Close to you 可愛い女の子達は海斗を求めた

小鳥遊 正 (タカナシ ショウ)

第1話 新しい家族

 真っ青な空、歩道のサツキは美しい新緑を覆うように真っ白な花が輝いていた。家の前にトラックが停車した。伏見海斗はカラカラと鳴るトラックのエンジン音で目が覚めた。父親の再婚相手が来る日に寝坊したのだ。慌てて身支度を整え、リビングへ駆け下りた。


 ソファーには、既に再婚相手が座っていた。父、伏見正太郎は言った。

「海斗、ココ、ココに座りなさい」

海斗は正太郎の横に座った。


 正太郎は紹介を始めた。

「こちらは再婚相手の明子さん、隣が葵ちゃん、そして猫のハナだ。葵ちゃんは引越を機に、海斗と同じ学校の中等部3年生に転入する事になったから、いろいろと宜しく頼むよ……それと、海斗の紹介は済ませておいたからな」


 海斗は小学校四年生の頃に母を病気で亡くした。母が居なくても何でも出来るようになったが、いつしか母親の存在に憧れを抱くようになっていた。しかし新しい母を受け入れる事は、生みの母を否定する様で海斗は複雑な感情があった。

 葵は猫を入れたゲージを持って一言も喋ら無かった。ただただ、緊張をしている様子だった。


 海斗は連れ子の存在について、まったく聞かされていなかったので、どの様に接して良いのか考えていた。海斗は緊張している葵を見つめた。

「葵さん、伏見家に来てくれて有り難う、いっぱい心配していると思うけど、何でも相談してね。頼れるお兄ちゃんになるからね。お互いに少しずつ慣れていこうね。

それと……明子さん、これから宜しくお願いします」


 不意に投げかけた言葉は、正太郎と明子、そして葵の心を緊張から解放するものであった。正太郎が今日まで説明をしなかったのは、面倒な話になるくらいなら、いきなり合わせ無意味な口論を省く狙いが有ったからだ。


 そして男二人の家に、華やかな女性二人と猫一匹が加わった。次々とトラックから荷物が運び込まれ、空けておいた部屋は沢山の段ボールで埋まった。兄妹のいない海斗にとって、妹の存在は未知である。妹とは名ばかりで二歳年下の女の子が、いきなり同じ家に住み生活をする事に不安と期待が有った。この日は遅くまで荷物の片付けとなったが、海斗は恥ずかしくて部屋にこもっていた。


 翌朝、海斗の生活が一変した。いつもの様に朝食の準備に下りると、廊下まで美味しい香りが広がっていた。


 海斗はドアを開けた。

「海斗さん、おはよう、早いのね……」


 明子は朝食の支度をしていた。海斗は朝食の支度から解放された事に気が付いた。明子の隣には、エプロンを付けた女の子の姿が有った。

「おはよう、さん」

たどたどしくも、昨日は無口だった葵の初めての声だった。

「お、おはよう、明子さん、葵さん、朝食を作ってくれて有難う」

「いいのよ、これからは私の仕事だから、テーブルに着いてテレビでも見ていてね」


 海斗は明子に促がされ席に着くと、先に座っていた正太郎は、にんまりしていた。正太郎は照れ臭そうに言った。

「なあ海斗、こう言うのも、良いもんだな」

「う、うん」


 海斗は正太郎以上に、照れ臭い顔をしていた。確かに良いものだけれど、他人がキッチンに立っている事が不自然に思えた。もっと不自然なのは、血の繋がっていない女の子が妹になったことだ。

 海斗は葵を見ながら思った。葵さんって可愛いな、エプロン姿もすごく似合っている。昨日は下を向いていたからよく分らなかったけれど、こんなに可愛い子が同じ家に住み、朝食作りの手伝をしているなんて夢のようだ。


 今まで目玉焼きとトーストだった朝食が一変した。ご飯に味噌汁、焼き魚まで並んだのだ。海斗と正太郎は顔を見合わせた。味気ない朝食が、暖かく愛情の感じられる朝食に変わったのだ。四人で一緒に暖かい朝食を食べた。食べ終わる頃に正太郎は海斗に言った。

「この後、一休みしたら荷物を片付けるぞ。海斗も手伝ってくれ」

「う、うん」

 正太郎は家族の調和を見守る為に、引越をこの大型連休の初日としたのだ。

「明後日は横浜国際仮装行列が有るから、皆で見に行こうね。山下公園に見て、中華街で食事をしよう。そうそう、この時期の横浜税関前のサツキはとっても綺麗なんだよね……」

 正太郎は張り切っていた。明子も葵も楽しみに話を聞いていた。正太郎はゴールデンウィークを家族の調和に勤めたのであった。

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