルーザーには誰のものかわからない長い髪の毛がハンドルに巻き付いていたという。

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