第11話 相談したいこと

 私は、今日もエルクル様の元に訪れていた。

 婚約者になってから、私は彼の元に何度も行っていた。もちろん、それは婚約者という立場だから、会いに行っているというのもある。

 しかし、私がエルクル様の元に行くのは、彼と話すのが楽しいからだ。彼は、私の表情をわかってくれる。そんな彼と話すのは、誰と話すより至福の時間なのだ。


「エルクル様、少し相談があるのですけど、よろしいでしょうか?」

「はい? なんですか? 僕で良ければ、相談に乗りますよ」


 しかし、私はいつまでもこのままでいいとは思っていなかった。

 私は、鉄仮面を外したいと思っている。それは、エルクル様と出会う前から、変わっていない。

 今まで、私はそれを一人で実行しようとしていた。なんというか、誰かにこういうことを言えなかったからである。

 基本的に、私に接する人は、この無表情を不気味に思う。そういう人に対して、相談することはできなかったのだ。


「実は、私は表情を取り戻したいと思っているのです」

「ほう?」

「だから、エルクル様に協力してもらいたいのです」


 だが、目の前にいる王子は、私のことを不気味などとは思わない。

 そのような彼になら、この悩みを打ち明けられると思ったのだ。

 そして、きっと協力してくれるだろう。私の鉄仮面を打ち破る策を、一緒に考えてくれるはずだ。


「協力ですか……もちろん構いません。一緒に表情を取り戻しましょう」

「ありがとうございます……」


 私の予想通り、エルクル様は快く了承してくれた。

 それは、とても嬉しいことだった。今までは、孤独に戦ってきたが、協力者ができたのである。これ程、喜ばしいことは他にない。

 一人でも協力者がいると、とても頼りになるし、やる気も出てくる。一人の時とは、大きな違いだ。


「ただ、なんだか、少しだけ残念な気持ちもありますね……」

「残念な気持ち?」

「あ、いえ、本当に不謹慎だと思うのですが、今、僕はあなたの表情を独り占めしています。それができなくなるというのは、少しだけ残念だと思いまして……」


 そこで、エルクル様はそのようなことを言ってきた。

 どうやら、彼は私の表情に独占欲のようなものを感じていたようだ。

 その欲望に対して、私は少し揺れていた。そのように思ってくれることが、意外と嬉しかったからである。

 別に、このままでもいいのではないか。そのように思ってしまう。

 しかし、それでは駄目なのだ。私は、王子の妻になる。そんな私が、いつまでも無表情ではいけないだろう。

 こうして、私は自身の表情を取り戻すことを固く決意するのだった。

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