エピローグ

 大団円のラストシーンが終わり、ジャンは舞台上にいる俳優達に惜しみない拍手を送る。

 満員の観客席には、田舎から出てきて新作の初日を観に来たというトーマスの両親や、ジャンが招待したマリアとソフィが楽しげに話しながら手を叩く姿。ジャンの隣では、お忍びで観劇に来ていた女王陛下が、満足気な笑みを浮かべ舞台を見つめている。


 観客達の熱狂の中心にいるのは、今回トーマスの戯曲の主役を演じたニコラスと、その妻を演じたヒロイン、ロイ。ジャンの愛しい恋人。今や堂々と新たなヒロインを演じきり、人々の喝采を浴びるロイの姿は、ジャンを誇らしい気持ちにさせる。


 ロイは観客席に立つジャンの姿を見つけると、花開くような笑顔で笑いかけてきた。

 その笑顔は、さっきまで演じていたヒロインの顔ではない、ジャンだけに向けられる、特別な笑顔。



「それではこの戯曲の作者をここにお呼び致します」


 観客達の止まない拍手に応えるように、ダニエルとオリヴァーがトーマスを呼び寄せ、トーマスが舞台上に現れる。

 ジャンと同じ劇作家であり、唯一、ジャンとロイの関係を知っている、無二の親友。

 ジャンは、観客に挨拶するトーマスの姿を眺めながら、ロイと恋人同士になったと伝えた時の、トーマスとの会話を思いだしていた。


『よかったな、誰がなんと言おうと、俺はおまえ達を祝福する』

『ありがとう』

『ただ、わかってると思うけど、十分気をつけろよ』

『ああ…』


 この幸せは舞台と同じ、永遠に続くものではない。父の策略に打ち勝ったことで、ジャンは今、オーク座の劇作家として仕事に邁進し、ロイと結ばれ、我が世の春を謳歌しているが、ジャンが女王の庇護を失えば、父は間違いなく、次の手を打ってくるだろう。

 しかしジャンは、自分の気持ちを殺してロイから離れようとしていた時よりも、愛する人と、心も身体も結ばれた今の方が、ずっと幸福だった。


 拍手を浴びるオーク座の俳優達の生き生きとした表情、観客達の歓声。そして、誰よりも大切な恋人、ロイの屈託ない無邪気な笑顔。


(絶対に、失いたくない)


 この、ようやく手に入れた楽園を守るために

自分は全てを捧げ、この先何が起ころうと、決して諦めずに戦い続ける。

 強い決意を胸に、舞台に立つロイの姿を愛しげに見つめた。


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