「勘弁してくれよ！せっかくエドワード伯爵がアリアンに相応しい少年俳優を用意してくれたのに、辞めさせたってどういうことだ？」

「仕方ないだろ、俺のイメージと違ったんだ」

「そんなの今更言うことじゃねえだろ！公演まであと二週間なんだぞ！」

「だから悪かったと言ってるだろう？少し落ち着けよ」

「これが落ち着いてられるか！」

　口では悪いと謝りながら、全く悪びれる様子のないジャンに、トーマスは大声で捲したてる。学生時代からの友人で、ジャンの性格を十分わかっていたトーマスは、合作の誘いが来た時も正直不安はあった。それでも思い切ってこの依頼を引き受けたのは、今回の舞台がトーマスにとってもチャンスだったからだ。

　ジャンの強力なパトロンでオーク座の所有者でもあるエドワード伯爵が、この公演が成功したら、トーマスとも座付きの劇作家として契約すると約束してくれていたのだ。だからこそ、そのチャンスを棒にふるかもしれない事態に、到底怒りを鎮めることなどできるはずがない。

「おまえはいいよ！所詮俺とは生まれも育ちも違う貴族様だからな、今回の公演ができなくなってもどうせ何も困らないだろうよ！だけど俺は…」

　だがそこまで言って、トーマスはつい感情のまま、ジャンの前で一番言ってはいけない言葉を発した事に気付き口を噤む。案の定、それまで形だけはトーマスの下手に出ていたジャンの顔は、怒りも露わに歪んでいた。

「いや、別に俺も、お前がお遊びで劇作家やってるとは思っていないし、そういうことを言ってるんじゃなくてだな…」

「わかったよ」

「え？」

「そこまで言うなら、俺が今日中に演技力抜群の美少年見つけてきてやる！」

「いや待て！それよりエドワード伯爵に相談してオーディションとか…」

「うるせー！余計なことしたら金輪際おまえとは絶交だからな！おとなしく待ってろ！」

「おい！ジャン！」

　呼び止めるトーマスの話を聞こうともせずジャンは部屋から出て行き、乱暴に閉められたドアの前で、トーマスは大きくため息をついた。

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