第40話 猫じゃらしが運ぶ喧騒


「はいはーい、こっちですよー」


 俺は今、マラルルスを旅行の添乗員の様に引き連れていた。どうしてこうなったかと言うと、どうやら猫じゃらしが好きだったみたいなのだ。


 猫じゃらしが出た時はあぁ終わったんだなって思ったが、何も殺す必要はなかった。飼い慣らすと言う方法もあったのだ。


 俺は猫じゃらしをマラルルス顔の前に持っていき、食べそうになると少し引き離して移動させる。そして、それを何度か繰り返したら食わせる。それだけだ。もし、猫じゃらしをケチって逆上されたらたまらないからな。


 猫じゃらしは無限だから、あるのに食わせないで怒らせるのはアホらしい。


 そんな地道な作業を繰り返しているとようやく俺の街が見えてきた。なんだかいつもよりも騒がしい気がするが気のせず行こう。それに気を抜くと俺の腕ごと喰われかねないからな。


 あ、そういえばこのマラルルスどこに持っていけばいいんだ? 倒したらそのまま持っていけばよかったんだろうが、生きてるからなー。


 どうしよう、そう思った時だった。


「ちょ、ちょっとヤマダさん!? 何してるんですか!」


 道の向こうから受付さんが走ってやってきて開口一番そう言った。


「何をするも何もマラルルスを連れてきたんですけど」


「いや、連れてくるって……いいですか? 狩猟って倒すか捕獲するって言う意味なんですよ? 倒すということは文字通り息の根を止める、捕獲するっていうのは生きている状態で身動きが取れない状態にすることを言うんですよ? これはそのどちらでもありませんっ!」


 なんでこの受付さんはこんなにもヒートアップしているのだろうか?


「ほら、このマラルルスも身動きほとんど取れないですよ? だから捕獲認定でいけますよね? とりあえずコイツどこに運べばいいですかね? おっと危ない」


 受付さんに話すことにばかり意識を向けていたら危うく手をいかれるところだった。全く油断も隙もない奴だ。俺はそのまままた猫じゃらしを……ここで生成するのは衆目がありすぎるから、ポケットから取り出すフリをして出した。


「はぁ、全くそのどこが身動きの取れない状態って言うんですか! と、とりあえず倉庫の方まで連れてきてください。私はギルドマスターに連絡してきます!」


 そう言って受付さんは踵を返した。


「ちょっと待ってください! 倉庫って、、、どこですか?」


「はぁ……こっちです」


 ❇︎


 その後、倉庫へと受付さんに案内された俺は猫じゃらしで適当にマラルルスをあやしながら時間を潰した。それにしてもギルドマスターに連絡するってそんな一大事なのか? マラルルスを殺せないから連れてきたって言うのに、全くどうしてこうなったんだ?


「フォッフォッフォー、まさか本当にマラルルスを生きたまま連れてくる者がいるとはのう。生きておれば面白いこともあるもんじゃ」


 俺が何本の猫じゃらしを使った数えるのを諦めた頃、その人物はやってきた。その人物はとても背が低く更には真っ白な髭がその身長の約三分の一ほどにまで伸びている男性だった。


 しかし、不思議と不潔感はなく、柔和そうな目はどこか優しいおじいさんを彷彿とさせた。


「ぎ、ギルドマスター?」


「いかにも、儂がこの街の冒険者ギルドギルドマスターのズィンじゃ」

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