7000年人形を作り続けた引きこもり魔術師、外に出て世界を救う
イカのすり身
プロローグ
第1話 プロローグ1
(はーはっはっは! ついに、ついに完成したぞ! 記念すべき俺の10000体目の人形、搭乗型最終兵器……名前は、そうだなタナトスにしようか)
俺は人形製作用の義腕50本全てをだらんとぶら下げながら考える。考えるだけで喋ることはできない。なぜならば今の俺は脳みそと脊髄だけが本体で、他の人形製作に不要な器官は全て捨ててしまったからだ。誰とも喋る必要はないので口は捨てた。視覚センサーと聴覚センサーはいくつかの義腕に付けてある。人形製作に必要だからな。剥き出しの脳みそと脊髄に何本も義腕が生え、裏返したダンゴムシのような生き物、それが俺だ。この姿で引きこもって一人で延々と人形作りに精を出し、もう7000年は過ぎた。
「マスター、タナトスという名前はナンバー6666にもう使用しています」
〈
ノートは俺の382 体目の人形で、
(そうか。ならばタナトス・マーク2だ)
「そうやってまた適当に名前を付けて……」
ノートの小言をよそに俺は義腕を操作して〈
(……あぁ、きた……きたきたきた!)
この白い粉は快楽物質だ。これを脳に直接ふりかけると、一発でキマって俺は神になれる。
(きっもちいいいいぜぇ! 今の俺の思考は最高にクリアだ。この俺の思考は全て本にして取っておいた方がいい。人類の財産になるはずだ。なにせ俺はこの世の真理に最も近いところにいるからな。愛してるぜ、タナトス・マーク2、君は神だ。いや、俺こそが神なのだ!)
「マスター、また薬ですかぁ……はぁ、まったく」
(うるさいな。ノート、神の助手である君にタナトス・マーク2の起動テストは任せた。俺はしばしこの達成の余韻に浸らねばタナトス・マーク2が悲しむ)
「はーい」
俺が人形を作り上げた達成感と白い粉の快感に酔いしれていると、神であるこの俺でさえ意味を理解できない音声がふいに聞こえた。
(……なんだ? 幻聴か? ノート、何か言ったか?)
「そんな、あり得ない……どうしてここまで人が? 門番ゴーレムたちを全て倒してきたというのですか?」
ノートが呆然と見つめる先を視覚センサーでぎょるりと見る。
———そこには、俺の理想の女性がいた。
(やっぱり、俺は幻覚を見ているのだろう)
(木漏れ日を集めて作ったような長い銀色の髪)
(傷一つない生まれたての月のような肌)
(目、眉、鼻、口、耳、鎖骨、三角筋……いや、もうどれをとっても全てが完璧なプロポーションで配置されている)
(こんな完璧な存在が、俺の人形以外に存在していいのか?)
「—————!」
理想の女性はなにかを俺に向かって言っているようだが、俺はそれを理解できない。
「お前が暗黒森林に住むという魔王か? その兵器で人類を脅かすなら、ここで死んでもらう……と、マスターに言っています」
(ノート、お前言葉が分かるのか? ……何で?)
「……もしものために、外の世界の言語や基礎情報を分体ゴーレムを使って調査していました」
(そんな命令は出していないが、まあいい、役に立ったから不問だ。その言語を俺にインストールしてくれ)
「はい」
ノートの頭から俺に言語知識が流れ込んでくる。
「返答なしか。おぞましい化け物め……切る」
理想の女性がそういうのが聞き取れた。それと同時に彼女は腰から剣を抜き、凄まじいスピードで俺の懐に飛び込んでくると、義腕を全て叩き切った。
「マスター!」
ノートがそう叫ぶが、義腕を全て切り落とされた俺にはもう聞こえない。脳みそと脊髄だけになった俺はべちゃりと地面に落っこちた。理想の女性が、芋虫のような俺の上に馬乗りになって剣を振り上げるのがなんとなくわかった。
(あぁ、こんな完璧な女性に殺されるなら、ありかもしれない)
そんな風に俺はあっさりと死を覚悟した。
……。
だが、なかなか死はやってこない。
俺は先ほど切り落とされた視覚センサーと聴覚センサーのついた義腕を再接続する。センサーから脳に視覚情報が流れ、理想の女性が泣いている光景が見えた。
「あぁ……マスター! あなたの魔力に触れて全て思い出しました。あなたは、私のマスターですね? 私は、マスターになんということをっ……」
彼女の涙が俺の脳みそにこぼれ落ちる。
(……俺が、マスター?)
「……分かりました。その女性はナンバー7671、オリンピア。1000年前にマスターが自分の肋骨から心を持った人形を24体作り、そして捨てた人形のうちの一つです」
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